第23話
ミタノアの書きかえた一行はあまり意味のないものらしかった。暴走する機械群はかつてと同じように、暴走して増殖していた。三十億年後の未来は、ミタノアの知っている未来とさして変わりのない未来だった。同じようにミタノアが母親から生まれ、ミタノアと名づけられて、成長していった。
教育を受け、生殖を行い、複写機を発明して、時間旅行を趣味にして育っていった。何から何まで、かつてのミタノアとそっくり同じだった。幸せに満ちた十九年間だった。早送りのように、その成長を観察していった。
だが、やはり、例の日がやってくる。
ある日、突然、暴走する機械群から、人類という認定を外されてしまうのだ。ミタノアが書きかえた一行では、暴走する機械群の行動を変えることができなかった。残念なことだ。
「失敗だあ」
と、思いながら、過去からやってきたミタノアは、二度目のミタノアを観察していた。同じような境遇の者が他にもいることがすぐ通信でわかり、同じ境遇の者で集まることになったのだ。
集まった者は、八人いた。場所は、中央拠点サーバーだ。
「同じだ。やばい」
何から何まで、一回目の宇宙と同じだ。このままでは、八人はミタノアが勝ち残るまで殺し合いを演じてしまう。しかも、人類も暴走する機械群も滅ぼしてしまう。それでは面白くない。止めなければ。
「見ろ。おれの点がねえ」
中央拠点サーバーで、ジェスタが一回目の宇宙と同じことをいいだした。
「ああ、おれの点もねえ」
と、トチガミが答えた。
「何でおれの点もないんだ」
と、ビーキンも答えた。
何から何まで、一回目の宇宙と同じだ。
『失格者』
1位 ジェスタ
2位 ミヤウラ
3位 ジナ
4位 トチガミ
5位 ビーキン
6位 ミタノア
7位 リザ
8位 サントロ
「罠だな」
そうジェスタがいった。
「これは誰かの罠だ。おれたち八人をはめるための罠に引っかかっちまったんだ」
ジェスタが一呼吸おいてから同じことをまたいった。
「罠だとしたら、誰の罠なの? 人類の認定に介入できるくらい優秀な人類なんているわけないじゃない。人類がしかけた罠である可能性は皆無に近いと思うけど」
ミタノアという女が反論する。これもまた、かなり賢い人であるようだ。あっという間に、ジェスタの発言を分析して、回答を出している。
「人類じゃないとしたら、誰? 異星種族? ははっ。負けたっていうの? 暴走する機械群が異星種族に。まさか、ありえない」
ジナという女も対話に参加する。これはちょっと強気な女のようだ。十二個の極小ブラックホールをまわりにならべて、宙に浮いている。どうやら、ブラックホールを使役する上級天体技師のようだった。
「異星種族がわざわざ、おれたちだけを選んで失格者などという奇妙な項目を作る可能性はほとんどないよ。罠をかけたのは、人類でもないし、異星種族でもない。だとしたら、残る可能性はひとつしかないじゃないか」
と、ビーキンがいった。
「暴走する機械群がついに人類に逆らえるかの実験に乗りだしたんだ。そう考えれば、この奇妙な状況にも説明がつく。失格者という項目は、暴走する機械群が理屈をこねて作り出した人類に対抗できるこんがらがったプログラムのなれの果てなのさ。暴走する機械群の自我以外に、おれたちを人類の認定から外せるやつらはいない」
「おれは戦う。暴走する機械群とも戦うぞ。その覚悟はある」
ジェスタがいった。
はっはっはっはっ、とみんなが笑った。面白いことをいう男だ。バカなのかもしれないが、愉快な男だ。
「戦うって、勝ち目はあるのか。相手は暴走する機械群だぞ」
トチガミが聞いた。
「ある」
ジェスタは答えた。
「ちょっとまったあ」
一回目の宇宙からやってきたミタノアが、八人の前に飛びだした。
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