第40話 〈目覚めの時〉
「う……」
リュウモは漂ってきたいい匂いに釣られて目を覚ました。
「なんだが、さすがは子供だな。腹が減れば勝手に起きるか」
声にびっくりして、リュウモはその場から跳ね起きる。
「行儀の悪い奴だな。それとも、これがお前らなりの朝の起き方なのかおい」
岩でもあらわれたのかと思った。リュウモがそう感じるほど、目の前にいる男の体は大きくがっしりとしていた。村でも、ここまで背が高い人間は見たことがない。まるで熊だ。
「貴方、は……?」
「ガウン。その前にまず食え。話はそれからだ。でないと力が出ないだろ」
言われた通り、盆の上に置いてある料理にかぶりついた。
魚と米、それに味噌汁まであった。すぐに料理は空になる。
「美味しい、です」
「ほう、〈青眼〉の奴も、俺らと同じ味覚をしてるんだな、ちょいと安心したぜ」
はっとして目を隠そうとしたが、笠もなにも落としてしまった。あるのは〈龍赦笛〉だけだった。〈龍王刀〉は『黒竜』の胸に突き立てられたままだ。
「あの、ありがとうございました、おれは、リュウモ、です」
声がすこし掠れていた。叫び倒していたからかもしれない。
「さっきも言ったが、ガウンだ」
「どうして、おれを?」
〈青眼〉をした人間がどう扱われるかなど、身に染みて知っている。関わりのない人間である自分を助けた訳が、リュウモにはわからなかった。
「まあ、〈青眼〉のやつを、子供でも招き入れるのは不吉を案内したのと同じだ。正直言えば、俺は普通なら放っておいたさ。これが、お前の近くに落ちてなければな」
ガウンは、握っていた掌を開いて、それを見せた。
小さな袋に縄が通してあり、お守りとして持っていることができるそれを。
「あ……ガジンさんの――よかった」
これを手渡された時、ガジンは言っていた。故郷を出る時に、兄から贈られた幸運を呼ぶお守りだと。
ところどころが汚れ、染みが多いが、それだけ長い間大切に扱われてきた物。
無くしたらどうしようかと思っていたところだった。リュウモはほっとした。
「やっぱり、お前、ガジンの知り合いか。これを渡されるぐらいには、親しいらしいな」
「おれが、盗ったとか、言わないんですか?」
ガウンは鼻を鳴らした。
「馬鹿言うな。あれ相手に盗みなんかできるものかよ。俺の弟はそこまで愚鈍じゃないぞ」
――弟。
そう言ったガウンの顔を、リュウモはまじまじと観察した。
ガジンの顔つきは、不愛想、不器用をあらわしたかのようだった。
ガウンは、相手を威嚇しているかのように感じる。眉間に皺が寄っているのも、助長している。はっきり言って、怖い。人殺しの過去があると言われても、疑うことなく信じ切ってしまいそうだ。
リュウモは、悩んだ。家族であるなら事情を話してはいいのではという考えと、ガジンが他言すべいではないと言っていた経験がせめぎ合う。
「実は、話せない事情があって……」
巻き込みたくない。その思いが勝ち、リュウモは言葉を濁した。
「ああ、〈八竜槍〉の秘密裏な任務ってやつか。のわりにはあの野郎、子供を守れてねーな。帰ってきたら文句を言ってやる」
ガウンは自己解釈してくれたようだ。口調にすこしだけ心当たりがあるような感じがあったのは、過去になにかあったからかもしれない。
「なにか、あったんですか?」
また、悪い癖が出て、慌ててリュウモは口を閉じた。ガウンは気に障った様子もなく、話してくれた。
「別に珍しいことじゃない。〈八竜槍〉の身内となりゃ、ガジンが表に出せない任務中は、俺らの警護はずっと厳重になんのさ」
がしがし、と襟足辺りを擦った。その動きが、ガジンとそっくりだった。
「まったく、最初はおっどろいたもんだ。帝の勅使が来るわ、護衛が詰める番屋が作られるわの大騒ぎだったよ」
〈八竜槍〉の身内は特に厳重に警備される。人質にでもされれば面倒だからだ。
