vol.3 全力威嚇
ふと、揺れが止まった。
重い扉───ドアが開く様な音がして───代わりに自然の音が聞こえなくなった。風も無い。
お家の中……みたいだ。
「とにかく、温かくしてあげないと!」
女の人はそう言って、男の人に僕らが入ってるバッグを渡した。
不安でいっぱいの目を向けると、何故か不安そうな男の人の顔がある。
少し離れた場所から、コドゴトと何かをどこからか引っ張り出している様な音だけが聞こえていた。
やがて。
バッグの中から出された僕らは、横型の箱みたいなモノの中へと移される。
何もかも知らない匂いだらけだ。
でも、フカフカの毛布やタオルが敷き詰められていて……床はとても温かい。
「寒かったね~。もう大丈夫。ヒーター入れたから温かいよー?」
ひーたー……?
僕らの疑問符はそのままに、ガシャッと閉められた丈夫そうな網の向こうから覗き込むその人は、隙間から入る明かりを見て、
「うんうん、これじゃあまだ安心出来ないかも知れないね」
まるで僕らの気持ちを理解している様な事を呟いて。箱の上から更に毛布を掛けてくれた。
視界はかなり遮られて、薄暗くて。
そんな狭い世界が、僕らをほんの少しずつ、安心へと導いていくような感じがする。
「よし、じゃあ必要な物を買いに行くか!」
「そうだね」
二人の声は、間もなく再び開いた重いドアの向こうに消えて行って───
静かな部屋の中。あの時の犬がうろうろと歩き回る足音だけがする。
気になって仕方がないんだけど、とにかく温かくて、狭くて、暗いこの箱の中で。
僕らはいつの間にかウトウトとしていた。
■■■■■
突然響いた犬の声と、あのドアが開く音に僕らはビクリと身体を震わせて目を開けた。
どれくらい時間が立ったのか解らないけど、どうやらあの二人が帰って来た様だった。
暗い視界に明かりが入ったかと思ったら、突然目の前───扉の向こうに犬の顔があったからビックリして。
思わず威嚇してしまった僕らだったのに、その犬は全く怒らなかった。それどころか尻尾を振って楽しそうに見つめ返す。
「よーし。ちょっと探検させてみようか、このコらの新居を」
僕らをひょいとまとめて箱から出した時。
「ノアさん、大丈夫かな?」
男の人の問い掛けに、
「あ、そうだね。ノアさん、仔猫初めてだからね」
何か想像して笑いながら、「ハウス!」と一言い放つと、ノアさんと呼ばれる犬はすぐに檻の様な部屋に入って扉を閉められてしまった。
「さあさあ、探検だー」
なんだか楽しそうに、僕らは床に下ろされた。
少しヒンヤリとする足の裏に戸惑いながら、僕と妹は付かず離れずの距離を保ちながら歩き出した。
床の匂いを嗅ぎながら移動していたら、突き当たりになって顔を上げる。
唐突に現れた別の影に僕は全力で威嚇した。
相手も威嚇するから、また僕も威嚇して。
そんな僕を見てた二人は、
「生意気に威嚇してんじゃんっ」
「ねー、冷蔵庫に映った自分だってそろそろ気付いてくれないかな?」
意味の解らない事を言って笑っているけど、僕は気にしない。
妹は妹で、少しずつ離れた場所まで移動して、彼女なりの探検をしては何かに驚く度にやはり威嚇している。
「もう大丈夫かね?」
「うーん……まだ数時間だしね……。でもまあ、威嚇出来る元気があれば大丈夫でしょうね」
そんな会話を背中で聞きながら。
僕らの目に映るモノへの全力威嚇は、もう暫く続いた。
蒼い空を 僕らはもう恐れない。 天川 和夜 @kazuya_amakawa
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