第38話-2 ウチナー島めぐり旅(中編)

 今日のランチは、水族館のレストラン「イノー」でビュッフェである。

 今朝のごたごたがあったので、支払いはまさか俺じゃないだろうなと緊張していたが、「あとで、ね?」とやや怖い桜川の笑顔でパスした。


 ビュッフェメニューは唐揚げやパスタといった定番から、紅芋の天ぷら、ラフテー(沖縄版の豚角煮)といった沖縄料理まで幅広く揃っている。

 せっかくのオーシャンビュー、海を眺めないのはもったいないとなんとか窓際の席を確保して、各自で料理を取りに向かった。




 最初に席へ戻ったのは、俺と桜川が同時だった。

 最初の1皿は全く同じカレーライスである。


「カイト君もカレーにしたの?」

「正直ホテルで同じようなモノ食べてるし、たまには肉以外も食べたいんだよ。あとはサラダと、軽めのやつがあれば少し欲しいところだな」

「じゃあ、一緒に行こう?」

「それは構わんが、お前は何を探すんだ?」

「うーん、サラダか、確か温野菜みたいなのなかったっけ?」

「さあ、そこまでは見てないからな……。サラダバー行くか」

「そうだね」

「あらー、アンタたちわざわざ隙を見つけてイチャつかんでもいいのよー? というか目の前でやられると案外ムカつくわね」

「またお前か松波……」


 どうやら俺たちを茶化すのは、大抵こいつの役割らしい。


「なあに? お揃いでカレー選んで、今度は一緒に料理探すんですかーはぁー爆発しろというかアンタたちを爆破したいわね」

「こんなところで物騒なことを口走ってんじゃねぇ」

「冗談はともかくとして、ゆっくり行ってらっしゃいな」


 時間制限もあるし、こんなことで無駄な時間を使いたくもないしな。


「行こう、カイト君」


 桜川に付き従い、再び席を離れた。




 昼食を終え、再びタクシーに乗車。

 行きとほぼ同じくらいの時間をかけて、来た道を戻るようになぞっていく。

 途中で高速を降り、今度は県道線を走る。

 着いたのは南東端部、世界遺産が1つにして沖縄最大の聖地。

 斎場御嶽せーふぁうたきである。

 見かけは単なる遺跡だが、今もなお信仰が続けられているため、1年に2回の休息日なるものがあるという。

 俺たち一行は、参道の入り口、御道口ウジョーグチの前に立っていた。

 ちなみにだが、ここをリクエストしたのは女子2人である。


「水谷、知ってる? 本当はここ男子禁制なんだって。ここから先は、巫女様しか入れないんだよ。だからアンタはここで待っててね」

「おい待てこら、そんなわけあるか。だったら真はどうなんだよ」

「確か昔の琉球国王は、服を女物に替えてから入ったらしいよ。だから水谷くんも」

「宮野、その辺で黙っておけ」


 今は観光地にもなってんだから、女装してはいるわけないだろう。


「アンタの女装なんて需要ないしねぇ、そもそも」

「あったらあったで困るんだが」

「冗談はともかく、ここからは静かにしなさいよ」

「分かってるよ」


 全員で手を合わせて一礼し、御嶽の中へ入った。




 御嶽の参拝ルートは1周およそ1時間、構造としては最初の拝所、大庫理ウフグーイの近くで二股に分かれる。

 参道で行き交う人々の中には、色々と荷物を持ち、祈りに来ているらしい集団も見かけた。

 単なるパワースポットや観光地ではない、ということがありありと伝わってくる。


「カイト君は、やっぱりこういうところって興味ない感じ?」

「参拝に来ておいてそんなこと言えるか、つーか聞くなよ」


 ここを推したのは宮野と桜川だったし、まあいいかとルートに組み込んだ結果でしかないのだが。

 そんな2人は完全に「パワースポット」として空気を感じているようだった。


「海と陸、それから空。自然のエネルギーが全部、ここに集まってくるんだね……」


 時折風が吹くたび、木々がざわめく。

 鳥が空を舞い、昆虫たちがすぐ足元で生きる。

 そして最奥部の拝所からは、「神の島」とも伝わる久高島が望める。

 誰かが作った「遺跡」ではなく、自然全てが崇拝を構成する「御嶽」。

 ほんの少しではあるが、その「大きさ」を肌で感じた。




 参拝を終えると、やはりというか何というか、売店へゴーだ。

 ここは見て回るだけのつもりであったが、そうはさせてくれないのがこの班の女子一同(桜川込み)である。


「あ、ねえねえ! アイス売ってるよ! せっかくだから食べようよ!」

「そんなこと言って、時間大丈夫か?」

「10分くらいなら良いでしょ、アンタもついてきなさい」


 桜川の先導と、松波に背中を押され売店へと流されていく。

 見た目はパーラーのような、いかにも「女子向け」の売店であった。


「あ、カイト君。お財布の用意はいいよね?」


 ここでそのカードを切ったか。

 単品価格はそれほど高くないが、3人分となるとなかなかに来るものがある。

 主に金銭面で。


「……何にするんだ?」

「ボクはマンゴーのシングルかな。佳織は?」

「マンゴースムージーでよろしく。沙紀は?」

「んー。あたしは黒糖と琉球紅茶のダブルで」


 合計、1660円也。

 スムージー680円とか、高いなおい。


「カイト君、先に2人分買って来てくれない?」

「はぁ、全く……仕方ないか。行ってくるよ」


 どうせ俺の金だし、誰が払っても同じだろうな。




 流石に3つも持つのは物理的に不可能だったので、桜川を呼びつけ自分のアイスだけを持たせた。

 俺は何も買わなかったので、3人が食べ終わるまでしばし暇を持て余す。


「カイト君はいいの?」

「財布がだいぶ軽くなったからな、うかうかしてると土産も買えなくなっちまう」


 それに、どうせ国際通りに行くのだから、その時にコンビニかどこかで安いアイスでも買えばいいと、この時は思っていた。


「あんまりここでゆっくりしすぎると、首里城まで行けないから気をつけろよ」

「はーい。食べ終わったらすぐ出発だね」


 売店から見える海の向こうで、太陽がだんだんと西日になっていくのが見えた。

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