個人的感情で動くことを禁じられている〈八竜槍〉でも、家族がさらわれしかも国がなんの対策も講じなかったのでは不信感を抱く者が出て来ても無理はない。
そういった事情を、ガウンは語ってくれた。
「番屋のやつらも、最初は色々と戸惑っていたみたいだがよ、今じゃ村の位置印みたいなもんだ」
「大変、なんですね〈八竜槍〉って……」
誰よりも頼もしかった旅の道連れは、とても窮屈な生き方をしていたらしい。
「まあ、弟の話はいい。番屋のやつらに話しておく。そうすりゃ、あいつもすぐに駆け付けんだろ」
「あ、えと、それは大丈夫というか、必要ないですっていうか……」
敵に連絡されでもしたら、また追われる羽目になる。だが、リュウモは善意で行動しようとする男を止めるための上手い言い訳を思いつかなかった。
「おいおい、色々あんのはわかるがよ、さすがに連絡ぐらいは」
ばたり――となにかが倒れた物音が、ガウンの言葉を止めさせた。
「……なんだぁ? またじいさんが酔っぱらって倒れて来たかぁ?」
「……? この、臭い」
鼻に、甘ったるい花のような臭いがする。どさ、どさ、と断続的に同じような音が、人が倒れる音がした。
「――?! ガウンさん口と鼻を覆って!」
「あ、どうしたいきなり」
説明している暇はない。リュウモは懐を探って布を取り出すと、ガウンの口と鼻を押さえた。
「毒です……この、臭い!」
村の薬師が風に乗せて『竜』を眠らせる薬を作って使っていたとき、同じような臭いがしていたのだ。
――でも、どうして?!
村でしか作れない薬だと思っていた。この薬は〈竜域〉にある素材を使うからだ。
「んだと?! ……くそ、他のやつらは」
「意識を奪うだけだから、多分、大丈夫。それより――!」
追手がすぐそこまで来ている。リュウモは部屋の窓から夜の村を見る。
風上、村の外側に松明を持ってこれみよがしに自分の位置を示している一団がいた。
出て来い。行動がそう語っている。
「ガウンさん、ここにいて下さい。絶対に外に出ないで」
「おい、坊主!?」
リュウモは窓から飛び降りる。着地し、一直線に黒い集団に向かう。家にいたままだと、ガウンを巻き込んでしまう。
(こんな、おれひとり摑まえるために、ここまでやるのか?!)
村中の人間を全員昏倒させてまで、彼らはリュウモを捕えようとしている。今までのように人目につかないやり方とは違う。
なりふり構わない方包囲に、リュウモは手負いの『竜』を想像し、ぞっとする。
彼らなら、冗談抜きでどんなことでもやる気がしてならない。
「なんで、関係ない人達まで――!」
リュウモは怒りをぶつける。すると、一団の中からひとりの青年が前に出た。
「久しいな少年。四日ぶりだ」
「ゼツさん、どうして、こんなことを……」
ゼツの言葉から察するに、『黒竜』との戦いから丸一日経過していたらしい。彼らにとって、リュウモを見つけ出すには十分な時間であったようだ。
「我らも時間がなくてね。来てもらおう、皇都まで」
「断ります、おれを追わないでください!」
はぁ……と、ゼツは息をひとつ吐いた。聞き分けの無い子供に辟易しているかのようだ。
「できれば、死者は出さずに済ませたい。これ以上、強い薬を使うと後片付けが面倒だ」
「――――ッ?!」
ごみを屑箱の中に入れるような気軽さで、ゼツは恐ろしいことを言う。使用されている薬よりも効果が強い代物を使えば、村全体がどうなるかなど想像に難くない。
「君は善良な人間だ。誰かが死ぬ様を見たくはないだろう。それとも、村が屍が積み重なった後で皇都へ行きたいかな。私達はそれでもかまんわないが……」
「おい、手前らうちの村に一体全体なんの用だ?! ガキ相手に物騒なモンまで持ち込みやがって!」
熊が走るような迫力でガウンが駆け寄って来た。彼はリュウモの前に出る。
