第3話
「力のある魔道士を探しているのですが」
リーゼがそう声をかけても、満足に返事する者はいなかった。だいたい、魔道士なんてものがいることが不自然なのだ。一般人は魔道士の存在を知らない。おれが観察しているかぎり、この世界でも、魔道士はあまり一般に広く存在を知られているわけではないようである。
魔道士の居場所など知らぬ、会ったこともない、と町人はリーゼを遠ざけた。
だが、おれは少なくとも、一人の魔道士の存在を知っている。それは、他でもない、異世界からおれを召喚したリーゼ自身である。
リーゼは魔道士だ。
「なんじゃと。この近くに領主の城があるのか」
同じように情報収集をしていたロザミアが何かに興味を持ったらしい。見知らぬおっさんと話している。
「ああ、領主の城はこのすぐ近くだよ。だが、近寄らない方がいい。魔族に占領されて、今は人が入り込める場所じゃない」
ぎりぎりとロザミアが歯を食いしばっている。
「ロザミア、領主の城に何か用があるのか」
とおれが聞くと、
「すまない。できれば、わらわは領主の城に行ってみたい。例え、怪物の巣であろうとも」
「死ぬかもしれないよ」
おれが本音をいうと、
「かまわない。わらわはまだ生きているのがおかしいのだ。自殺志願者の用心棒などを頼んで、まことに申し訳ないな」
「かまわないよ。おれも、この世界で一生を終えそうだし、おれに長生きする必要なんてないのさ。怪物の群れに突撃して死ぬというのなら、付き合わないこともない」
「めかけも行くのです」
「リーゼ、きみは残っていろ。今回は本当に死にそうだ。きみまで死ぬことはない」
「めかけは救世主さまから離れるわけにはいきません。めかけはしつこいストーカーなのです」
「なら、三人で行くか。怪物に占領された領主の城に」
「巻き添えにして、本当にすまない」
そして、おれたちは、街の近くにある領主の城に入っていった。入口にガーゴイルが見える。中には、何百匹のガーゴイルがたむろしているようだった。
「突撃するぞ」
ロザミアが勇んでいった。
「ああ。死ぬ前に言い残しておくことはないか?」
おれが聞くと、
「わらわが死んだら、お主たちは逃げ帰れ。わらわが先頭を行こう」
とロザミアが答えた。
「リーゼは、何か遺言がある?」
「めかけは救世主さまと一緒にいるだけで幸せなのです」
とリーゼが答えた。
そのまま、入口のガーゴイルにロザミアが突撃していった。ガキンッ。ロザミアの剣をガーゴイルの爪が受け止める。ニ太刀、三太刀、ロザミアが剣を振るう。ガーゴイルがロザミアに噛み付こうとする。
後から走って追いついたおれが、ガーゴイルを一撃で仕留めた。ベチャッとガーゴイルが死ぬ。世界が変わった感じがした。
「よし、このまま、奥まで行くぞ」
ロザミアが勢い込んで、叫んだ。そして、城の中に走り出す。中央の大廊下を走っていくと、大広間に出て、そこで、またロザミアと一匹のガーゴイルが戦い始めた。
「待ってください。めかけは速く走れないのです」
リーゼが後ろでてくてくと追いついてくる。全力ダッシュしていたロザミアにだいぶ、距離を開けられた感じだ。
おれは、リーゼに近づいてきたガーゴイルを剣でしとめる。ベチャ。世界が変わる感じ。
「おい、ロザミア、ガーゴイルの群れに囲まれたみたいだぞ」
おれは悲鳴をあげた。大広間に、何十匹のガーゴイルが集まってくる。
「粘れ。しのぎきれ。あきらめたら、命はない」
ロザミアは最初のガーゴイルを相手に剣を振るいながら、答えた。
「リーゼ、おれとロザミアの間にいろ」
おれはリーゼに指示を出し、襲ってくるガーゴイルを一匹、一匹、仕留めていく。二匹、三匹、四匹、五匹。まだまだ、どんどん襲ってくる。倒しても倒してもきりがない。
「これは、本当にやばそうだぞ」
「このガーゴイル、手ごわいな。なかなかしぶとい」
まだ、最初の一匹目と戦っているロザミアがいった。その間に、おれは十匹、二十匹のガーゴイルを倒す。その度に、世界が変わる感じがした。ガーゴイルの襲撃は、収まる気配がない。三十匹、四十匹。数えるのが面倒くさくなってきた。
「きゃあ」
リーゼがガーゴイルに腕を引っかかれた。皮膚が裂け、血が流れる。
「このやろう」
慌てて、リーゼに近づいたガーゴイルをやっつける。ベチャ。世界が変わる。
八十匹、九十匹、百匹。まだ終わらない。
おれも疲れてきた。肩で息をしている。最終的に二百三十四匹のガーゴイルを仕留めた。
「そりゃあ」
ずぶっと音がして、ロザミアの剣がガーゴイルの腹に深く刺さった。
「はあはあ、大丈夫か、みんな」
ロザミアが振り向くと、辺りには二百匹のガーゴイルの死体があった。
呆然とするロザミア。
「これ、全部、まことが倒したのか?」
「ああ、そうだよ。これで、この城の怪物は全部、退治できたようだ」
見事に一匹のガーゴイルを倒したロザミアは、おれの頑張りを褒めてくれた。
「わらわはお主のような剣豪と旅ができて非常に嬉しく思う」
「まあな」
おれには、自分がどの程度凄いのかわからないのだが。
「救世主さまは無敵だよ」
リーゼがいう。
「それで、この城に何か用があったんじゃないのか、ロザミア」
「ああ、この城の者が残した痕跡を調べたかったのだが、どうやら、城を放棄して、領主もろとも、別の領地へ移ったようだな」
とロザミアがいった。
「この領主と知り合いなのか」
おれが聞くと、
「知らぬ。どこぞの下級貴族であろう。わらわとは縁もゆかりもない。ただ、舞踏会では知らずに会っているかもしれないな」
「何かわかったのか」
「この領地も、奪われたままだということだな。それがわかっただけだ」
「何だ、それだけか」
「ああ、残念ながら、知り合いの痕跡はなかった」
「そうか。残念だな」
「金目になるものは持っていこう。わらわたちがこの城を開放したのじゃ。少々、財物をもっていっても怒られまい」
「それはたいへんありがたいのだが。リーゼ、いいのか?」
「めかけは、救世主さまがいいといえば、逆らいません」
「それではもらっていくか」
「お金ならわらわが充分に持っておるのだが、旅をするには、心細いものでな」
ロザミアがいった。おれはロザミアがどれだけのお金をもっているのか知らない。
おれたちは、お城から、貴金属だけを持ち出して、町で売った。
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