第10話

「この近くに、巨大アリの巣があるらしい。どうも、その巨大アリに襲われて、この近くの住民は困っているらしい」

 ロザミアがたどり着いた街で情報をもらってきた。

「巨大アリですか。油断できませんね」

「うむ。スニーク帝国のやつらは、まったく対処する気配がないようなので、わらわたちで巨大アリを退治しに行こうじゃないか」

 おれに特に異はなかった。アイザも勇んでいるようだ。

 神さまの毎日の剣術の稽古はつづいている。アイザがいうには、見所がないらしいが、アイザもあきらめることなく、相手をしている。

「神さま、練習の成果を見せるところだな」

 おれがいうと、

「我輩は頑張るであります」

 と神さまは答えた。

 街から少し離れた山の中に、巨大アリの巣があった。巣は、人が通れるくらい大きな横穴だった。中は複雑な迷路のようになっている。

 巣の中に入ると、すぐに巨大アリに襲われた。うじゃうじゃと、何百匹も居そうだ。アイザが最初の一匹目で苦戦している。ロザミアが手助けして、なんとかとどめをさした。これはやばいと雰囲気を読みとって、おれがアイザを押しのけ、先頭を走った。

「待て。早まるな、まこと」

 アイザが声をかけてきたが、おれは無視した。この巣の中の巨大アリを、おれは剣で一匹、一匹、倒していく。

 巨大アリは、巣に危険があったと察知したらしく、兵隊アリが巣の奥からゾロゾロと出てきた。だが、しかし、おれの敵ではない。一振り、二振り、剣を振るごとに巨大アリは死んでいった。同時に世界が変わっている。

「おれは突撃する。アイザはロザミアを守れ。リーゼはおれと一緒に来い。離れると、危険だぞ」

 おれが指示を出し、ロザミアは、

「まことのいうとおりにしろ」

 と、承諾した。

 神さまは逃げまわっていた。

「まったく、敵が強すぎて、練習にならんわい。我輩、困ったでござる」

 神さまは落胆していた。

 おれは三十匹以上の兵隊アリを倒して、巣の奥へと進んだ。

「めかけが思うに、巣の奥につづく道はこっちです」

 リーゼも必死のようだった。巨大アリの攻撃を杖で受けて、身を守っている。リーゼを襲う巨大アリは、速攻でおれが倒していく。

 おれはまた百匹以上の巨大アリを倒したと思う。おれが倒しそびれた巨大アリをアイザとロザミアが戦っている。神さまは逃げまわっているようだ。まるで、歯が立たないらしい。

「めかけが思うに、巨大アリたちはこの道の奥を守っています」

 リーゼの示す道をおれは邁進する。巨大アリが次々と倒されていく。おれの敵ではない。全部、一撃で仕留めている。ロザミアたちと少し距離がでてきた頃だった。

 巨大アリの巣は、あまりにも奥が深く、駆逐には相当な時間がかかった。おれたちが巨大アリを倒している間に、夜が明けたのではないだろうか。眠気など、まったく感じずに、アドレナリンを分泌しまくって、おれは巨大アリを駆逐していた。

 巣のいちばん奥に、大きな十メートルはあるかという巨大アリがいた。

「なんだあ! あんなやつがいるのか?」

 おれは困惑したが、リーゼのことばですぐに状況を理解した。

「めかけが思うに、あれは女王アリです」

 なるほど。女王アリか。どうりで、桁違いにデカいわけだ。

 おれは剣を身構えた。巨大アリたちは、女王アリを守るためなら、命を惜しむことなく向かってくる。おれはそれを容赦なく、一撃で屠り去っていく。

「人類がこの巣に何のようだ」

 女王アリは人のことばを話した。

「人類の街を守るために、死んでもらう」

「なぜ、我々、アリが悪で、人類が正義なのだ。そんなのは、一方的な思い込みではないか。我々、アリが生きていくには、人類の住処の餌が必要なのだ」

 くっ、返すことばが思いつかない。おれはことばに窮した。

「この世界がどうあるべきかは救世主さまが決めるのです」

 リーゼがいった。

 難しい。本当に、おれがどちらが正しく、どちらがまちがっているかを決めてもよいのだろうか。

「なぜ、我々の生き様を人類の救世主などに決められなくてはならない」

「それは、救世主さまはこの世界の主だからです」

「そんなものは認めないわ」

 女王アリがおれに向かって体当たりしてきた。おれは女王アリの体当たりをくらっても、痛くもかゆくもなかった。

「悪いけど、おれは、人類をえこひいきしているんだ」

 そして、おれは一撃で女王アリを殺した。世界が変わる。

 女王アリの死体はどさっと、洞窟の地面に倒れ落ちた。

 後から、ロザミアとアイザと神さまがやってきた。

「よかった。無事だったか、まこと、リーゼ」

 ロザミアが心配して声をかけてきた。

「正直、やられているのかと思ったぞ」

 ロザミアは勝利に笑顔を絶やさない。

「今日のまことはいい働きをしたな」

 アイザもおれを褒めてくれた。

 だが、おれが話を聞きたいのは神さまだった。

「なあ、神さま、神さまはこの世界に生きる生き物の誰の味方なんだ?」

 おれの真面目な質問に神さまは答えた。

「うむ。我輩はそれを気まぐれで決めておった。これまでも気まぐれだし、これからも気まぐれだ」

 なるほど。そういうものか。それが神の視点か。

「リーゼ、おれは正しいことをしているのだろうか」

 おれは落胆して、たずねると、リーゼは相変わらずの笑顔で答えた。

「めかけは、めかけたちを守ってもらうために救世主さまを召還しました。めかけが思いますに、救世主さまはめかけの敵にまわったことはありません。救世主さまは、まちがっていない道を進んでいると思います。それに、救世主さまがこうだと決断したことを妨げる権利をめかけたちはもっておりません」

 おれは、この世界を任せられた責任を感じて、次の夜はなかなか寝付けなかった。女王アリのことばを思い出しているうちに、おれはいつの間にか眠ってしまった。

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