第15話 秋桜祭Ⅱ

 HR教室が入っている校舎は3階建て。

 下から学年があがっていき、1番上の3階が高2・高3。

 高3は学祭に参加しないので、空いた教室は部活動の企画が使っている。

 そちらは明日の巡回で散々回る予定なので、パスして高2のクラス企画へ。

 早速入ったクラスは、まさかのメイド喫茶だった。




 全くもって派手な装飾がなされたロッカーを2人で眺める。

 クラスに職人でもいるのかと思うくらいの出来映えだった。


「今更だけどよ、メイド喫茶って学祭の企画としてどうなんだ?」

「別にこうやって企画として正式に通ったんだし、良いんじゃないかな? うちの調理室って無駄に広いから、屋台組だけじゃ開けるのもったいないって家庭科の工藤先生が言ってたし」


 外に立てかけられている掲示板には、そろいの衣装を着たメンバー十数人の顔写真が貼られていた。

 こんなアニメか小説の中のような企画がよくもまあクラス内でも通ったものだとしみじみ思う。


「なあ、おい」

「どうしたの?」

「うちの学年に、こんな女子いたか?」


 俺がさしたのは、ボードの1番上。

 ロングヘアー自体は別に普通なのだが、写真の彼女は銀髪碧眼。

 校則らしい校則はうちにはないが、一応として染めるのはアウトである。そして恐らくウィッグでもないし、そもそも顔に覚えがない。

 去年の学年写真にもいなかったはずだ。


「えーと、確か今年転入してきたんじゃなかったっけ? ゴールデンウィーク前くらいに言われたような気がするけど、名前まではちょっと思い出せないかな……ハーフみたいな感じだったと思う」

「そうか」


 転校生なら、覚えがないのも仕方ない。

 生徒総会にはいたかもしれないが、あの人数で生徒1人1人を正確に把握するのは無理だ。

 廊下でそうこうしていると、教室から1人のメイドが出てきた。

 身長は桜川よりも少し高いくらい。

 まるで男子のように短く切りそろえられた黒髪。

 やや中性的な顔つき。

 胸はなく、喉仏がうっすらとだが確かに出ている。


「お……男、であってるのか……?」

「どうしてそこで自信なさげになるの!?」


 いきなり突っ込まれた。

 名前は知らない。というか、これが初対面だ。

 しかし男子生徒の視線は、俺ではなく桜川に向いていた。


「あれ、桜川さん? 生徒会も巡回あるの?」

「ううん、今は休憩中。午後はクラス企画の方があるから」

「そっか。桜川さんのステージ、見てみたいな……」

「お前もしかして、コイツのファンなのか?」

「半分くらいはそうかも。ほら、結構有名でしょ色々と?」

「まぁ、確かにそうだな」


 演劇部じゃないくせに歌も上手いし、演技力だって頭ひとつ抜けている。

 それ以外にも色々と武勇伝というか、逸話のようなものはあるが、少なくとも学年では名が知られているのは確かな事実だ。


「カイト君、なんか悪意のある言い方じゃない?」

「そんなもんねえよ」


 細かいことはともかく、学校祭だから女装男子がいるのは桜川を抜きにしても当たり前といえば当たり前か。


「なあ、1つ聞いていいか」

「何? あ、やっぱり男子がメイドって変だよね……」

「いや、むしろ似合ってるくらいだと思うぞ」

「ちょっとやめてよ!? 僕が望んでこんなことしてるワケじゃないんですけど!?」

「似合ってなくても学祭だ、悪いことはねえよ」


 それに女装なんて生徒会室で見慣れてるからな、今更そのくらいなんだと言いたい。


「変じゃないよ! むしろ似合ってるよ! 可愛いよ!」


 桜川が彼(彼女と呼ぶべきだろうか?)を援護射撃。

 そしてなぜかとても生き生きとしている。


「えっ……? 桜川さん、それ本気?」


 おい、メイドが引いてるぞ。


「いやはや流石、生徒会長はわかる人ですなあ」

「うわっ!?」


 驚いて声を上げたメイドの背後から突然現れたのは、ヘッドセットを装着した背の高いギャルソン。

 高いと言っても、そこにいるメイドと比べての話だが。

 メイドのほうと違って面識があったので、話しかけるのにためらいはない。


「そこの少年メイドは、お前の差し金か?」

「そうだよ」

「なに、カイト君知り合いなの?」


 桜川が尋ねる。


「ああ、葛城とは同じ部活だからな。そういうお前は? ナンパされたとか?」

「水谷、お前しばくぞ」


 葛城の抗議は聞こえなかったことにする。


「うーんとね、葛城君は去年の役員会のときに副委員長だったの」

「なるほどな」

「そういうことだ、俺だって同じ学校の女子をナンパするほど図太くはねえぞ」

「そうは言われても、信用はないよな」

「うるせえ」


 ただ、役員になれるくらいには外では真面目キャラなのだろう。


「ところで、写真貼ってた銀髪の子は今いるの?」


 興味が移ったらしく、質問を重ねる桜川。


「残念なんだが、さっきまでシフトだったんだけどな、休憩行っちまった。また後でのお楽しみ、ってところだな」

「そっか……じゃあ、こっちの子は?」


そう言って桜川は、眼前の女装メイドを指さした。


「えっ、僕!?」

「そうよ。あ、もしかして休憩行くところだった?」

「これから外回り行くところだったんだけど」

「そっか……残念」


 少し寂しそうな顔をしながらうつむく桜川。

 どんよりとした空気を打ち破ったのはまさかの葛城だった。


「あー、ちょっと待て」


 何か思いついたような顔をして、無線を入れる。


「こちら葛城、響ちゃん生徒会長から指名入りました! ……ああ、外回りは俺が代わるから」

「ちょっと!?」


 響ちゃんと呼ばれたメイドが噛みつくが、全くのお構いなし。


「じゃあ、後は頼んだぜ。しっかりお嬢様に仕えてこい」


 メイドの肩をたたき、その場から去った。

 残されたのは俺と恨めしそうに廊下を見つめるメイドと楽しそうな顔をしている桜川。

 全く本当に、うちの生徒会長はモノ好きだな。

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