第27話

 帝都が近づいてきた。帝都を守る前線要塞を例によって五人で襲撃することになった。

「気を抜くな。きっと、スニーク帝国も厳重な警戒をしているはず」

 ロザミアが注意した。

 まあ、おれがいて負けることはないだろうけど。

 夜をしのんで、要塞の裏口を木槌で叩き壊した。

「何をするんだ、おまえたち。こんなことをしてただではすまんぞ」

「すまない。わらわの手元が狂ったのじゃ」

 ロザミアが強引ないいわけをしている間に、目撃者のスニーク兵七人を、おれとアイザで斬り倒そうとした。そうしたら、珍しく、神さまが敏捷な動きをして、二人斬り倒した。

 おれが四人斬り倒し、アイザが一人、神さまが二人斬り倒した。

「おお、神さまやるなあ。アイザより多いじゃん、やっつけた数」

「えへん。我輩はすごいのでござる」

「くそう、完全に油断していた。神さまなんかに遅れをとるとは」

 アイザが悔しがる。

 この神さまは褒めると素直に喜ぶ。そういうものなのだろうか。わかりやすい。扱いやすいともいえる。

「よし、例によって、魔族に気をつけるのじゃぞ」

 ロザミアが念を押す。おれも、魔族の恐ろしさは怖いほどわかっている。

「よし、まずは要塞の門を開けるぞ。全員、ついて来い。その後に、司令室を奇襲せよ。バラバラになっては危険だ」

「はい、ロザミア様」

「はいはい、了解だよ、ロザミア」

 おれとアイザが命令を承諾しながら、さっそく部屋から飛び出した。

 スニーク兵がぎっしりと詰めている。この要塞を落とさなければ、帝都に進軍できない。

 一人、二人とスニーク兵を斬り倒していく。

「リーゼ、ついてきているか」

「はい、救世主さま」

 リーゼを守りながら、次々と敵兵を倒し、正面通りを真っ直ぐに進む。

 スニーク兵は相変わらず弱い。訓練してないんじゃないだろうか、この兵。アイザはもちろん、ロザミアより弱いし。

 そう思っていると、神さまが剣を振り回すように旋回ながら敵兵を斬った。

「大世界旋風」

 神さまはそうこの技に名前をつけたらしかった。神さまに、次々と敵兵が殺されていく。

 アイザは愕然としていた。

 もはや、おれと神さまの二人を止められる敵兵は一人もいない。剣を振り回すたびに、敵兵が死んでいく。世界が変わっている。

「神さま、今日はずいぶん腕がたつなあ。わらわは驚いたぞ」

 ロザミアが感嘆している。

「門についたぞ、ロザミア」

 おれがいうと、

「よし、開門しろ」

 ロザミアが命じた。

 神さまが敵兵相手に無双している間に、おれとアイザで、門を開ける滑車をぐるぐる回した。

「バカな。たった五人に、この帝国最強の要塞を落とされるなんて。強すぎる」

 スニーク兵が驚いている。

「この辺で、切り出したらどうだい?」

 おれがロザミアに促すと、意味は通じたようだった。

「わらわはロザミア・バッシュ。バッシュ帝国の後継者じゃ。この要塞はこれから、バッシュ帝国の傘下に入る。降伏するものは武器を捨てよ。逆らうものは容赦なく叩き斬るぞ」

