第3章 秋桜祭
前編 前夜祭
第11話 前夜祭1
夏休みから間髪入れずに始まった怒涛の期末テストをまずまずの成績で終え、ひと息ついたところで。
ついに、来てしまった。
俺の……俺たち高校2年の、最後の文化祭。
スケジュールとしては準備期間4日、本番2日に片付けが1日という構成だが、準備日を境に校舎の様相はそれまでとは一気に変わってくる。
例えば、校舎の空気。
ペンキと木材と教室の匂い。
それらの混ざった香りを嗅覚で感じるたび、本能的に血が騒ぐ。
今まで積み重ねた思いを、たった2日のうちに全て出しきらなければならない。
誰であれ1度身をさらせば、自然と真剣な眼差しになる。
およそ2000あまりの目を体育館のステージから見下ろしつつ、学祭実行委員長がマイクを手に弁舌を振るっていた。
といっても、単なる準備作業の注意事項だ。ごみの分別はどうしろとか、資材はどこで配布するとか。
「最後に、生徒会長からです」
黒いバトンを委員長から受け取り、法被を着込んだお祭り女が舞台袖からステージへ。
その背中に書かれていたのは大きな「祭」の赤文字。
「お前、どこでそんなもん買ったんだよ……」
どうでもいいのだが、誰かに俺の呟きが聞こえていたりしなかっただろうか。
「みなさん」
派手な格好とは裏腹に、その場にいる全員が一瞬で押し黙るような威厳のあるトーン。
「とうとう、待ち望んでいたこの季節がやって来ました。今日からいよいよ文化祭期間の始まりです。最後まで全力で楽しみましょう。中学1年生は初めての文化祭です。成功や失敗、今年経験したことはきっと来年以降で活かされると信じています。そして、私も含めた高校2年生は最後の文化祭です。一生の後悔にならないように、それぞれの思いを全て、この1週間にぶつけてください。以上です」
桜川はマイクのスイッチを切り、腰に左手を当て仁王立ちをした。
そして右足で床を強く踏みつけると、鈍い音が体育館中に響いた。
生徒全員が背筋を伸ばす。
最後に大声でがなり立てた。
「全員気合い
「「
俺自身も含め舞台袖にいる面々も唱和する。
人こそ違えど、この儀式をするのももう最後か、と叫びながら心の中でしみじみ思いつつ。
やっぱりこの学校、本気のベクトルがおかしいだろ……。
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