第2話
進んでいくと、蒸気が吹き出し元いた場所よりも霧は濃くなっていった。
『ねぇねぇおにんぎょうさんのとうぶさん』
『頭部ではないぞ
月夜(つきよ)と言ったはずじゃ』
『じゃあ、つきさんここよくみえないよ
ちゃんとまえすすんでるかな?』
そう言うと人形さんはピタリと立ち止まり何かと下を見るとお人形さんの足が割れ目に引っ掛かり蒸気を吹き出すと同時に緩い足が体から抜け足が宙を舞う、足は僕の頭目掛け落ち布製の柔らかな素材だからと言って当たればなんでも痛い。
しゃがみこみ痛みに耐えていると、人形さんが慌てて僕を強く抱きしめる。
何かを言ったのだが人形さんの言葉が難しく聞き返すとお人形さんは僕から離れ自分の言動や行動について僕が知りたいのに、落ちた足をくっ付け何の話かと僕に訪ねていた。
わからないと答えると、人形さんはまた僕の手を引き何事もなかったかのように進みだす。
『はて妾は、何をしていたのじゃろうか?』
溜め息を1つつき前が女の体だったのか男の子体だったのかも思い出せずに首だけという謎の出来事を僕に愚痴るように話した。
記憶とは、なんと難儀なものだろうか、必要なときに思い出せずに役にもたたず、考えれば考えるほど悩みが増えていくばかりだと。
『からからもないないってたいへんだね。
ぼくはからからあるけど
おなまえないないだから、おなじだね。』
『……そうじゃな…?うむ、妾たちは
お主の言うように同じく"ないない"と
言うものじゃな。』
その時ふと目に留まった物を指摘し取りに行くとそれはぜんまいの切れた鳥であった。
また巻いてあげれば、動くだろう。
それを人形さんに見せると、巻いてみろと言われるがままに、ぜんまいを巻くと鳥は動かず壊れているようだ。
きっと、蒸気の水分にショートでもしてしまったのだろうと僕は、そのぜんまい仕掛けの鳥を捨てずに抱えその場を後にした。
細く入り組んだ道の壁になりぼくらはその隙間から通っていくことにし壁を抜けると僕たちの前に突然黒い影が現れそこは、頭に黒い袋を被った見たことの無いほどに大きな鳥型の金属の塊でそいつは、錆び付いていたせいでうまく喋れないのか酷い金属音をたてた。
その音は喋りかけるような音でまるで「返せ」という言葉にも聞こえた。
人形さんが声をかけると黒い袋を被った鉄の塊は、突然頭を人形さんに目掛けて襲いかかる。
僕を突飛ばし巻き困れないように助けてくれたがそいつは起き上がり今度は、僕を目掛けて倒れてくる。
理由もわからず突然襲いかかる鉄の塊に僕らは逃げ惑う事しかできなかった。
どんなに声をかけても聞く耳を持たず、そして地面に顔を叩きつける度に割れ目を作りそこから、通常より倍の蒸気が吹き上げこの辺りの周辺を熱気で包み込む。
持っていたぜんまい仕掛けの鳥も鉄製だったせいで蒸気の熱を吸ってしまい、その鉄の熱さに驚き思わず落としてしまう。
蒸気が目の前で吹き上げ尻餅をつくと尽かさずに上から黒い影が近づきその場を離れると、すぐさま頭が僕の後ろに倒れた。
後ろを振り向くと鉄の塊は中々起き上がらずそれよりか小刻みに震えているようにも見えた。
それを不審に見ていると、後ろから人形さんが僕のところまで駆けつけ鉄の塊について話すと人形さんは、恐る恐る近づき被っていた黒い布を引っ張る。
そうすると、地響きが起こり黒い袋を被った鉄の塊が起き上がる。
地響きに耐えきれずに地面に二人して座り込んだ。
上から、大きな黒い布が僕らに覆い被さる、それを退けると布かと思っていたものは、細かな金網でできた袋であった。
地響きは、次第に収まっていきそれと共に金属音の擦りきれるような嫌な音がし、耳を押さえつけながら上を見上げると、先程まで僕らを襲っていた鉄の塊が大粒の黒い涙を流していた。
