第17話
西の州都を攻めることになった。例によって五人で攻める。五人で城攻めだ。相手に警戒されないため、その方が攻めやすい気がするとロザミアがいうからである。
突然の思い出したような説明で恐縮だが、アイザは赤髪である。リーゼ、ロザミア、アイザが並ぶと、黒髪、金髪、赤髪と美しい色合いになる。おれと神さまも黒髪である。
「城主に会わせてもらおう」
ロザミアが城の門番にいうと、
「城主さまに謁見の申し出ですね。承りました。どうぞ、お通りください」
と通された。
「面白い展開だな。案外、この城の君主は人徳があるかもしれないな。できれば、生かして恭順させたいが。だが、さすがに、わらわの顔を誰も知らないなどということはあるまい」
ロザミアはちょっと嬉しそうだ。
だが、どんな下賎な人民とも会う城主には、腹黒い謀略があったのである。
城の正面廊下を歩き終わると、二階へ登る階段があった。階段を登ると、廊下に血がついていた。
机があり、書記官が座っている。
「この城を訪れた者は皆、自分の持っている財産をすべて記入してください」
案内してくれた兵がそんなことをいった。へへへっと顔が笑っている。
「そんな面倒なことをするのか。すべての財産など書いていては日が暮れるわ。そもそも、わらわは覚えておらん」
「主だったものだけでけっこうです」
そういう話だったので、ロザミアは、
「主だった財産はすべて持ち歩いておる。わらわが持っておるものですべてじゃ」
と答えた。ロザミアは二つの城という領地を持っているが、それを正直に書くほど愚かではなかった。
「それなら、そうお書きください」
書記官がいった。
『持ち歩いているものだけ』
そう書かれた。
「めかけもです」
リーゼがいった。
「おれもだな」
おれがいう。
アイザは、
「山小屋を一軒持っているのだが、ちゃんと書くべきだろうか」
と悩んだ。
「好きにしろ」
とロザミアにいわれ、アイザは正直に『山小屋』と書いた。
「おい、神さま、『全世界』とか書くなよ」
「我輩、嘘はついておらん」
「そうはいってもなあ」
おれとリーゼと神さまでもめたが、結局、神さまは『全世界』と書いた。
謁見する者の財産を調べて、どうするというのだろうかと思っていたら、扉をくぐり謁見の間に入ったおれたちはすぐにわかった。ばたんと後ろで扉を閉められる。たかりだ。
「よく来てくれた、我が城へ」
椅子に座った城主はそういった。おそらく、決まりどおりの決まりを口上として述べる。
「実はな、客人よ。この城を訪れた客人からは、すべての財産を我々に寄贈してもらうことになっている」
ロザミアがうんざりしていた。善君かと思ったら、とんでもない悪者だったようである。
「この者たちの財産は、持ち歩いているものと、山小屋と、全世界だそうです」
書記官からの使いが読み上げた。わははは、と笑う城主たち一堂。
「残念だが、あきらめてもらおう。今から、お主たちの所持品と山小屋と全世界は我らのものだ」
「全世界だそうです、閣下」
「わははは、全世界か。これで、今からわたしは全世界の所有者じゃ。な、わけがあるかあ」
城主が使いに怒鳴った。
げらげらげらと、立ち並んでいる兵たちが笑う。
「わらわたちから金品をまきあげようというのか。とんでもない暗君がいたものだな。わらわは亡きルドルフ13世の次女ロザミア・バッシュじゃ。今から、貴様らの悪政を廃し、この城と領土はバッシュ帝国領とする」
ロザミアが剣を抜いて、城主に突きつけていった。
「なに? ロザミア姫だと!」
城主と兵士が目を丸くして驚いた。
「かかれ、アイザ、まこと」
はいはい。この間抜けな城主たちは、名のらなければロザミアがロザミアだと気づかなかったんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、おれは走って、城主のそばに立っていた巨大な棍棒を持っていた巨人をぶっ殺した。
次の瞬間には、城主の体をアイザが斬りおとしていた。
「わああああ」
兵たちは動揺していた。
「降伏せよ。城主は死んだ」
ロザミアが叫んだ。
「うろたえるな。我らには魔族がついている」
敵の指揮官が突撃の命令を出した。おれたち四人で、その部屋の全兵士を殺した。
三十分ぐらい斬り合っていたと思う。四十人くらいいた敵兵士は全員死んだ。
「神さまが倒した敵は今回もゼロと」
「ぎいい、悔しいいい」
アイザと神さまのいつものやりとりだ。
「この城のどこかに魔族がいるらしいな」
「見つけるのは難しい。とりあえず、勝ち戦だ。魔族が出てきたら、おれが相手をするよ、ロザミア」
「うむ、わかった。アイザ、リーゼ、神さま、急いで、この城と領土がバッシュ帝国のものになったことを布告せよ」
「わかりました」
そして、西の州都を占領したのである。逆らう敵はまだ潜んでいるはずで、まだ油断はならなかった。
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