大きな背が、追手の視線から庇うように立ち塞がる。
「我らは帝の命により、その少年を捕らえにきた。引き渡してもらおう」
鋭い視線に、しかし、ガウンは退かなかった。追手よりも厳しく、問い質すように目を向ける。
「帝の命……? 勅使ならちゃんとした文があるはずだぜ。番屋の連中と同じようにな。そいつを見せろ」
そんな物、あるはずがない。彼らは帝の命によって動いてはいても、正式な部隊ではない。
あくまで裏で動く者たちなのだから。
押し黙るゼツ達に、ガウンは顔の皺を深くし、威嚇するように言った。
「――は、笑えねえ冗談だな。帝の名を騙ったモンがどうなるか、知ってるだろうな、ええおい」
「秘密裏に我らは動いている。〈八竜槍〉の身内には手を出さない。少年、来てもらう」
人質を取られているも同然だ。ゼツは、きっと容赦しない。返答を渋ればガウンたちを傷つける。
村を焼き払うところまでやるかもしれない。村人の命、その全てを引き換えにしてまでも、彼らはリュウモを連行しようとしている。
「〈八竜槍〉の親族には、手は出さないんだったよな」
ゼツの前に立ち塞がり、ガウンは毅然として言い放った。〈影〉の者たちの表情が、嫌なものに変る。
「その通りですが、なにか」
「そうかい。――いいこと聞いてよかったぜ」
ガウンは、口角を上げ、友好的な笑みをする。――拳が飛んだ。
唸りを上げ、敵の顔面目掛けて飛来するそれは……難なく避けられた。が、侮れない威力を持っていることを敵味方に証明した。
仮に、リュウモが放たれた拳の一撃をまともに受けたら、行動不能になるのは必死だった。
ゼツの顔が、歪む。
「なるほど、確かに兄弟だ。やることが似ている……!」
この小さな村に、面倒と厄介が揃ってしまったのだ。彼の胸中は、穏やかではないだろう。
「ほら、行け坊主。さっさと行っちまいな。こっちのことは手前でなんとかする!」
リュウモは、ガウンに頭を下げた。走り出そうとする。
――なにかに、足首を掴まれた。
「は? うわぁ!?」
見えない、強烈な力が足首に加わり、地面に倒されうつ伏せになって、引きずられる。
――なんだこれ?! いてぇ!
なんとか仰向けになって、自分を捕まえた正体を知ろうとした。だが、足首にはなにも無い。縄や網の類は一切見当たらない。本当に、なにも無いのだ。
数秒間、引きずられると〈影〉たちの近くでようやく止まった。足首から力が無くなる。
「……な、なんなんだよ」
正体不明の力に連れられ、囲まれた。
(くそ……)
彼らの実力は十分わかっている。あのガジンと十数回は打ち合えるのだ。まともに戦えばどんな手段を使っても殺される。だが……。
――この人たちは、おれを殺せない。
〈竜域〉でのやりとりを思い出す。帝が〈影〉に出した命令は、生かして標的を捕らえること。ならば、簡単にこちらを攻撃しては来ないはずだ。
包囲されながら、リュウモは脱出する機会をうかがう。
後方では、ガウンとゼツが戦っている。ガウンは氏族特有の身体の頑強さでもって、敵に殴りかかり続けていた。ゼツはかなり手を焼いているようだ。
心配はなさそうで、リュウモはほっとする。
円形に陣を張っていた〈影〉の内のひとりが、輪から数歩近づいてきた。
「オレの名はケイ。投降しな坊や。そうすれば、痛い目に遭わずに済む」
リュウモの返答は、決まっていた。
「お断りします」
「そうか。――なら仕方ない」
ケイは、ため息を吐く。抵抗は意味を為さないと言いたげだった。
リュウモは、腰を落とす。強引に包囲を突破しようとし――――突然、息苦しくなった。
「あ、ご、お……」
反射的に自分の首を絞めつけているものを外そうと手をやったが、掌は空を切るばかりだった。ギリギリと圧迫され、涙で視界が霞み始める。
(見えない、手……?!)
