第3話

 「ふあぁ……」

 春の日差しが窓から差し込み、目を覚ました。

 今日は土曜日なので大学も休み、サークルも基本的には土日はなく、バイトも午後から。

 昨日が金曜日でよかった、と瑠依は思った。

 晩御飯の肉じゃがを作った後、そのまま疲れて寝てしまったようだ。

 時計を見るともう九時を回っていた。

 テーブルの上にあったテレビのリモコンを手に取り電源をつけた。画面に映ったのはニュースの女性アナウンサーだ。


「速報です。昨日未明、行方不明の幼児六人が無事発見されました。

 幼児たちは〇〇公園で、近所の住民が見つけたそうです。

 警察は、幼児たちについて詳しく捜査する方針です」


 なんとなく聞いたそのニュースに、行方不明、無事の二つのキーワードが頭の中でインプットされた。

 昨日、何かあったような。まだ完全に目を覚ましていない脳に無理やり思い出させる。

 考えながらバッグの中を漁ると、妙な形をした機械があった。


 とりだすと、プラスマイナススイッチがあった。

 思い出した。そうだ、コイツが叶えたんだ。

 まてよ、あのクソじじいの発明にこんな画期的、いや、ドラ●もんのようなあったらいいな的な道具を開発できるはずがない。

 何しろあのジジイ、米田 壮介は頭がおかしい。いや、頭が良すぎて一周回ってバカだとというべきだろうか。

 例えば、たかがカップラーメンに湯を入れるだけなのに、スイッチ一つで自動でできるマシンを作ったり、極上ドリップコーヒーを作るために湯を注ぐ時間を計算し、相棒の右京さんの紅茶を注ぐシーンのように高く上げる機会を作ったりと、手を使えばできることをわざわざ機会を作った。その度にサークルメンバーに誇らしげに自慢するのが毎回恒例だ。だが、八割は失敗してガラクタ化してしまったが。

 そんな米田さんがまともな機会を作れるはずかがない。絶対嘘だ、と瑠依は自分に言い聞かせた。


 スマホを開けると、俊輔からラインが来ていた。

『なな、ヤバいよコイツ!

 ホントに叶ったんだけど!

 先生、今回の発明は成功だな!』


 マジかよ。俊輔は基本バカなことしか願わないはずだ。なら、黒田に聞いてみよう。

『プラマイスイッチどう?』

 とラインを送った。


 ピロン、と通知音がすぐ鳴った。

『最高。』


 瑠依はすぐに返信した。

『何お願いしたの?』

 黒田はすぐ返信した。

『昨日のバーゲンしてる店と特売日のリスト』

『www黒田らしいな』

『波田くんは何かお願いした?』

『一応試しにお願いしたけど、まだ叶ってない』

『そっか

 はやく叶うといいね』

 黒田はニッコリ笑顔のスタンプを送った。


 黒田は母子家庭で育ち、三人の弟と一人の妹がいる。

 母親は仕事で忙しく、家事は基本的に黒田がしている。

 節約が趣味の一つになっているので、バーゲンに力を入れるのは黒田らしい。


 午後からバイトなので、支度を始めた。

 風呂に入ってシャワーをし、体を洗った。ドライヤーで頭を乾かし、白のコットンシャツにブラックのジーンズ、青のパーカーを着て、自転車でバイトに向かった。


 裏から入ると、日向先輩がやけに上機嫌に商品を整理していた。

「こんにちは」

「おぉ、波田、おはよう」

 いつもより元気に日向先輩は挨拶をした。

「なぁ、聞いてくれよ波田くん!」

 日向先輩は、瑠衣の肩に手を回してきた。

「なんですか、いいことあったんですか?」

「ふっふっふ……」

 ニヤッと笑った。


「オレ、彼氏できた」

「え、ええぇぇぇ!」

「う、嘘ですよね⁉」

 驚きのあまり、本音がポロっとでてしまった。

「なんだよ、失礼だな。こんなことで嘘ついてどうすんだよ。できたのは事実だよ」

すこし溜息をしながら先輩は笑った。

「ま、まさか……セ、先輩に、か、彼氏が本当にできるとは…… 」

 動揺が隠せない。

「んー? どうしたのかなー? 瑠依くんー? あ、彼氏できた祝いに何か奢ってくれたらオレ嬉しいなー?」ニヤニヤしながら言ってきた。

「オレって、先輩女子なんだから、一人称を私かうちにしてくださいよ 」

「えーいいじゃん。それぐらい。ねぇ何か奢ってー」

「セクハラですか。訴えますよ?」

「えー瑠依くんひーどーいー」


 いつものマシンガントークする先輩は今日、どこか幸せそうな顔をしていた。





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