第25話
「この城は領主さまが逃げ出してしまって、人っ子一人おりません」
とある城下町に着くと、町の人がそういっていた。
「どうする? ロザミア?」
おれが聞くと、
「とりあえず、城の様子を見てこよう。異常がなければ、領主を町の中から任命して、占領しよう」
といった。
それで、おれたちは無人の城の中に入っていった。
「まあ、おそらく、当然のように怪物が出るのだろうな」
アイザがいっている。
「ああ、スニーク帝国領内だからな。わらわもそう思う」
ロザミアが答える。
結果として、怪物は出なかったものの、城の中の石像が動いて襲ってきた。何十体の巨大な石像が彫ってあったのだ。
「この動く石像、剣が刺さらんぞ」
ロザミアがわめいた。
おれは例によって、楽勝だから、動く石像を一体、二体と一撃で倒していったが、少し、様子を見ることにした。
あることが気になったのだ。
リーゼのそばに行き、リーゼを守りながら、残り三人の動く石像との戦いを見ていた。
「えいっ、とおっ」
アイザのかけ声が響く。
ごつんっと重い動く石像の殴りがアイザに効く。
「ロザミア様、大丈夫ですか」
アイザが叫ぶが、ロザミアは答える余裕もない。
「アイザ、厳しい」
ロザミアがひとこと、やっとのことで話す。
そんな中、生きのいい動きをする者が一人だけいた。
神さまだ。
神さまは動く石像の攻撃を全部かわし、剣をずさっ、ずさっと斬りこんでいく。
おれはこっちに向かってくる動く石像を倒しながら、アイザとロザミアと神さまを見ていた。
動く石像の攻撃を全部かわす神さま。攻撃を受けてしまうアイザ。とても相手にもならず、後ろに下がるロザミア。
アイザの剣が斬っても、動く石像は倒れない。
神さまの剣は、何度か当たると、動く石像が倒れていく。
あの三人の中で、動く石像を倒せるのは、神さまだけだ。
おれは近づいてきた動く石像を一体、斬り倒していった。
「リーゼ、神さまはアイザより強くなったね」
「え? そうなのですか、救世主さま?」
リーゼも聞いて驚いていた。
「ああ、アイザは防御でも攻撃でも、神さまより押されている。神さまの剣の腕は、アイザを超えた」
「はい。確かに、見ていると、そう思えてきます。めかけはいわれるまで、気づきませんでした」
「リーゼも、神さまを軽く見ているね」
リーゼが驚いて、汗を流していた。
「いえ、救世主さま。めかけにそのようなところがあったら、めかけは破滅です。もう、めかけは心がくじけてしまうそうです。めかけは神さまをあまく見すぎていたのでしょうか」
リーゼが苦しそうに話す。
「おれも、神さまがあそこまで成長するとは思わなかったよ。やっぱり、神さまは力がなくても神さまなんだなあ」
神さまとアイザとロザミアが苦戦しながら、ぎりぎりで戦っている。
「見ろ。動く石像を倒せるのは神さまだけだ。アイザもロザミアも、一体も倒していない」
「はい。めかけが見ていてもそうです」
動く石像の殴りをくらって、神さまがふっ飛んだ。
「大丈夫か、神さま」
アイザが叫んだが、おれが助けに行くことにした。
「ここは任せろ、アイザ」
おれが一体、二体と動く石像を倒していく。
アイザも動く石像と斬り結んでいる。
神さまは不屈の根性で起き上がった。
「我輩、まだ、この程度では負けないでござる」
神さまがやってきて、動く石像を斬り倒していった。
結局、三十体ぐらいいた動く石像を倒した。二十体以上はおれが倒したものであり、残りは神さまが倒したものであった。
「はあ、はあ、今回は苦戦したなあ、まこと」
アイザがいった。
「ああ、お疲れ、アイザ。よくがんばったよ」
おれは答えた。
次の日、朝の剣術の訓練の時、神さまはアイザにいった。
「アイザ殿、剣術の修行は今日で終わりにするでござる」
それを聞いてアイザは怒った。
「なんだ! 根を上げたか、神さま。この軟弱もの。このアイザに勝てるようになるまで、修行を怠るんじゃない」
「すまぬが、もう、アイザ殿の訓練は終わりにするでござる」
「なにい。貴様、そんなことでロザミア様の直属軍が務まるとでも思っているのか!」
アイザは怒鳴った。
しかし、次のひとことでおれは神さまの気持ちがわかった。
「まこと殿。今日から、まこと殿が我輩の剣の指導をしてくれないか」
神さまはいった。
なるほど。神さまも気づいているんだな。自分がアイザより強くなったことに。
「いいよ、神さま。おれが剣術の訓練の相手をするよ」
「ありがたいでござる、まことどの」
「でも、おれ、剣術の腕なんて、てんで素人だよ」
「かまわないでござる。思うとおりのことを教えてくだされ」
神さまは謙虚だった。
「はい、ほい、あそれ、ほれ、ほれ」
おれは、神さまの剣を軽く受けるだけの練習を始めた。
「まことも神さまもなっておらん。精神がたるんでいるぞ。わたしの修行についてこられずに、本当に強くなれるなどと思うな」
アイザが怒鳴っている。
「まこと」
ロザミアが何がいいたそうだったが、
「神さまの好きにさせてあげてよ。お願い、ロザミア」
おれがいうと、
「うん」
と、ロザミアが答えた。
ロザミアは気づいているだろうか。神さまの剣の腕がアイザを超えたことに。
少なくとも、アイザは気づいていないようだった。
「二人とも、剣の振りがあまいわ」
アイザは怒鳴っていた。
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