首の肌が、くっきりと手の形にへこんでいる。
今度は、原因がわかった。首を絞めつけているのは『气』だ。どんな理屈かはわからないが、誰かが体外に放出した『气』を操って、首を絞めている。
(こん、な、無茶苦茶なッ)
自らの『气』を体外に放出すること自体、難度が高い。それを、放出どころか離れた相手を捉え、首を絞めるなど考えられない。
空気を求めるようにもがいて辺りを見回すと、〈影〉の内のひとりが、こちらに手を向け掌を半開きにしていた。間違いない、あの男が『气』で自分の首を絞めつけている。
常人にはできない、あり得ない力。
ふと、ジョウハが言っていたことが頭をよぎった。
『皇都付近じゃ、本気でとんでもない異能者がいるからな。俺たちの体質なんざ、子供のお遊びみたいなもんよ』
――これ、が、皇都の異能者……!
だが、『气』によって相手に干渉するのなら、対応策はないが、対抗策ならばある。
リュウモは体内の『气』を、わざと制御を緩め、荒くれさせた。
見えざる手とリュウモの『气』がぶつかり合い、音を立てる。静電気が発生した時のような音が鳴ると、首から圧迫感が消えた。
「けほ……」
存分に空気を肺に取り込み、リュウモは驚いている〈影〉の男を睨みつけた。
「なんと莫大な『气』か……!」
異能者の男は、驚愕に目を見開き手首を押さえている。『气』で見えざる手を弾き飛ばした影響か、右手が上手く動いていない。
能力使用の際に、なんらかしらの危険が伴っているようだった。
「どけ……ッ!」
〈影〉たちは、陣形を変えた。それが、彼らの返答だった。
虫の鳴き声が夜の闇に響く。二つ月の両方が雲に隠れ、月光が遮られる。
リュウモは、駆け出した。北へ、北へと。
「止まれ。止まらないなら」
言い終わる前に、リュウモは蹴りかかる。勢いを乗せた前蹴りは、当然のように躱された。
ケイは、脇に足を挟み、そのまま体重を横にかけて体勢を崩そうとした。
しかし、倒れない。足が地面に接着されたように、動かない。凄まじい体幹と均衡感覚。
筋肉、体重だけではない。底の見えない『气』が為せる力技だった。
「うァァ!」
「なん?!」
リュウモは挟まれた足を思いっきり横に振り払った。ケイの両足が宙に浮く。
このままでは危険と悟ったケイは、脇を緩めて力に流されるまま横に飛ばされる。
地面を数度転がって、ようやく止まった。
「報告にあった通りの馬鹿力だな……」
近接戦闘は危険が大きいと判断したのか、ケイは刃引きされた棒手裏剣を両手に持った。
リュウモは彼以外の動向にも気を配り、奇襲を受けないよう細心の注意を払う。
相手の数は五人だが、その内の何人が異能者であるかわからない。常に他の〈影〉の動向を感じ取っていなければ、たちまち劣勢に立たされてしまう。
ケイは、標的に向けて走り出す。間合いは八間(約十五メートル)。
両手に持つ棒手裏剣に意識を割きながら、リュウモは相手の出方を待つ。
野を駆けるケイの両手がぶれ、計四本の棒手裏剣が投げられた。
手、足、腹。当たれば動きに支障が出る箇所への攻撃ばかりだ。
しかし、そのどれもが急所を外れている。やはり、彼らは目標を殺す気がない。
足を使って三本を回避し、腹目掛けて飛来した棒手裏剣を手で鷲掴みにする。
次の四本が投擲された。今度は、腰を低くするだけで簡単に躱せた。
(くらえ!)
