第20話

 おれとロザミアが風呂に入っていると、コツコツと風呂のドアを叩く音がする。

「何ごとじゃ」

 ロザミアが厳しく叱責すると、物怖じしないリーゼの声が返ってきた。

「めかけもお風呂に入れてくれたら、アイザの怪我をすぐに治す方法を教えます」

 なんだと!

 うーむ、おれは悩んでしまった。

 ロザミアも悩んでいる。

「どう思う、まこと。罠じゃろうか」

「罠? リーゼは罠を使うような女の子ではありませんよ」

 おれが焦っていうと、ロザミアは懐疑の声をあげた。

「じゃが、わらわの背中を見せても信用できると思うか」

 確かに。ロザミアにとって、命をかけるかのような決断の場面だ。だが、おれははっきりといった。

「リーゼを疑うくらいなら、おれは死んでもいいです」

 ロザミアは目を丸くして驚いていた。皇族として、人の極限状態を頻繁に眺めてきたロザミアだが、女のために命を投げ出すと即決した男は初めてだった。

「まことがそこまでいうのなら、よいのだろう」

 それから、意地悪そうに聞いた。

「じゃが、わらわは慣れておるからよいとして、年頃の男や女が裸を見せ合ってよいものかな」

 すると、その声が聞こえたらしく、リーゼから声がかかった。

「あら、めかけはすでに裸を救世主さまに見られるのは慣れております」

「何!」

 ちょっとロザミアが怒ったようだった。

「いつ、見られておるのじゃ」

「めかけは魔術で裸を隠しているのに、救世主さまには魔術が効かないのです」

「そういうことか」

 おれはどうなることか、はらはらどきどきしていた。これが修羅場? 三角関係? こんな複雑な駆け引き、おれ、できないよう。

「そういうことなら、わらわはリーゼと一緒に風呂に入るのに一向にかまわないが」

「ええ、おれもかまいません。ですが、アイザの怪我をすぐに治す方法とは何でしょう。それがわかりません」

「なるほど。確かに、わらわにも想像がつかん」

 そして、ロザミアはドア越しに声を張り上げた。

「リーゼ、アイザの怪我を治す方法をすぐに申してみよ」

 答えはおれの想像の斜め上を飛んだ。

「はい。アイザの傷は、救世主さまが回復魔法を使えば、治るはずです」

 はい? なんで、おれがそんな回復魔法なんて使えることになっているの?

 おれはわけがわからなかった。

「まこと、お主、回復魔法が使えるのか?」

「ええ、そりゃあ、やるのは初めてですけど、やってできないことはないと思います」

 おれは答えた。

「よし、ならば、本当に怪我が治ったら、一緒に風呂に入ろう」

 がばっと、ロザミアが湯舟から出た。

 おれは簡単に略装で下着だけ着ると、リーゼに聞いた。

「回復魔法ってどうやってやるの?」

「めかけが思うに、手を当てて念じれば治ると思います」

 服を着たロザミアがじっと見ている。

 おれは、重症を負い、ベッドに横たわるアイザの横に歩いて行って、傷に手を当てた。

 治れ!

 おれがそう念じると、アイザが目を覚ました。

「おや、急に体が軽くなったな」

「ははははははははっ、本当に怪我が治ったわ」

 ロザミアが笑っていた。嬉しいのだろう。

「なぜでしょうか。急に体が元気になった気がします。心配をかけてすみませんでした、ロザミア様」

「よいよい。今から風呂に入るからな」

「はっ、お風呂でございますね」

「それがな。これから、わらわとリーゼとまことで一緒に風呂に入ることになったのじゃ。アイザは神さまとでも一緒に入っておれ」

 目が点になったアイザであった。

「な、ななな、なぜですとお、ロザミア様?」

 アイザがとり乱している。

「アイザ、お主が怪我をしている間にそう決まったのじゃ。わらわは約束は守るぞ、リーゼよ」

「はい、めかけも緊張しております、ロザミア様」

「では、一緒に風呂に入るか」

 ロザミアがおれとリーゼの背中を押す。悪い気はしない。

「じゃあな、アイザ、神さま」

 おれが声をかけると、アイザはとり乱していた。

「どういうことだ、まこと。どんな策をろうじた!」

「アイザ、お主の傷を治したのじゃよ。治るかどうかで賭けておったのじゃ」

「ロザミア様!」

 アイザは絶望しているように見えた。

「我輩はアイザと一緒に風呂に入ればよいのかな」

 神さまは何が起きても余裕だ。

「うわあああ」

 アイザが叫んだ。

 おれたち三人は気にせずに、風呂に入ることにした。

 おれがリーゼの体を洗っていると、

「何か不思議な気分になりますね」

 とリーゼがいっていた。

 その間に、ガラッと風呂のドアが開いた。裸のアイザが入ってきた。

「神さまと入るよりは、まことのがマシだ」

 おれは鼻血が今度こそ出るかと思った。

 リーゼの体を洗い、あそこを点検する。処女膜がある。クリトリスを弾くと、

「むう」

 という。

 つづいて、アイザの体を洗う。最初は照れて怒っていたようだが、だんだん大人しくなった。

 またを広げると、

「何をするのだ!」

 と怒ったが、

「当たり前のことだろ。みんな、やっているぞ」

 というと、素直に股を開いた。ロザミアの手前、嫌がれないのだろう。

 アイザは男性経験があるだろうか。おれは汗がだらだら流れるのを感じながら、あそこに手をのばすと、処女膜が確かにあった。

「おかしなことを考えておらんだろうな、まこと」

「そんなことはない」

 おれが断言すると、

「どうした?」

 とロザミアが聞いてきた。

「答えるべきか」

 おれがいうと、

「当然、答えるべきだろう!」

 とアイザが怒った。

 ならばいおう。

「アイザも処女でございますね」

「あはははははっ」

 ロザミアが笑った。

「何がおかしいのですか、ロザミア様!」

 さすがにここはアイザでも怒るが、

「そうか、アイザは処女か。あはははは」

「この三人はみんな処女です」

 おれがそういうと、

「あはははは」

 三人とも笑った。

 とても楽しかった。

 これから、これが毎日など信じられない。

 おれたち四人が風呂から出ると、悟ったように平然と神さまは一人で風呂に入った。

 神さまは何があっても平気だ。

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