第5話
動かなくなった人形さんに声をかけた。
すると人形さんは、僕の頬を撫で強く抱き締め初めて微笑んだ姿を見た。
『ありがとう。大切なものを ……
妾をここまで連れてきてくれて』
『ぼくなにもしてなっ』
言葉を重ね遮り人形さんは、首を横に振り何かを呟き頬に伝う涙が砂に変わり人形さんは僕の目の前で砂となり砕け散り地面に積もったものを見て何が起きたのか理解ができなかった。
その場に座り込み砂に触れると細かな粒子が指の間から通り抜けまるで時間を刻む砂時計のようだった。
どうしてなんでどうして壊れてしまったの?
なんで、僕にお礼を言うの?
どうして身勝手に消えてしまったの?
僕は、また1人なの……
僕1人また「閉じ込めるの」
また置き去りにするの。
…………あれ…………
…閉じ込める?置き去り?
なんで、僕今「また」なんて言葉が出たんだ。
背後から黒い大きな影がちらつきこの状況や自分の言葉に理解が追い付けず、僕はその場から逃げるように走り去った。
飛び込んだ時周りの人混みの中に入ってしまい大人達にぶつかると思い身構えるが僕を確かに通り抜けて行ったやはりあの時見たのは、見間違いなどではなかったのだ。
なんで、こんなことになっているのかわからないがここではない、所へ行きたかった。
歩き回る偽物の大人達を潜り抜け視界に入ったのは、大きな鉄の扉だった、手を翳し見るとそこには無数の切り傷や叩きつけ凹んだ跡があった。
その中でも斜めに切り込みの入った所を指でなぞると何処かその傷に見覚えがあった。
自分は、これを知っている。
でも、なんでだっけ?
生物、あの目玉、獣、この傷……
あの木製の人形たちが言っていたあの獣が付けたのだろうか。
僕もそれを知っているのか。
曖昧な記憶から、思い出そうとしてみるが思いたあると事がまるでなく、溜め息をつくと後ろから黒い影が僕の姿を覆い隠した。
またあの影だ、一体なんなのだ、どうして僕を追いかける。
振り向くとそこには、半透明になった偽物の大人達のみ見渡すがそれらしい者はいなかった。
割れた所から大量の蒸気が吹き上がり独特の臭いと熱気にやられ、長くとどまりあんなものを見た後だからか気分が悪くなってきてしまった。
迫り来る吐き気を押さえ付けあの木製の人形がいた場所までまた行けないか手探りで壁を伝って探した。
壁にしか見えず扉らしき景色は見えず大声で叫びながら、叩き続けたがしかし反応はなかった。
それでも叩き続けると一ヶ所だけ音が変わった。
そこを中心的に叩きつけると、勝手にうっすらと中が開き迷わずその中へ入った。
中々気づかなかったがここは外よりもずっと霧や蒸気が薄いのだと思った。
色とりどりの壁からにしてここはあの時来た所だと確信し離れた所にいる二人に声をかけるとその二人は、僕を見て血相を変え逃げ惑った。
なぜ逃げる。
どうして怯えてるの。
近づくにつれ男女の瓜二つの人形は、僕に長い針に突き刺さったあの腐りきった目玉を投げつけた。
その目玉を手に取り二人を見ると明らかにあの黒い大きな影が僕らを包み込んでいた。
わからないわからない得体の知れない奴に怯えていると二人の人形が僕に向かってバケツや筆を僕に投げつけた時ようやく僕は二人が誰に怯えているのかわかった。
『……どうして……』
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