第13話 前夜祭3

「んだとぉ!?」


 学祭初日の朝にもかかわらず、俺を起こしたのは目覚ましではなく1本の緊急入電だった。

 電話の主はすでに半泣きが入っていそうなほど声がくぐもっていた。


「昨日、パンフレットが届いて、落丁とかないかって確認してたんだけど……今朝になって企画名が間違ってるって連絡がね、入ってきてたの……。ねぇ、これどうするの?」

「とりあえず今は落ち着け、桜川」


 まるで子供をあやしているようにも思えたが、今はコイツを処理するしかない。


「それで、何か返事はしたのか?」

「ううん、まだ……カイト君に相談してからにしようって思って……」

「わかった、学校には何時につく?」

「7時くらい……」

「俺も今から行くから、超特急で正誤表作るぞ」

「うん、待ってる」


 電話を切り、時計を見る。

 今から最速で行って学校につくのが7時前。体育館でのオープニングが9時半、余裕を見積もってもタイムリミットは約2時間。

 俺は朝食を摂るのもわずらわしく、着替えて速攻で家を飛び出した。




「カイト君もう来てる!?」


 生徒会室のドアを半ば蹴破るように開けた桜川は、開口一番に俺を呼んだ。


「今原稿入れてるところだ、お前は印刷室確保してくれ!」

「さっき先生に話つけてきたんけど、まだ漫研が2台持ち出したまま使ってるって!」

「だったらメモリーだけ持って行って、終わったら融通してもらえ! その間は残ったプリンターで時間稼ぎだ!」


 会話している間にも、元のパンフレットと提出されている企画書を見比べながら表を打ち込んでいく。

 最後にもう一度見直しをして、ファイルを保存。

 USBをねじ込み、中身をせっせとコピーする。


「出来たぞ、持ってけ」

「分かった」


 メモリーを渡すと、即座に部屋を飛び出す桜川。

 残った俺を含む生徒会メンバーは印刷室に向かった。




 訂正表合わせて1万部をなんとか刷り切り、裁断をしてパンフレットに挟み込むまでがちょうど1時間半。

 このまま休みたいところだったが、セレモニーの時間がすでに来てしまっていた。

 体育館前の階段で揃って腰かけると、桜川が呟いた。


「休んでる暇が欲しいよ……」


 この後のセレモニーで挨拶をするのも生徒会長の役目である。


「シフトは少し調整してやるから、今は我慢してくれ」

「うん」


 力なく答えるが、その表情は楽しげでもあった。


「なんか、もう学祭って始まってたんだね」

「一般公開は今日からだぞ、大丈夫か」

「そうじゃなくって、さ。何か作ったりとか、皆で頭ひねって企画考えたりとか、今日みたいにトラブルで走り回ったりとか」


 桜川は自分の左手をじっと見つめた。


「今まで、色んなことがあったなぁって、本当に思う」


 俺は立ち上がると、右手を差し出す。


「感傷に浸るのは後でいくらでもできる、だが今のお前がやるべきことは何だ?」

「そうだよね」


 桜川は俺の手を強く握った。

 立ち上がり、階段を駆け上がる。


「カイト君」

「何だ」

「私ね、今すっごく楽しいの」

「そうか」


 気がつけば、俺も桜川に笑いかけていた。


「早くおいでよ、私たちの楽園パラディーゾが待ってるよ!」

「おう!」


 これ以上の言葉は不要だ、そう確信した。

 そして俺は駆け上がる1歩を、強く踏み出した―—。




「……続きまして、生徒会長の桜川真さん、お願いします!」

 

 司会役の女子生徒に呼ばれ、ステージへ上がりマイクを受け取る。

 その姿を、俺は後ろから見守るだけ。


「私から言うことはもう何もありません。全力でこの2日間を楽しみましょう!」


 舞台を降りると、次の出番を待っていた男子生徒にマイクをバトンタッチ。


「最後に、学校祭実行委員長から開催の宣言をお願いします!」

「それではみなさん、5秒前からカウント行きます!」


 委員長がマイクを切る。

 そして、叫んだ。


『5、4、3、2、1!』




「——ただいまより、第28回秋桜祭しゅうおうさいを開催します!!」

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