第25話
二回目の宇宙のミタノアが文句をいいだした。一回目の宇宙のミタノアが幸せすぎるように思えたからだ。ミタノアはミタノアに出会って、自己同一性を侵害されていたのだ。自己同一性を保つためには、もう一人の自分と戦わなければならないと、二回目の宇宙のミタノアは考えた。
「勝負よ、前の宇宙から来たわたし。わたしがわたしであるためには、あなたをこの宇宙から追い出してしまわなければならない、そんな気がする。悪いけど、わたしとあなたで、この宇宙にどちらが存在するのかを賭けて勝負する。いい。いくよ」
そういって、二回目の宇宙のミタノアは、一回目の宇宙のミタノアの複写機を複写した。複写機が二個になったミタノア。しかし、攻撃のしようがない。
「何を心配しているのよ。あなたはわたしのつくりだした複製にすぎないのよ。わたしはあなたの分をとっていったりはしないから、安心しなさい。そんなことより、あなたの夢が叶うこの一瞬を逃しては駄目。ビーキンこそ、本当にこの宇宙の創造神なんだからね」
「まあ、本当?」
こうして、ミタノア対ミタノアは、血を見ることなく終わったのだった。同じ顔と同じ思考傾向を持った女二人にとりおさえられて、創造神ビーキンは辟易していた。二人が二人して、次々とこの宇宙に文句をつけるので、息をつく暇もなかった。やれ、どこの星のジャガイモが苦しんでいるだの、やれ、どこの星の海老が迷子になっているだの、そんなどうでもいいぐらい細かいことについて、ミタノアはいちいちビーキンの所為にして文句をつけるのだった。ビーキンの方にしてみれば、そのジャガイモが苦しんでいる理由や、その海老が迷子になっている理由がはっきりわかるのだが、その方がいいから苦しんだり迷子になったりしているのであり、文句をいわれてもどうすることもできなかった。ビーキンからしてみれば、自分よりもっと優れた創造神が現われて宇宙をつくりかえる以外に、そのジャガイモや海老を助ける方法はないのだった。
ひととおり、創造神にいってやりたかった文句を吐き出し終わると、ミタノアはみずからの行いを反省することにした。
ミタノアは、創造神に会うがために宇宙を滅ぼそうとした女だ。ジェスタは暴走する機械群に対抗するために宇宙を滅ぼそうとした。
そして、考えてみれば、ビーキンを殺したジナは神殺しだ。
「前の宇宙では、ジナ、あなたが神殺しだったんだよ。どう。うれしいかな」
ミタノアがいった。
「冗談じゃないじゃない。神殺しになんて、わたしはなりたくはない。神さまに嫌われるなんて、嫌だよ。絶対に嫌。ビーキンが神さまだというなら、わたしは無条件で神さまにつく」
ジナが答えた。それはジナの本音だった。ジナも、ミタノアと同じように創造神に敬服していた。
「おやおやおや、なんだか、面白い話になってきたじゃないか。人類の認定を外されて焦っていたら、神さまとの遭遇だったのか。これはおれたちの一世一代の大勝負の時じゃないのか」
トチガミがいった。
「さがりなさい、トチガミ。あなたの正体はわかっているの。その正体と照らし合わせてみても、創造神ビーキンの前では、あなたは塵のように価値の低いものでしかないからね。ビーキンにもしものことがあったら、あなたを一瞬で消滅させて見せる」
ミタノアが威嚇した。
「おれの正体がわかるというのか。なら、おれの年齢をいってみろ。当てたら、いうとおりおとなしくしてやる。当てるどころか、かすめただけでも、いうとおりにおとなしくしてやる。おまえたちは、おれの年齢をかするほども当てることはできないはずだ」
トチガミは退かない。
ミタノアはトチガミをどうしたらいいのか少し考えた。考えた結果、素直に正解を答えてやることにした。
「二十六億歳よ。あなたは二十六億歳の人格を持つサイボーグよ。なんだったら、ずばりその正体をひとことで言い当ててあげようか。あんまりたてつくと、あなたの正体を一発でばらしてしまうからね。ミヤウラもよ」
それを聞いて、トチガミは顔面蒼白だった。バレている。自分の正体がなぜか、目の前の時間旅行者にバレている。こんなことはめったにない事態だ。いったい、ひとつ前の宇宙で何が起こったというのだろうか。
「おうおう、神殺しだとか、二十六億歳だとか、おれの好奇心をすごく刺激するじゃないか。黙ってないで、バラしちまえよ。いったい、ビーキンの正体とは何なんだ。トチガミの正体は何なんだ。ついでに口をすべらしたらしい、ミヤウラの正体も何なんだ。ぜんぶ、おれに教えてくれ。おれはそれさえわかれば、いつでも、どんなものにでも敵対するつもりだ。さあ、いえ。おれの宣戦布告の前に、おれに教えてくれ。ここにいる八人の正体を」
サントロがわめいた。
「いいわあ、サントロ。わたしの最後の盟友の複製。あなたには、とっても愛着がある。ずっと一緒にいたいぐらい。前の宇宙のわたしが時間旅行を終えた後、選んだ道は、サントロの宇宙創世に力を貸すことだった。それくらいにサントロが好き。なんでもいい。知っていることは、ぜんぶ答えてあげる」
一回目の宇宙から来たミタノアがいった。
「おう。なら、まずはビーキンの正体だ」
「この宇宙の創造神。この宇宙の因果律を決定したたった一つの意思」
「次は、トチガミの正体だ」
「地球よ」
「おう。聞いても、意味がさっぱりわからねえ。だがいい。次は、ミヤウラの正体だ」
「たった一人の軍隊。人類の軍隊」
「軍隊かあ。軍隊は、神殺しなんかはしないんだよな。むしろ、軍隊と聞くと、神さまを守るものに聞こえるぞ。いい気分だ。じゃあ、ジナの正体は何だ」
サントロの質問に、ミタノアは一息ついた。だが、ためらうことなく答えた。
「現在、この時点で、最も優れた天体技師にして、神殺しの女よ」
「なるほど、それじゃあ、おれは何だ。遥か過去から来たミタノアであるあんたから見たおれは、いったい何なんだ」
「その質問に対するわたしの答えは、いつも一緒。あなたは平凡な創造神よ、サントロ」
「それじゃあ、あんたは何者なんだ。あんたは。ミタノアの正体とは何だ」
「わたしは神さまに会うために、ひとつの宇宙を滅ぼした女」
ずばり、八人の発明品をいっせいに提示させてもらう。
ジェスタ 天体反動銃
ミヤウラ 無料パスポート
ジナ 十二個の極小ブラックホール
トチガミ 身体部品
ビーキン 五秒前砲
ミタノア 複写機
リザ 時の置き石
サントロ 凍りついた一点
さらに、八人の肩書きをいっせいに提示。
ジェスタ 破壊神の燃料
ミヤウラ たった一人の軍隊
ジナ 神殺し
トチガミ 地球
ビーキン 創造神
ミタノア 破壊神にして、複製宇宙の創造神
リザ 不明
サントロ ゼロ次元の平凡な創造神
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