第21話
五匹の大目玉と戦闘になった。大きな目玉に手足がついた変な怪物だ。五人それぞれが一対一で、大目玉と対決になった。
おれはいつものように、一撃で大目玉を斬りおとした。世界が変わる。敵が何か魔法を使った気がしたが、おれに効いた感じはなかった。
「いやあ」
少し離れたところでアイザの気合が聞こえる。アイザでもこの怪物なら倒せるだろう。
楽勝だ。もう、仲間がどんな怪我をしても、回復魔法で治すことができる。場合によっては瀕死の状態からでも蘇生できるだろう。もう、仲間の死を心配する必要はない。
いける。おれは無敵だ。
すぐにリーゼの相手の大目玉を斬り殺す。おれの速さは、敵より数段速い。
「へぶお」
神さまが相変わらずやられているから、神さまの相手の大目玉も斬り殺す。
次は、アイザとロザミア、どちらを助けようか。
と思ったら、少し様子が変だった。
「気をつけろ、まこと。この怪物、催眠の魔術を使うぞ」
ロザミアがいった。
ロザミアはまだ大目玉を斬り倒せないでいる。
アイザはどうだ? アイザの様子を見ると、なんかこっちに向かってくる。
「大丈夫か、まこと。今にも死にそうではないか?」
アイザがいう。
いや、おれは全然平気だけど。
「まこと、実はわたしは、まことのことが大好きだったのだ」
何をいってるんだ、アイザは。
「まこと、わたしはまことを愛しているといってもいい」
な、な、な、な、なんと、突然、愛の告白をされてしまったぞ。いくら一緒にお風呂に入っているからとはいっても、まだ、おれたちはただの旅仲間。共に戦う戦友ではないか。それ以上の一線を越えるというのか。
それはちょっと、気が、気が早くはないか。
おれにはリーゼがいるし、ロザミアというご主人様もいる。
「ちょっと待ってくれ、アイザ。お、おれを愛しているってどういうこと?」
「どうやら、催眠ですね」
リーゼがいった。
「なんだ、催眠か」
おれはほっと安心した。そんな告白されても、気持ちの準備ができていない。
「わたしの愛は海より深く、まことといるだけで天にも登った気分なのだ。あいや、いわなくても、わかっている。まことがわたしを好きなことはうすうす気づいていた」
頭、かち割ったろか、この女。
だから、おれにはリーゼとロザミアがいるのだ。
「わたしを抱きしめてくれ、まこと」
「何をいっておるのじゃ、アイザ。わらわに相談もなく、そのような話をするとは、許さぬぞ。なぜ、わらわに相談もなく、そのようなことを決めるのじゃ」
ロザミアがいう。
アイザが近づいてくる。大目玉二匹は遠くで見ている。あの大きな目玉で。あれの目が催眠を使うんだな。
と思っていたら、アイザが迫ってきた。
「まことはわたしとキスしたいのだろう。あ、いや、いわなくてもわかっている。まことがわたしを心の底から愛していることは、実は旅の最初から気づいていた」
「なんじゃと。わらわの許可もなく接吻など、許さぬぞ」
「ロザミアも催眠かなあ」
おれが聞くと、
「さあ、どうでしょうかねえ」
とリーゼが答えた。
「ロザミアもおれのことが好きなのかい?」
「バカをいえ。付き人などと結婚できるか」
どうやら、ロザミアは正気のようだ。
「ロザミア様がまことに気があるのはわかっていました。ですが、ロザミア様はまことよりも、わたしを愛しておいでです。いや、これはいけない。女同士の禁断の恋。ああ、わたしはなんと罪深いのでしょう。ロザミア様の心をたぶらかすとは」
アイザが高揚している。
「催眠で潜在意識がでてきたのかな」
おれが聞くと、
「いえ、ただの催眠でしょう」
とリーゼが答えた。
「うわ、ちょっとやめろよ。アイザ、くっつくなって」
おれがアイザを引き離すと、ロザミアもアイザを引っ張った。
「そうじゃ。わらわに許可もなく、まことと抱擁しようなど、けしからん」
「いい加減、大目玉を倒した方がいいかな」
おれがいうと、
「面白いから、もう少し見てみましょう」
とリーゼがいう。
「ならん! このような醜態は見せること、まからんのじゃ」
と、ロザミアが大目玉に突っ込んだ。
慌てて、おれもロザミアを追う。
「ああ、やめてくれ。わたしのために争わないでくれ。ロザミア様、まこと。わたしを取り合って、斬り合いなど」
アイザの妄言は放っておいて、ロザミアより早く、一匹の大目玉を倒した。
もう一匹の大目玉は、ロザミアが意地で倒した。
戦闘終結だ。
しばらく時間がたち、おれはアイザに聞いてみた。
「ねえ、アイザって、おれが旅の初めからアイザに気があったとか思ってない?」
「な、なんだ、まこと。突然の求愛か?」
どうやら、正気に戻っているようだ。
「おれは別に心の底からアイザを愛しているとか、そういうことはないと思うよ」
「何をいっているんだ。別にわたしだって、まことのことなんて、全然興味なんてないんだからね」
ううむ。本音は計りづらい。
「お主たち、くだらぬ話をしすぎじゃ!」
ロザミアに怒られてしまった。
「めかけも、くだらない話をしすぎだと思います」
ああ、リーゼに嫌われる。それは、まずいよ。おれはどうしたらいいんだ。これは。
後で、どういいわけをしても、その日のうちに、ロザミアとリーゼの機嫌は治らなかった。大目玉、恐るべし。
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