その黒い涙は、赤く錆び付いた鳥型の鉄の体を油で汚しオイルで滑りがよくなり嫌な金属音は、やがて言葉となり響く。
『私は……私は返してほしかった。
自分の子供たちが次々といなくなる…
いつしか子は飛び立つ……
それは、良いことだ。
だがいずれ壊れてしまう…
ぜんまいの仕掛けの短い命の我が子達
この忌々しい蒸気によって壊された子達
身勝手な商売人達の手によって
部品としてバラバに解体され売られる
我が子達を……
動けず、ただ見ているだけ……
そんなものもう見たくない……。』
一羽でも多く一つでも多く助けたかった救いたかった。
永遠にその場を動けず子を産み子達のぜんまいを巻き飛び立たせることしかできない。
なにもできないでただ悲しくその生涯を見届ける。
哀れな母鳥。
自我持ってしまった作り物の母鳥の本物の愛。
作り物のだとしても、心ない鉄屑の子達を愛し続け想いを乗せ飛び出させる。
機械仕掛けのこの冷たい世界になぜ鳥や動物達がが存在しているのか疑問だった。
あたり前に思っていても、この光景をこの母鳥の姿を見ていると狭く寂しい空間でこのように涙を流しながら、動けず産み続けているのかと思うとなんだが酷く胸が痛み締め付けられるようなそんな気がした。
声は、枯れ落ち機械の擦りきれる音に変わり開くはずの羽は、体にくっつき錆び付きもう二度と開くことはないだろう。
黒い涙を流し続けその涙で身を汚し腐りきったその体を作り上げた理由が我が子への愛だと言うのであればなんとおぞましい話だろう。
そして、泣き続ける母鳥が倒れた横には僕が落としたぜんまいを巻いても壊れてしまっていた鳥の鉄屑。
この鳥もこの母鳥の子だろうか。
黒い涙が穴を塞ぎ熱で固まる、辺りに立ち込めた霧が薄くなり広がるその光景は悲惨なものだとこの時僕は思った。
その光景は、今までの道は、違い常に見えているはずの鉄の空がなく此処だけ隔離され母鳥を隠すような黒い箱の世界だった。
所々に穴が開き僅かに箱の隙間からは、外の光景が見えそれで覗いていたのだろう。
記憶が曖昧で幼い僕には、その母鳥の痛みは理解しようにも絶対にわからない。
それは、母となる女性にしかわからないものだから……
見えるものが消えなにも見えないただのガラクタの寄せ集めみなには部品にしか見えず当たり前のように心がないと言われる。
悲しいくらいにそれは、この世界では当然の事で変に思う方がこの世界では異常なんだ。
【大切な何か】
それを失うことと言うことがどれ程辛いかは痛いほどに伝わる。
思い出せないものも辛い……
だが、こんなにも想っているのに一方的で伝わらな当たり前のように消えていく。
失う方がよっぽど辛いだろう。
僕は、動かなくなったぜんまいの鳥を拾い上げ泣き続ける母鳥に見せた。
『はい、このこもとりさんのこなんでしょ?
ごめんなさい……ちゃんとかえすよ。
だから、だからもうなかないで……』
泣き止むことなく僕は、その鳥を母鳥の側に置き去り人形さんの手を引いた。
だが、動きがなく上を向くと人形さんは、唖然とした表情で母鳥の姿を見つめていた。
どんなに声をかけても、反応がなく体を揺さぶると僕の姿を見て独り言を呟きここに来る前のように僕を強く抱きしめた。
抵抗をしても、人形さんはひたすらに僕を抱きしめ続け髪を引っ張り大声で叫ぶと我に返ったのか、人形さんはペタりと固まったオイルの上に座り込み瞬き1つせず僕を見つめていた。
その顔は、何かを思い出したような怖がっている表情だった。
『妾…の…
”大切な物”……大切な……妾の。』
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