第22話

 目の前には、生まれたばかりの宇宙が急速にインフレーションを起こしていた。星が生まれ、崩れ、壊れていく。原初の宇宙だ。ここには、無数の星々を支配した人類帝国の姿はない。人類に管理調整されながら、迷走と反乱をくり返すたくさんの命はない。すべて、さっきの爆発で死んでしまった。虐殺が完了したのだ。

 暴走する機械群も、ミタノアの起こしたビッグバンコピーに巻きこまれて、滅んでいた。

 ミタノアにはわかっていた。今、作られた宇宙がただのコピーだというのなら、この宇宙は前の宇宙の因果律をまったく同じようにくり返すのだということを。百七十億年後には、再び同じような生き物たちが誕生し、突然消滅するあの瞬間まで必死になって生きるのだろうし、再びミタノアそっくりの人間もつくられ、再びビッグバンのコピーを起こすのだ。

 未来を変えなければならない。

 ミタノアはコピーされた未来で、また、太陽が生まれる前の宇宙を見ていた。星はまわりにたくさんあって、ちゃんと回転していた。

 結局、八人が『失格者』に認定された結果、八人は殺し合い、たった一人、ミタノアだけが生き残った。その過程で、宇宙を二度も創世していた。暴走する機械群も滅んだとはいえ、これで勝ったといえるのだろうか。七人を殺して、手に入ったものはコピーされた未来だ。ミタノアの心にどこかむなしいものがあった。

 やはり殺し合いをやめよう。そう心に決めた。なんとかして、殺し合いを止めなければならない。

 決意が固まると、再び何十億年も未来へ飛んだ。

 生き物のいない頃の地球。見るのは二度目だ。しかし、今度の地球は、ミタノアのコピーしたビッグバンでつくられたものだ。コピーされたビッグバンは寸分の狂いもなく、かつての宇宙を再現していた。地球はかつてと同じように、ビッグバンから九十億年ほどたった頃、太陽の第三惑星として誕生した。コピーされた地球も、まったく元の形と変わらないものだった。下手に手を触れると、生き物の形を崩してしまうような気がして、地球の海にいっさい手を触れることなく、さらに四十億年未来へ飛んだ。

 人類が誕生して、文明を築いていた。ミタノアは暴走する機械群を開発している人々に会いに行った。三十億年未来に、暴走する機械群が数千兆いる人類のなかから八人を選んで、『失格者』にしてしまうことを防ぐためだった。

 ミタノアが関わらなくても、充分厳重に、決して暴走する機械群が人類に逆らわないように開発は進められていた。

「このままでは、三十億年後に人類に逆らってしまう」

 開発陣に参加したミタノアは、一行だけ、暴走する機械群のプログラムを書きかえてしまった。二度目の宇宙に、ミタノアの介入が始まった。

 暴走する機械群は、人類の理解を超えて成長を始めた。次々と自己増殖を繰り返して、この宇宙に満ちていった。星を掘削して、圧縮プラスチックをつくりだし、圧縮プラスチックを組み立ててみずからをどんどん自己複製していく。そして、全自動で次の星めがけて、宇宙植民に出かけて、人類が来るよりも早く、人類の居住区を建設していった。

 三十億年未来に、ミタノアは跳んだ。

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