第27話 はじめの一歩

 以上、回想終わり。

 俺は深い深いため息をついた。

 

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもねぇよ」


 自分の席から教室を一瞥する。


「結局、今までと何にも変わらねぇじゃねぇか」

「そんなこと、ないと思うよ。少なくともボクはそうだね」

「お前がグラウンド・ゼロだったろうが」

「何それひっどーい。もう少し平穏な言い方ないのー?」


 桜川は頬を膨らませ、すねたような顔をした。




 自分たちのクラスメイトにして、学校の生徒を束ねる会長。

 それがまさか女装男子だったなどと、誰が思うだろうか。


「何にも変わってないんじゃ、ないんだよ。色々なことが変わっても、日常が変わらないだけだよ。何があっても、必ずここに戻ってくる。ボクはそう思うかな」


 何だか深いような、当たり前のような。


「ねぇ、カイト君」

「どうした?」


 振り向きざまに、桜川が飛びついてきた。

 首根っこをちょうど腕で締められる形になり、息が苦しくなる。

 顔は……胸に当たっている。

 そして香るのは、女と見紛うレベルのやや甘い匂い。


「ありがとう、これからもよろしくね!」

「だったらもう少し穏当なやり方で謝意を表明しろよ……!!」


 周囲から注目の的になるのは、当然の流れであった。

 ……だがしかし、これも悪くないな。

 そう思う自分がいた事は、否定できなかった。

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