第38話-3 ウチナー島めぐり旅(後編)

 美ら海水族館と斎場御嶽でほとんど体力を使い果たしたせいか、首里城は無料エリアを簡単に回るだけで終えてしまった。

 向かう途中で渋滞にはまったのもあるせいか、時間も押し気味となってしまっていた。

 国際通りへ向かう、本日最後の車中にて。


「カイト君、ごはんどうしようか?」

「そうさな……どこで降りるかにもよるだろ。どこかいいお店ってありますか?」


 おっちゃんに話を振ってみると、意外な答えが返ってきた。


「うーん……色々いいお店もあるし、オススメなところもあるんだけどねぇ……まあ、皆さんで探してみるというのも、修学旅行の思い出になると思いますよ」


 ただ、と言っておっちゃんは続ける。


「今日は歩行者天国があるので、その近くに止めますね。お店も多いですし、お土産も買えますよ」

「本当ですか!?」


 食いついたのは桜川である。


「ええ。このままいけば多分、お食事と買い物をして、モノレールを使えば時間には間に合いますねぇ。一応歩きでもホテルまではつきますけど、ちょっと考えた方が良いかもしれません」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、今日は皆さん楽しめましたか?」

「はい!」


 交差点をいくつか通り、やや細い路地のあたりで停まった。

 シートベルトを外し、タクシーを降りる。


「それじゃあ、皆さん。お忘れ物はありませんか?」

「はい。今日は1日、ありがとうございました」

「またいつでも、沖縄に遊びに来てくださいね。今日は皆さんお疲れ様でした」

『ありがとうございました!』


 お礼を言って頭を下げる。

 おっちゃんはニコニコしながら、タクシーに戻って走り去っていった。


「さーてと、こっから歩きかー。ちょっちめんどいかも」

「しょうがないでしょホコ天だって言うし。多少不便だけどその分楽しみが増えると思えば。水谷、案内よろ」

「へいへい」


 サクッと地図を立ち上げて、現在地とホテルでルート検索。

 徒歩は……


「30分、だとさ」

「うへぇー。モノレールは?」

「一応25分だけど、待ち時間考えたら同じくらいじゃないか?」

「便利なのか不便なのか、微妙なところねぇここ……」

「しょうがねえだろ。ここは学校のあるところと違って都会じゃねえんだ」

「学校だって似たり寄ったりじゃない、山の上だしスクールバス無いし」

「じゃあいいじゃねえか、普段から山道歩かされてんのと変わらんだろ。真と宮野はどうだ?」

「しょうがないでしょ」

「しょうがないよね」


 宮野は諦観、桜川はもはや悟りの境地に至っているように見えた。


「とりあえず、歩こうか。カイト君、どっちいけばいいの?」

「このまま直進で国際通り、左に曲がればホテル方面ってところだな」

「じゃあ、そっち方面で近いところ探そう。あんまりここから近いところだと、食べてからが辛いし」


 宮野と松波も、同意見だった。




 まだ日が明るいが、街灯が点き始めた国際通りは、都心にも劣らないほど華やかだった。

 ヤシの木が風に揺れ、真冬にもかかわらず夏の熱気を感じるほどだ。

 歩行者天国となった道路は人であふれかえり、まるでお祭り騒ぎのよう。


「すごいねー」


 相変わらず語彙力のない桜川の感想だが、思うことは全く同じだ。

 しばらくホテル方面へ歩きながら、店でも探そう。

 ……と思ったその瞬間、見知らぬ男性に声をかけられた。


「皆さん、お店をお探しですか? だったらうちに寄って行きませんかー」


 タクシーのおっちゃんと同じような沖縄訛り。

 だが年齢はこちらの方が圧倒的に若く、20代前半くらいに見えた。

 片手にはメニュー表らしきものが。

 ああ、これが世に言う「客引き」というやつか、と全員が同時に察する。

 客引きの店員は持っていたものを差し出しながら、話を始めた。

 俺たちはというと、それを見るふりをしながらアイコンタクトで作戦会議。

 当然、話など耳に入っちゃいない。


(どうする?)

(どうしよう?)

(どうしようか)


 順番に宮野、松波、桜川である。


(正直、めんどくせえよこれ)

(めんどくさいわね)

(イヤな予感するし)

(なんか、こういう男の人気持ち悪い)

(お前も俺も男子だろうが)


 まあ、気持ちは分からんでもないが。

 すると、今度は女子3人(以下略)だけでアイコンタクトを取り始めた。

 そして、3人が俺の方を向いて目だけでこう告げる。


水谷くんカイト君、よろ!)

(結局俺かよ!!)


 正直、こういう仕事は大嫌いだ。

 だが今この場を切り抜けるには、唯一の男(と、少なくとも相手が認識しているであろう)である自分が出るしかない、とも思っていた。


「……というわけで、いかがですかね?」

「俺ら、他のところで予約とってあるんで」


 これ以上の言葉はいらない。

「拒絶」の姿勢だけを示せればいいのだ。


「時間がまずいから、行くぞ」


 客引きを避けるように、少し速めの歩調で脱出。

 雑踏に埋もれるまで、ペースは下げない。

 少し女子たちには申し訳ないが。

 100mも歩いたところで、足を止めた。


「少し早足すぎたかもな、悪かった」

「ああ、良いよ別にー。ありがとうね水谷、助かった」

「そうか。んで、結局メシはどうする?」

「まーた客引きに遭ったら、面倒よねぇ。まこぴーはどうかしら? 正直さっきので疲れちゃったわぁ」

「佳織って、そういう喋り方じゃないよね……? それはともかく、ちょっと疲れのはボクもかな」

「……修学旅行に来ておいてなんだが、売店でインスタントでも買うか?」

「「「賛成」」」


 ということで、土産店に寄って少しだけ買い物をし、他よりも一足早くホテルに戻った。

 わずか1時間足らずで、とても疲れ果てたような気がした。

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