アカヌノ

光ノ宮 時生

第1話

幼い頃、体を張って平和を守るテレビに映るヒーローに憧れを抱いた。

「自分の為でなく誰かの為。」

それがいつの間にか俺自身の信念であり正義の象徴となっていた。

「信じれば報われる。」

「誰かのために生きればいつかは報われる。」

俺は世の中の根本的な理由もない謎の論理を信じていた。そしてある事件によって俺はその自身の信じたものすら失う事になる。

全てを憎み、全てを恨み、全てを呪った。

この怒りも気持ちも俺のものだ。

「もう、裏切られるのなら大切な、掛け替えのない人は要らない。」

俺は俺自身の全てを否定した。

俺自身であるために。

国の所々での学生の暴徒化が起こり学生間の戦争が起こった。そして、様々な人がその被害者になった。そんな中その戦いに自分の正義と信念を信じた男が居た。後に「アカヌノ」と呼ばれ伝説となる筈だったその男は終戦と同時に姿を消す。自分の為でなく誰かの為に命を張り続け、決して表舞台に出る事はなかった故に彼の存在は幻となった。

三年後

深夜、暗い部屋にスマホの明かりだけが灯っていた。軋むベットの上で唇を噛み画面を見つめる。男は高3になろうとしていた。二階堂 俊。穴の空いたジャージのズボンにクタクタになったシャツ。目にはクマを作りダメ人間をそのまんま絵にした様な男だった。学生間の戦争が終わり平和な日々の中で平和ボケなのか?二階堂と、言う男はとても惨めになって居た。彼は何があったのかは知らないが彼は、相当な捻くれ者で人間不信。特に女性不信で学校で異性の交流なんて部活の仲間内くらい。SNSを開きネット徘徊。そんな日々を過ごしていた。日の登り始めと共にベットに横になり、瞳を閉じ始める。寝るのが嫌なのではない。明日が嫌いなんだ。裏切られた日々を過ごした彼の無駄な抵抗。

三年前、彼は大切な友の為、恋人の為に自分の信念を正義を貫いた。しかし、世の中は厳しい。終戦後彼は戦いから度重なったストレスにより鬱になってしまう。その上、彼は友に裏切られ、恋人には罵られた上にゴミの様に捨てられた。そして男はこうなった。満足に笑えない。人を信用しない。今の生活には平和はあっても楽しさも、幸福感も何一つとして得られなかった。故に、彼の今までの行動には意味もなく、救われる事も報われる事もなかった。正直者が馬鹿を見る。彼は正にその言葉の擬人化の様な人であり人生であった。死のうとしてもその根性は無く、復讐をしようとしてもそんな力も残ってない。男はただ、いつから報われると信じた。そのせいで今ではただの抜け殻の生活。魂のこもってない哀れな男が出来上がったのだった。





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