第13話

「この街には、幽霊戦士が出るのです」

 着いた町でそういわれた。

「町の中に怪物が出るのか?」

「はい、そうです。何人も襲われ、帰らぬ人となっています。スニーク帝国の兵士に頼んでも、退治してもらえません」

 おれはロザミアを見た。

「うむ。ここはわらわたちが幽霊戦士とやらを退治して、町の平安を守るしかあるまい」

 そこで、幽霊戦士の出る道路に、夜中、張り込むことにした。

 幽霊戦士が出てこればいいのだが、なかなか、出てこない。深夜も二時をまわった。

「ふうむ。困ったのお。何日もこの町に滞在するわけにはいかない。できれば、今夜、幽霊戦士を退治したいのじゃが」

 ロザミアがため息をつく。

 こういう判断は難しいものだ。ロザミアの心労をとり除くためにも、ちゃんと、今夜、幽霊戦士に出てきてもらわなければならない。

「おい、神さま。お前、囮になって、通りを歩いてみろ」

 アイザが神さまに命令する。

「我輩、囮でござるか。まあ、嫌ではござらんがな」

 神さまが危険地帯、よく出没する地帯を歩いてみた。神さまは、あからさまに挙動不審に通りを歩く。

 だが、幽霊戦士は出てこない。

「おい、何やってんだ。神さま、ちゃんと仕事しろ。うまく、幽霊を誘き出すんだ」

「そんなことをいわれても、我輩、何をしたらいいかわからないでござる」

「神さま、試しに血を一滴、流して見てくれないか。わらわが思うに、血の匂いをかぎつけて、幽霊戦士が現れるのではないじゃろうか」

「我輩、わざと傷をつくるのでござるか。それは、我輩の役目なのでござるか」

 しぶる神さまをアイザが叱責した。

「そうだ、神さま。お前の仕事だ。早く、指を切って、血を垂らせ」

「みんな、人使いが荒いでござる」

「早くしろ、神さま」

「わかったでござる」

 神さまが血を一滴流すと、ロザミアの予想通り、血に飢えた幽霊戦士がうじゃうじゃと浮かびあがってきた。何もないところに、突然、身長三メートルはある鎧武者が現れたのであった。

 その数は、予想に反して多く、十五体くらいの幽霊戦士がいた。

「何か、この世に未練を残して死んだ兵士団だろうか」

 ロザミアはそう分析する。

「めかけには声が聞こえます。殺し損ねた。殺し損ねた。殺し損ねた。と呟いています。ロザミア・バッシュを殺し損ねたと呟いています。どうやら、ロザミア様を殺し損ねた罰でスニーク帝国に殺されたスニーク兵の亡霊のようです」

「なんと。わらわの命を狙って、化けて出たというのか。許しがたい。そのような愚かな亡霊は、皆殺しにして、成仏させてくれる」

 ロザミアが剣を抜いた。

「へぼっ」

 神さまが幽霊戦士に殴られて、三メートルくらいふっ飛ばされていた。

「痛い。痛いでござる。我輩、何も悪いことはしてないでござる」

「神さま、よくやった。後はまかせろ。やあ」

 アイザが幽霊戦士に斬りかかったが、剣はするりと幽霊戦士の体を通り抜けた。

「なんだ? 何が起こった」

 アイザが不思議がる。

 ロザミアも、幽霊戦士に斬りつけてみて、剣が素通りするのを確認した。

「どうやら、この幽霊たちには、わらわたちの剣が効かないようじゃの」

「痛っ」

 アイザの腕から血が出た。アイザが幽霊戦士に腕を斬られたのだ。

「ロザミア様、気をつけてください。こちらの攻撃はすり抜けるのに、向こうの剣はこちらに当たるようです」

「うむ。敵のすべての攻撃をかわすしかあるまい」

 アイザもロザミアも苦戦しているようだった。こちらの攻撃はすり抜けるのに、相手の攻撃は当たるのでは、不利としかいいようがない。勝てるわけがない。何か、幽霊戦士の弱点を見つけなければ、勝ち目はないだろう。

 そう、おれがいなければ。

 というのも、おれの攻撃は、普通に幽霊戦士に当たるからだ。ズサッと幽霊戦士を斬り裂いて、剣を返す。世界が変わる。おれの一撃で、幽霊戦士は死んでいく。

「おれに任せろ。アイザ、ロザミア」

 おれは次々と、幽霊戦士の鎧に剣を振り下ろしていく。

 ズサッ。ズサッ。ズサッ。

 幽霊戦士が、一人、二人、三人と倒れていく。おれの攻撃は、なぜだかわからないが、幽霊戦士に効く。

「おお、まこと、見事じゃ」

「ふふっ、やるな、まこと」

 ロザミアとアイザが褒めてくれる。

 おれは四人を後ろに下げて守り、一人で幽霊戦士の群れと戦った。

「がんばれ、まこと」

「油断するな、まこと」

 ロザミアとアイザの応援を受けて、幽霊戦士を一人、また一人と倒していく。数十分後には、十五体の幽霊戦士全部を退治することができていた。

 やった。おれは久しぶりに勝利の喜びと安堵を感じていた。今回は危なかった。ロザミアとアイザの剣が通用しないのだ。幽霊戦士はかなり危険な強敵だった。

「勝ったあ」

 おれは気力が疲れて、剣を鞘に収めると、座りこんだ。

「よくやった、まこと」

「すごいぞ、まこと」

「救世主さまはさすがです」

 おれにみんなの賞賛が浴びせられた。

「我輩も戦っていたのだが、誰も見ていなかったのかな?」

 神さまが遠くで寂しそうにしている。

「神さまは一体も倒してないじゃないか」

「そうだ。神さまのくせに生意気だぞ」

「まあまあ、そういわずに。よく頑張ったね、神さま」

 おれが声をかけると、

「ふん。我輩は憐憫を買うつもりはないのじゃ」

 と神さまはすねてしまった。

 翌日、幽霊戦士を退治したことを町の人に知らせると、泣いて喜んでくれた。おれたちがロザミア・バッシュの一行だとは黙っておいた。

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