第4話 朝霧家の人々
朝霧家は三人と一匹家族。
製薬会社で研究員をしている、ご主人のマサトさん。
社内結婚をして専業主婦になった、奥様のカオルさん。
小学四年生の一人息子、サトルくん。
そして、チワワのアポロくん。
パタ、パタパタ……。
おや、カオルさんとめいとさんが起きてきたようです。
「おはようございます、奥様」
「おはよう、めいとちゃん。よく眠れたかしら?」
「はい。とっても気持ちよく。お姫様になった夢を見ていたようです」
「それはよかったわ。さ、朝食とお弁当の用意よ」
「はい。ひゃっ!」
「あらあら。その前に、アポロに缶詰開けてあげて」
「あ、足にまとわりつかれました……」
アポロくんのご飯はカリカリではなくて、極上の缶詰です。
そして、朝霧家の朝はパン食です。
五月先生は、お米を食べないと一日落ち着きません。
なので塩鮭、おしんこ、納豆にみそ汁が定番です。
それが今日は、ベーコン、スクランブルエッグ、サラダ、コンソメスープ。
鮭もありますが、レモンをかけたスモークサーモンです。
おまけに、普通の四角い食パンではありませんよ。
山型のイギリスパン、フランスパンにクロワッサン。
これはもう、ホテルのブレックファースト、おしゃれなおしゃれな、朝食です。
パタパタ、パタ……。
おや、マサトさんもサトルくんも起きてこられたようです。
「ママ、いただきまぁす」
「はい、召し上がれ」
「今日のたまご、いつもと違うな」
「ご主人様、お口に合わないでございますか?」
「それはめいとちゃんが作ってくれたのよ」
「いや、ふわとろで美味しいよ」
「ご主人様、お世辞はいいです。はっきりとおっしゃってくださいませ」
「いや、ホントに美味しいよ」
「めいと、おいしーよ」
サトルくんまで気を遣ってくれています。
「めいと、ホントだよ。このドレッシングもおいしーよ。ぼくこの味好き」
「サ、サトル様、それは市販のものでございます……」
「・・・」
いやいや、めいとさんの料理はホントに美味しいのです。
みなさんお世辞ではなく、心から美味しいと思ってくれていますよ。
落ち込まないで、めいとさん。
「ふたりともいってらっしゃい」
「ご主人様、サトル様、お気をつけて」
「いってきます」
「いってきまぁす」
マサトさんとサトルくんは、毎朝一緒に出かけて行きます。
駅に向かう途中に小学校があり、マサトさんは一駅電車に乗って会社に向かいます。
マサトさんは薬の研究や開発で、度々会社に泊まり込みます。
「パパ、今夜は帰ってくる?」
「んー、今、新しいビタミン剤の開発中だからな」
「お仕事たいへんだね」
「ごめんな」
「大丈夫だよ。めいとがいるから」
「めいとちゃん、今日は午前中までじゃなかったか?」
「あ、そうか。帰ってからいじれないじゃん」
「サトル……めいとちゃんをおもちゃ代わりにしてはいけないよ」
「しないよ、そんなこと」
「ホントかなぁ?」
カオルさんだけじゃなく、なんだかサトルくんも危ういです。
めいとさんとアポロくんを、同等に思っているかもしれません……。
「めいとちゃん、アポロのお散歩もお願い。それで今日はおしまいね」
「あい、奥様。」
アポロくんは二歳。
小ちゃい体には、エネルギーが満タンです。
小型犬でも、外を歩かせてあげないと、家中をかけずり回ってたいへんです。
しっかり遊ばせてあげてね、めいとさん。
「あ、奥様、今気がつきました」
「何を?」
「ご主人様とサトル様のお弁当、反対に包んでしまいました」
「……いいんじゃない、たまには……」
「次から気をつけます」
いやいや、よくないでしょ、カオルさん!
そらご覧なさい、お昼のふたりの様子です。
「サトルくんのお弁当、お父さんのみたい」
「がんもの煮たのとナスのおしんこ……」
「朝霧さん、今日のお弁当可愛いですね」
「タコさんウィンナー……」
めいとさん、ドンマイ。
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