第3話 五月家の不安

 めいとさん、朝霧家での夕食後、五月先生の家へ荷物を取りにきました。


 カチャカチャ……。

 パタン……。


 おや、めいとさん、自分で鍵開けてしまいましたよ。

 これでは不意打ちですね。


「ただいまです」

「げっ、めいと!」

「ヒロシ、『げっ』ってなんですか、『げっ』って」

「いや別に。でも何、もうクビになった?」

「違いますですよ。荷物を取りにきたのです」

「荷物?」

「ええ。これから月曜日と金曜日はあちらへ泊まることになりますから」


 めいとさん、朝霧家でのお仕事は月曜日と火曜日の午前中、それと金曜日。

 なので、月金がお泊まり。

 あの素敵なお部屋でゆっくり、お姫様気分で眠るのが楽しみなのでしょうね。


「それより、五月様は?」

「ん? 執筆中」

「へっ? お部屋のふすま、閉まってますよ?」

「だから?」

「ダメなのです!」

「ダ、ダメなの?」


 はい、ダメなのです。

 五月先生は、超が付くほどのさぼり魔。

 マンガやゲームにすぐ気がいって、執筆などしなくなります。

 ふすまを閉めてしまうと、目が届かないのをいいことに遊んでしまうのです。

 めいとさん、ヒロシに注意します。


「五月様の部屋のふすまは、絶対に閉めないでください」

「なんで?」

「なんでも。で、三十分毎にそーっと覗いて、お仕事してるかチェックしてください」

「なんだそれ?」

「じゃないと、ヒロシのお給料も出ませんよ。実家へお帰ることになります」

「いや、それは困る……」

「なら、ちゃんと見張っててください」

「う、うん、わかった……」


 ヒロシは首を傾げ、なんだか不思議に思っていますね。

 《作家は仕事部屋やホテルに缶詰めして執筆》

 ヒロシはきっと、そんなイメージを持っていたのでしょう。

 とりあえず五月先生の部屋のふすまを開けます。


 キキキキ、キ……。


「ヒ、ヒロシくん、何だ?」

「やっぱり」

「メイド?」

「ね、こういうことです」

「五月先生、まさかゲームやってました?」

「は、い……」

「いいですかヒロシ、しっかり監視してくださいね」

「ちっ、バレたか。メイドめ、余計なことを」

「・・・」


 ヒロシは絶句です。

 本当にそんなゆるゆる執筆してるなんて、という様子です。



「きゃぁー!」


 おや、めいとさん、台所で大きな声を出して。

 いったいどうしたのでしょう。

 もしや、Gでしょうか?


「めいと、どうした?」

「ヒ、ヒロシ……何なんですか、これは……」

「何って……ただの洗い物」

「食器は食べ終わったら水に漬けて、すぐに洗うんです!」

「寝る前にちゃんとやるよ」

「時間が経つとお米粒や油が固まって、洗うのたいへんになるのですよ!」

「わかった、わかった。すぐやるよ」

「お皿の裏もちゃんと洗ってくださいね」

「お前、うちの母ちゃんよりうるさいな」

「うるさく言われたくなかったら、きちんと仕事してくださいっ!」

「はいはい」

「返事は一回です!」


 五月家ではある意味、めいとさんが家主です。



 一抹の不安を抱えて、めいとさんは朝霧家へ戻って行きました。

 道々、なにやらブツブツとつぶやいています。


〈朝霧家でのお仕事はできるだけ早く終わらせて、すぐに五月様のところへ帰れるようにしましょう。お泊りの日も、抜き打ちでチェックしに行ったほうがいいですかねぇ。なんだか忙しくなりそうです〉


 一方、こちらのふたりの不安の大きさは、計り知れません。


「ヒロシくん」

「なんですか? 先生」

「あやつはうるさいぞ」

「ええ」

「ちゃんとやろうな」

「はい……」


 ふたりとも、だいぶビビってるようですね。

 五月先生、ヒロシくん、ファイトです。

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