 何人かは武器を捨てたが、いきりたって、襲ってくる敵兵もいた。

 そいつらを神さまが一人で一掃する。

「神さま大活躍ですね」

 リーゼが嬉しそうにいう。

「ああ、もうすぐ帝都だからな。帝都には魔王が待っている。神さまの命もそれまでだからな。最後の灯火だろ」

 おれは答えた。

 門を征圧したら、次は司令室に向かった。降伏したスニーク兵に道順を聞いて、司令室を目指した。

 司令室で待っていたのは、ベビーサタンだった。

「なんだ、おまえたち。ぼくちんの要塞で勝手に遊ぶな」

 ベビーサタンは、大爆発の魔法を唱えようとした。

 だが、何も起きない。

「こいつ、魔界の王の子ども?」

「どうやら、そうらしいの」

「わたしに任せろ、まこと」

 アイザが飛び出た。ベビーサタンの巨大フォークと互角に斬り合っている。

「うーん、どうする、リーゼ」

「めかけが思うに、内緒ですが、アイザでは危険だと思います」

「かといって、神さまに任せるのはまだ早いしなあ」

 しかたなく、おれがアイザの加勢に加わった。

「隙あり」

 おれがベビーサタンを一撃で後ろから斬り殺した。

「ぎゃあ、助けてよ、パパ」

 ベビーサタンはそう叫んだ。

「よくやった、まこと。正直、疲れていた」

「うん、アイザ。ご苦労さま。それより、こいつのパパって?」

 サタンパピーが現れた。

「ベビーサタンに、サタンパピー、こいつら、魔界で身分詐称罪にならないのかな」

「その可能性はありますが、魔界は混沌としていますからね」

「え? 魔界に行ったことあるの、リーゼ?」

「めかけは少しだけ」

「すごーい」

 おれとリーゼがのんびりと会話をしていると、サタンパピーに神さまが燃やされていた。

「あちちちち」

 神さまが痛がる。

 神さまでは、まだ魔族の相手は無理か。

「どいて、神さま、おれがやる」

「我輩、悔しいでござる」

 おれと神さまが変わると、

「うっきー、まがいなりにも魔界の王の名を名のるあちきに勝てると思ってるのか。その傲慢、許しきれん、うっきー」

 おれは一撃でサタンパピーを斬り殺した。

 すると、椅子の後ろに隠れていたスニーク兵が騒ぎ出した。

「まさか、サタンパピー様がやられるとは。これがバッシュ帝国の力か」

「そうだ、サタンパピー様が負けるわけがない。勝てるとしたら、神の意思はバッシュ帝国にあるのかも」

 そんな会話を聞いて、おれたちは爆笑した。

「なんだ、スニーク帝国は神の御意思に従うのか。あははははは」

「そうだ、神さまなら、おれたちの中にいるぞ」

 おれも笑った。

「我輩の意思は、地上の支配者は地上に任せることにある。我輩は遊んでおるにすぎん。それ、スニーク帝国の司令官、出てきて、我輩と勝負しろ」

「はっ、わたしが司令官です」

 スニーク帝国の兵が一人、起立した。

「わたしの相手をするあなた様の名前は何でしょう」

「あはははははっ」

 おれたちは笑った。

「何がおかしい、バッシュ帝国!」

 司令官が笑うおれたちに怒ったが、おれがツッコンだ。

「あなたの相手の名前は、神さまですよ」

「何い、か、み、さ、ま?」

 一瞬、スニーク帝国の司令官は、本当にバッシュ帝国に神さまの加護があるのかと思い浮かべたのだった。

 だが、実際には、神さまは遊んでいるのだそうだ。これが、神さまの世界観。

「我輩が一対一で相手してくれる」

「は、よろしくお願いします」

 スニーク帝国最重要要塞司令官は、神さまと一対一で剣をかまえた。

 斬り結ぶ二人。実力差は明白だった。

 神さまの勝ちだ。

「おおお、やるなあ、神さま」

「すごいぞ、神さま」

 ロザミアも歓声をあげている。

「どうであったかな、ロザミア殿、我輩の立会いは」

「うむ。わらわは神さまを見直しておる」

 ロザミアは神さまを褒め称えた。

 面白くないのは、アイザだ。むすっとしている。

「これより、この要塞はバッシュ帝国の支配下になった。それ、祝杯をあげるぞ」

「いやっほう」

 おれたち五人は勝利の喜びにひたっていた。

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