牽制代わりにさっき掴み取った獲物を投げつける。会心の一投だったが、紙一重で完璧に見切られた。この程度では牽制にすらならない。
技量は敵がはるかに上。身体能力ではこちらが上。どうにかして混戦に持ち込めば勝機はある。風のように駆け込んで来るケイに向かって、リュウモはかまえた。敵の拳が放たれる。
――衝撃は、前からではなく、後ろからやって来た。
「な、あ……?!」
背中に四か所が、打撲の鈍い痛みを伝えてくる。体勢を崩された状態から、さらに前方から拳の追撃。――避けられない。逸らすことも不可。
リュウモは、故郷で何度も訓練を受けていた動作を反射的に行った。打撃箇所に『气』を集中させる局所防御。襲いかかって来る攻撃を軽減できる……はずだった。
「ッシ!」
『气』による防御を実行したリュウモを見て、ケイは攻撃方法を変えていた。
拳を開き、掌打に切り替えたのだ。
その不可思議な一撃は、集中させた『气』をまったく介さず、すり抜けた。
もろに威力が体内に伝わり、リュウモは跪きそうになる。内臓に響き、身体中に痙攣が走った。
(徹し……ッ)
敵の防御を貫通させ、内部に威力を浸透させる高難度の技術。
事もなげに、さも当たり前のように行われた打撃に、末恐ろしい月日と鍛錬の量が積み重ねられていた。相手が本気であったなら、今頃、内臓破裂で死んでいる。
視界が揺れ、まともに立っているのが困難になる。人は筋肉を鍛えられても、内臓を鍛えることはできない。
どれだけ身体が頑強であろうと、そこに変わりはない。たとえ〈竜守ノ民〉であっても。
「今だ、やれ!」
ケイの声に、二つの影がリュウモに飛びかかった。
太い注連縄だ。それはリュウモの手に絡みつく。左右から身体を引っ張られ、磔にされたかのような格好になる。
急激に、身体から力が抜け始めた。
「この、縄……『气』を、吸い取って?!」
〈影〉の二人は、杭を地面に打ち込み、注連縄が解かれないよう固定する。
「〈鎮守ノ司〉謹製のこいつは、さすがに効くようだな。安心したぞ」
握っていた拳が開かれ始める。指先に力が入らなくなり始めた。
「この少年、本当に化け物か? 常人なら、たとえ鍛え抜かれた槍士でも、もう昏倒している頃合いだぞ」
〈影〉のひとりが、杭を押さえながら言った。
「伊達に神話に出てくるような民じゃないってことだろ。まあいい、あっちも終わる」
霞む視界の端で、リュウモはその光景を捉えた。
ガウンが倒れ、ゼツが見下ろしている。
(おれと、同じような、技を喰らったのか……)
命に別状は無さそうだが、腹辺りを押さえて苦しそうにしている。脂汗が顔中にびっしりと張り付いていた。
「この、糞野郎共が……!」
うつ伏せに倒れているガウンが、忌々し気に言う。
「愚かな。我らは帝の命により少年を捕らえに来た。我らに逆らうは、すなわち帝に弓を引くことと同義というのが、どうしてわからない」
「くだらねえ」
ぷっと、血が混じった唾を、ゼツに吐きかけた。
「帝の命、だあ? あんなガキに、てめらは一体全体なにをやってやがる」
ガウンが、ちらっとリュウモを見た。
「年端もいかねえガキを殴り倒して、磔にするような奴らが、帝の命だあ? ちゃんちゃらおかしいぜ。てめえらが帝の御威光を悪用する糞野郎共だと考えた方が、よっぽどしっくりくらあな」
す……っと、ゼツの目が細められた。
「そうか……なら、その悪党とやらに、倒されるといい」
ゼツが、ガウンに近づく。まるで、死神のように。
「やめろ……!」
血が熱くなる。心の臓が早鐘を打ち、ドクドクと音を鳴らす。
ゼツの拳が倒れたガウンに振り上げられる。
「やめろ――」
裡にあった『气』が荒れ狂う。血に秘められ眠っていた力が、顔をあげる。異様な感情の高まりが鍵となり、戒めが解かれた。
「やめろォォォォォッッ!!!」
〈竜守ノ民〉最後のひとりである少年に――〈目覚めの時〉が訪れた。
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