第26話

「何か、怪物がいますね」

 リーゼがいった。

「うむ。だが、眠っているようだぞ」

 アイザが答えた。

 おれが見ると、一メートルくらいあるキノコみたいな怪物に足がついていた。それが二匹いる。

「あれは、眠りこぼし夢こぼしじゃ」

 ロザミアが説明した。

「眠りこぼし夢こぼしというと?」

 おれが質問すると、

「通りすがる者を眠らせて、夢の中に迷いこませる怪物じゃ。気をつけておれ。眠っておるが、眠ったまま攻撃してくるぞ」

 とロザミアが答えた。

「わたしが退治しましょう」

 アイザがすすんで前に出た。眠る怪物二匹相手に一人だ。

「ふふふ、このアイザ相手に眠ったままで戦うとは、ぐふふふ、すぴー、すぴー」

 アイザは眠ってしまった。

「見よ、気をつけろと申したではないか」

「めかけは怖いです」

「ならば、我輩の出番じゃな」

 つづいて、神さまが眠りこぼし夢こぼしを倒しにいった。

「我輩に敗北の二文字はない」

 といって剣を振り上げると、

「ぐおーすか、ぴーぴー」

 と、熟睡してしまった。

 アイザと神さまが地面に倒れ伏して眠っている。

「これはかなり危険な相手だな」

「うむ。まこと、しかたないが頼む」

「わかった」

 そして、おれが眠りこぼし夢こぼしに斬りかかった。

 気がつくと、おれは、神さまと剣を交えて戦っていた。

 やばい。何か、罠にはまった気がする。

「救世主さまも眠ってしまったのです。まさか、この怪物が高位の魔道士?」

 リーゼが悩んでいた。

「三人も眠らされたのでは、危険すぎる。このままでは、五人とも眠らされて、全滅するかもしれん。わらわとリーゼは待機じゃ。三人が起きるまで待つとしよう」

 ロザミアが慎重な作戦を立てた。

 おれはその隣で、神さまと戦っていた。

「我輩に勝とうなど、笑止千万」

「待て、神さま。これは罠だ。おれたちは催眠にさらされているんだ」

「そんな戯言で我輩が手を収めると思ってか」

 いつになく、神さまの動きが速い。

 がきんっ、がきんっ、神さまの剣を受けるので精一杯だ。このままでは、殺される。

 神さまはいつの間にかおれより強くなっていたのか。

 しかたない。

 ばしっ。

 おれの剣の一撃が神さまに当たる。神さまは斬り殺されて、死んだ。

 神さまは後で生き返らせよう。それより、残りの三人は?

 気づくと、アイザが裸で剣をかまえていた。

「まこと、悪いが死んでもらうぞ。今までの恨み、晴らさせてもらう」

「なんだ、恨みって?」

「わたしからロザミア様をとりあげた罰だ!」

 ぼよんとアイザのおっぱいが揺れる。剣がゆっくりと迫ってくる。

 軽くかわして、剣の柄で、アイザを叩く。アイザは気絶した。

「よくもアイザを。まことはわらわを裏切るつもりか」

 ロザミアがなぜか裸で剣をかまえていた。

「待て、ロザミア。これは、怪物の催眠術だ。すぐに術を解く。待ってろ」

 おれが制するが、ロザミアはいうことを聞かない。

「術を解くよりも先に、このチャンスにわらわを犯すのが汝の役目であろう。さあ、早く、わらわをむちゃくちゃにしてくれ」

 何をいってるんだ、ロザミアは。

「早く、早く、わらわはもうダメじゃ」

 裸のロザミアが悶えて、地面でよがっている。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 ロザミアのあえぎ声がする。

 おれは何もしてないぞ。おれにはリーゼがいる。

 そう思うと、裸のリーゼが現れた。

「めかけと一緒になりましょう、救世主さま」

「何をいってるんだ、リーゼ」

「もう、帝国がどうなろうと、世界がどうなろうと、かまわないではないですか。眠りこぼし夢こぼしは、リーゼよりも強い魔力をもつ高位の魔道士だったのです。この怪物の力で、救世主さまは元の世界に帰れます。いや、帰されます。だから、最後にめかけと」

