第11話

「これから行く城は、昔はシュナイク将軍が治めていたのだが」

 ロザミアがいった。

「シュナイク将軍とは?」

 おれが聞くと、アイザが驚いたようだった。

「貴様、名将シュナイク将軍を知らないのか?」

「いや、リーゼに聞けばわかると思うけど、おれはこの世界の事情に詳しくないんだ。名将シュナイク将軍のことも当然、知らない」

「まったく、あきれたやつだ。シュナイク将軍とは、十年ほど前のワイルドミッツの反乱を征圧したことで功があるかつてのバッシュ帝国一の名将だ」

 なるほど。

「だが、シュナイク将軍は、バッシュ帝国を裏切り、スニーク帝国に寝返った。どうやら、父上が殺されたことで、バッシュ帝国に見切りをつけたらしい」

「へえ、どんな人なの、シュナイク将軍って」

 おれの質問に、アイザが答えた。

「帝国を裏切ることがなければ、あれほど尊敬に値するお方はいない」

 ロザミアもシュナイク将軍を高く評価する。

「シュナイク将軍は、できることなら、ぜひ、説得して、我が軍の味方に引き入れたいものだが」

 おれはシュナイク将軍に興味をもった。その希代の名将は、誰を正しく、誰をまちがっていると判断するだろうか。ぜひ、聞いてみたい。

 だが、城下町での噂では、今はこの城にシュナイク将軍はいないらしかった。

「シュナイク将軍は、北へ遠征したよ。今、城に残ってるのは、バルトという下衆どもさ」

「シュナイク将軍はいつ帰ってくるんだ?」

「数年は戻らないって噂だね」

 どうやら、希代の名将に会うのは、困難らしい。運というか、めぐり合わせがわるかった。

「まさか、あなたはバッシュ帝国のロザミア姫ではございませんか」

 正体を見破られて、ロザミアはうろたえた。

「絶対に内緒にしてくれ」

 アイザがロザミアの正体を見破った町人に口止めした。

「はい、わかってございます。ですが、ロザミア様、できることなら、この城主バルトをこの街から追い払ってください。バルトの悪政はひどすぎます」

 ロザミアはおれとアイザの顔を見た。おれたちがうなずくのを確認すると、ロザミアはいった。

「わかった。これより、バッシュ帝国再興の決起をいたす。このロザミア・バッシュに従う者はついてまいれ」

 ロザミアは街の真ん中で堂々と大声で宣言した。

 群集は大騒ぎになった。今にも滅びそうなバッシュ帝国につくか、怪物と手を結んだスニーク帝国に従うか。

「どうやら、ロザミア姫が大衆を扇動しているようだ。逮捕しろ」

 警吏がやってきて、ロザミアを逮捕しようとした。おれとアイザで、斬り殺す。

 すると、大歓声があがった。

「おおおお、ロザミア様は本気でスニーク帝国に逆らう気だぞ」

「バルトを追い出せ」

 ロザミアは剣を高く掲げ、大声で号令した。

「それ、バッシュ帝国に従う者は、我につづけ。この城を攻め落とすのだ」

 おれとアイザが先頭をきって、スニーク帝国兵士を倒していくと、群集もその気になってきた。次々と、ロザミアに味方する者が増えた。何万人の大暴動となった。

 暴徒が城に攻め込む。

 以前と同じように、スニーク帝国領土の城には怪物が飼いならしてあるのだが、みんなで倒していった。

 城主のバルトは相当民衆に恨まれているらしく、暴徒は必死にスニーク兵と戦った。それも命をかけて。

 暴徒の中心にロザミアがいた。おれたち四人が囲んでいる。

「この城には、ミノタウロスがいるようです」

 暴徒から報告を受けとったロザミアは、おれとアイザに命令した。

「ミノタウロスを倒してくるのじゃ」

「はっ、ロザミア様」

「おう、万が一にも、命を落とさないようにな。ちょっと突撃してくるぞ」

 おれとアイザは、暴徒の最前線まで走っていった。暴徒はすでに城門を壊し、城内に侵入している。だが、しかし、スニーク帝国の従える怪物に苦戦しているようだった。

「どけどけどけ、ミノタウロスはどこだ」

「あっちです」

 暴徒が教えてくれた。

 行くと、半牛半人の巨体が大きな斧を振りまわして暴れていた。暴徒が次々と倒されていく。

「ミノタウロスの相手はわたしたちに任せろ」

 アイザがいって、ミノタウロスに突っ込んだ。うまく、斧をかわしている。だが、ごっと音がして、斧の柄で殴られた。アイザは五メートルぐらいふっとんだ。

「大丈夫か、アイザ」

 おれがミノタウロスに剣を振り下ろすと、一撃でミノタウロスの体は破裂した。

 ミノタウロスを倒した。

「おい、バルトとロザミア姫が一騎打ちをするらしいぞ」

 そんな噂が入ってきた。

 アイザを助け起こし、急いで、正面廊下へと走った。そこでは、ロザミアと敵将バルトがそれぞれ群衆を率いて、対峙していた。

「バルトとやら。お主も将の器なら、このロザミアの一騎打ちを受けろ。貴様など、わらわ自身の手で引導を渡してくれるわ」

 バルトは、怯えているようだった。だが、この敵味方の大群衆の前で、逃げることはできなかった。

「いいだろう。小娘、勝負してやるぜ」

 バルトとロザミアの勝負は一瞬でついた。ロザミアの剣がバルトの心臓に深く突き刺さった。

「おおおお、ロザミア姫の勝ちだ。バッシュ帝国万歳」

 こうして、あらたに、城がひとつ、バッシュ帝国のもとに戻った。

 戦いが終わった頃、神さまが現れていった。

「まこと殿、どうやら、少年兵というのは相当に強いようだな。我輩では歯が立たなかった」

 まあ、死なないように戦ってくれれば、それでいいよ。おれはそう思って、神さまをねぎらった。

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