第3話 試合のゴングを鳴らすものを決めますか?
始業式が終わり、俺たち生徒会役員は椅子片付けの手伝いをしている。 今田さんの驚愕発言があり、今回の始業式は少し荒れてしまうのではないか、と内心はらはらしていたのだ。 何故なら、前にも言った通り今期の生徒会役員は、花の生徒会役員、と謳われていることもあり、当然のように朝野さんのファンクラブも存在している。 その人達が今田さんの発言に腹を立たせ、体育館内で喧嘩でも始められたら、と考えるだけで身体が身震いしてしまう。考えていた事にはならずに式を終えれた事に胸を撫で下ろしている、俺は身近にあったパイプ椅子を右手に二つ、左手に二つ、計四つ持ち、ステージの下に位置する椅子の片付け場に運ぶ。 それを繰り返し繰り返し行い、ようやく何時もの体育館に戻っていく。 下に引かれたシートも美化委員の男子と協力しながらテキパキと片付けていく。
そうやって時が経つこと二十分で、俺たちは何もない体育館にへと戻すと、自分の教室へと戻った。
俺の教室は2-Aと、昇降口前に貼られた全生徒のクラス替えの詳細が書かれたプリントに書かれていた。 生徒会役員で同じクラスになったのは、と俺は小学生が自分の友達と同じクラスかどうか確認するのと同じように、名前を探し始める。
2-B...誰も無い、2-C...ここにも無い、2-Dは推薦で入学してきたクラスだから無いに決まっいる、だったら、2-E...あれ?ここにも無いぞ? まさか...俺は背筋に冷たいものが走る感覚を覚えながら、自らのクラスである2-Aの女子の名前を確認してみる。 すると、
「うわぁ...生徒会役員集合してんじゃねぇーか」
まさかの事態とはこのことだろう。 七人もいる生徒会役員は基本的に二人くらいは同じクラスになることはあるが、全員一緒という事は聞いたことも無い。 いや、普通ありえないだろ。
「あ、もしかして、これって生徒会役員皆んなA組なの?」
後から来て、クラスを確認し始めた井上さんが、その異常なクラス分けに気がつく。
「か、会長! これは何かの印刷ミスでは? 生徒会役員全員が同じクラスなのはどう考えても変ですよ!」
すると、会長は頬やかな笑みを浮かべながら、
「変でも何でも良いよ〜!皆んなと一年間同じクラスなんて楽しそうじゃない? それに、私しゅー君と同じクラスなるの初めてだし!」
と、身体中から溢れる楽しさを俺にぶつけながら微笑みを崩さず返した。 会長を見て思い出したのだが、この学園のクラス分けは教師陣によるクジ引きで選んでいると聞いたことがある。 所詮漫画の世界だけしかそんな事はしないだろう、という盲点を突いた行動らしいが...。
「楽しみ...ですか? 俺は、少し嫌な感じがします。 何か良くないことが起こりそうで」
俺は気付けばそんな言葉を会長にこぼしていた。
「しゅー君は、私達と同じクラスになりたく無かったの?」
すると、会長は俺の顔をのぞきこむような体勢をして、そう返す。
「いえ、皆さんと同じクラスになれた事は正直嬉しいです。 知っての通り俺には友達が少ないので。 でも、なんか俺が他の人に迷惑をかけてしまうのではないか、そんなモヤモヤが心に引っかかっているんです」
俺は、情けない事を言っているな、と言いながら思う。 又は自意識過剰、と言うべきかもしれない。 自分が他の人に迷惑をかけてしまうほど、信頼されていると勝手に思い込んでいるただの自意識過剰だと。
「大丈夫だよ。 そんな事は起きないし、仮に起きたとしても、今日しゅー君が真紀ちゃんを助けた風に、私達も誰かを助けると思うから」
それだけ言うと、会長は昇降口に入り、教室を目指すべく前を歩き始める。 そして、少し前に行った所で、こちらに右手を伸ばしてくる。
「行こ! しゅー君!」
俺はその言葉に微笑みを交えながら、
「しゅー君と呼ばないでくださいって朝も言いましたよね」
とだけ、言うと差し伸べられた手を俺は自分の右の手で包んだ。
教室に着いた俺を迎えたのは、杏樹さんだった。 並ならぬ慌ただしさをかもし出しながら、教室の扉を開けた俺の元に駆け寄ってくる。 どうかしたのだろうか?
「副会長様よ、あんたって人は...」
「ど、どうかしましたか?」
俺はあのいつも元気あふれる杏樹さんが珍しく下を向いていることに、慣れない感じを覚えながら、問い返す。
「めっちゃカッコよかったよ! ありゃー、朝野もイチコロにやられちゃうよ。 ほれ見てみ、あの窓側の一番後ろの席」
そう言って、杏樹さんが指した席は、朝野さんが座っていた。 が、いつもの冷静な朝野さんではなく、顔を真っ赤にしてあたふたしているが。
「俺、何かマズイこと言いましたか?」
俺は不安になりそう尋ねる。
「マズイこと言ってたら、今頃朝野に叱られてるだろうよ。 それが無いってことは、良かったんじゃねぇか? まぁ、問題というより、懸念はあるがな」
「懸念、ですか?」
「あぁ、全校生徒の前であんなこと言っちまったら、副会長様の人気の上昇を更に加速させちまうし、朝野のファンクラブの連中も怖いな」
ファンクラブ、これに睨まれると陰険で執拗なイジメを食らうと言われている。 流石にそれを食らうのは勘弁してほしいな。
「ところで、副会長様」
急に声のテンションを変えて、杏樹さんは俺の顔を見つめてくる。 その行為に一瞬胸がドキッとしたが、そんなことがバレれば冷やかされるに決まっているので、俺は真剣に冷静を装った。
「ど、どうかしましたか?」
「体育館で後で話聞いてくれるって言ってくれただろ?」
そういえばそんな話をしたような気もする。
「あぁ、そうでしたね」
「だろ? んでだな、あたしの話ってのはー」
杏樹さんが、話そうとした正にその時、
「SHRするぞ〜!席についてくれー」
教室に教師という何とも空気の読めない人が入って来て、結局杏樹さんの会話は又しても聞けなかった。
「ちっ! 何であんなにもKYなんだよ、あの先生は!」
杏樹は、空気の読めない先生を睨みながら、そんなことを心の中で叫んだ。 伝えようと思ったのに、伝えなければ伝わらないと思ったのに。 色んな人が邪魔をしてくる。
「やっぱ一筋縄じゃいかないよなー」
このクラス分けに、生徒会役員が入り込む余地はない。 だからこそ、これは神様が与えてくれた試練だと杏樹は思った。 去年、生徒会役員が生徒投票で決まり、唯一の男子で副会長になった、あの人を賭け
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