 リーゼがおれの首に腕をかけてきた。

 なんだと。突然だが、帰る時が来たのか。それならば、リーゼとロザミアと記念をつくっておこうか。

 リーゼのおっぱいを右手でもんだおれに、リーゼが語りかけてきた。

「ここは夢の中です。もう、救世主さまはこの夢から出られません」

 はっ、しっかりしろ。

 肝心の、眠りこぼし夢こぼしはどうなったんだ?

 いた。

 眠りこぼし夢こぼしは、おれの夢の中で眠っていた。

「ここは救世主さまの夢の中です。何をしても、あの怪物を倒すことはできません。例え、夢の中であの怪物を倒したところで、救世主さまは夢の中なのです」

「やってみなければわからないだろう」

 おれはリーゼから離れると、剣を振りかざし、眠りこぼし夢こぼしを斬り殺した。

 まず、一体。

「ぎゃおおお」

 と声がして、眠りこぼしは死んだ。

 ぐさっ、と夢こぼしから触手がのびて、おれの腹を刺した。夢こぼしの攻撃はおれを貫いていた。

 おれは死ぬのか。

 いや、気をしっかりもて。こんな道端の怪物二匹に殺されてたまるか。

 おれは腹を刺されたまま、夢こぼしに近づいた。

 ずさっと、夢こぼしを斬り殺す。腹の傷は痛くはなかった。

 気がつくと、服を着たリーゼとロザミアがこちらを見ていた。

「わあ、すごいです。めかけもびっくりです」

「今の、まことがやったのか」

 何が起きたんだ? 何が何だかわからない。

「説明してくれ。何が起きたのかを。おれは催眠に会っていた」

 見ると、服を着たアイザと神さまが気がついて起き上がるところだった。

 眠りこぼし夢こぼしは斬り殺されて死んでいる。

「めかけが見ていたままを説明します」

「うん、頼む」

「救世主さまは眠らされたのです」

「何! おれが眠っていた?」

「そうです。救世主さまは確かに眠らされました。ですが、魔術で見ていましたが、眠った救世主さまは夢の中で、夢の中の眠りこぼし夢こぼしを斬り殺しました」

「そんなの無意味だろう」

「それがそうではなかったのです。夢の中で殺された眠りこぼし夢こぼしは、現実世界でも、同時になぜか斬り殺されて死んでしまいました」

「はあ?」

 おれには少しよくわからなかった。

「どういうことだ」

「救世主さまの夢の中で攻撃されたものは、夢の中であっても、現実に攻撃を受けるようです」

 そう、なのか。

「何にせよ、今回は危なかったな。負けるかもしれないと一瞬思った」

「はい、めかけも驚きました。あの怪物は、めかけと救世主さまが探していた高位の魔道士のひとつです」

「何だって!」

 おれは驚いた。

「だけど、殺しちゃったぞ」

「はい、それが救世主さまの意志であられましたので」

「簡単に殺しちゃ、まずかったかな」

「むしろ、救世主さまが無事に夢の中から帰ってきてよかったです」

「おれを眠らせるなんて、相当にすごい魔力なんだろ」

「そうです。想像を絶する強い魔力です」

「おしい敵を殺したな」

「でも、眠りこぼし夢こぼしはずっと眠っているので、交渉できなかったのです」

「しかたないか」

「まあ、あきらめましょう」

 おれは初めて出会った高位の魔道士にしばらく心が休まらなかった。

 高位の魔道士が味方になるとは限らない。

 むしろ、敵として、おれとリーゼを利用しようとする可能性の方が高いはずだ。

 おれたちは、優しい高位の魔道士を探さなければならないのだ。眠りこぼし夢こぼしのような、外敵を倒そうとする高位の魔道士ではなく。

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