第5話 アフタヌーン・ビフォア・サマーデイズ

 いろいろあった黄金週間はとうに過ぎ、怒涛の6月をなんとか生き延びたどり着いた7月。

 夏休み前の全校集会の打ち合わせのため、久しぶりに役員全員が顔を合わせた。

 音頭を取るのはもちろん桜川。


「今回は全校集会なので、生徒総会とは違ってあまり大きな仕事はありません。ただし、雑用はあるのでそこだけよろしく」

「雑用って何ですかぁ?」


 気の抜けたような声を出す朝倉に対し、桜川は腕を組みながら答えた。


「よくぞ聞いてくれました! それは……」

「それは……?」




「特にありません!」

「無いのかよ!!」


 つい大声を上げてしまった。


「なんかカッコつけたくなっちゃって、ごめんね?」


 挙句てへぺろなどと、コイツらしくない行動をしている。夏の暑さで頭でもやられたのだろうか。


「ということで、今回はあまり生徒会としてはすることはありません。精々プレゼン1個やるくらいだけど、毎年ちょっとだけ変えて使いまわしてる感じだし」

「じゃあなんでここに集められたんだ」

「ついでの用件があってね、私の姉が別荘……ペンション、だっけ? をやってて、友達とか呼んでもいいよって言われているの。それで生徒会夏休み合宿! なんてどうかなー、と。ちなみに海はないけどミニプールはあるよ」


 ほほぉ。それはそれで面白そうだな。


「そんなわけで、どうかしら?」

「いつのつもりなんだ?」


 日取りが判らなければ、行きたくてもいけなくなる可能性も出るだろう。


「一応まだ、かな。みんなの予定が空いてるところで日数も決めようと思って」

「まぁ、いいと思いますよ」


 俺の勝手な想像だが、この手の話には乗ってこなさそうな菊池が1番先に声を上げた。


「俺も行ってみたいです」

「あたしもあたしもー!」


 続いて関口、朝倉のコンビも乗ってくる。


「あゆみちゃんと六花ちゃんは?」

「お邪魔でなければ……」

「参加希望だけ」

「大丈夫よ、むしろあまり人来なくて寂しいって前に言ってたから。カイト君は、もちろん来るよね?」

「……ああ」


 桜川の姉が持っているというペンション。かなり興味をひかれる物件だった。


「じゃあ今度、夏休みの予定が確定したらそれぞれ教えて。日取り考えておくから」

「あ、あの!」

「どうしたの、水紀ちゃん?」

「その、先輩はプール入るんですか?」


 そういえば、コイツが水泳の授業で泳いでいるのを見たことがない。


「そうね……実は水着だけは買ってあるの。ただ、その時の体調にもよるかな。こっちほど陽射しは強くないとは思うけど」


 確かこいつ、体育の授業は体がどうとかでほぼほぼ見学しているとかなんとかって聞いたな。


「先輩の水着ってどんなやつなんですか!? もしかしてこう、布面積が」

「黙れ」


 朝倉の脳天に関口の見事なチョップが突き刺さった。

 ただ、確かに桜川の水着は気になる。女物なのか、それとも……。

 その疑問は本人が解決してくれた。


「ビキニにしようかなって思ったんだけど、ちょっと、ね……」


 目線を下に向ける。その挙動で俺は察した。

 胸か。

 と同時に、あー、というような、全員が同じ結論に至ったような空気が流れる。

 どうすんだ、これ。

 桜川は1度咳払いをして、話を続けた。


「と、とりあえず、話はこれでおしまいです。夏休みまでもう少し頑張りましょう! 以上!」




 部屋から後輩たちが退出するのを見送ると、桜川が俺にこう告げた。


「ねぇ、カイト君」

「何だ?」

「今度さ、買い物に付き合ってくれない? 合宿用に新しい服とか、揃えたいから」

「いいぞ。今度は男の恰好で来いなんて言わねぇから」

「……ありがとう」


優しく俺に微笑む桜川が、不意に愛らしく思えた。

コイツは男なのに、どうしてだろう。

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