第21話

 ミタノア対ミヤウラ。最後の戦いだ。二人はやはり戦わなければならないさだめにあった。ここまできて、ミヤウラが退くことはない。

「あら、こんなこともできるんだよ」

 そういってミタノアが取りだしたのは、ビーキンの銃だった。ビーキンの銃は五秒前を撃つ五秒前砲だ。ミタノアは五秒前砲と天体反動銃を管でつないだ。天体反動銃のエネルギーを五秒前砲につないだのだ。

 バンッ、とミタノアは五秒前砲を撃った。弾丸は許容量を遥かに超えるエネルギーで暴発して発射され、時間の遥か彼方に着弾した。おおよそ、百七十億年ほどの過去だ。

「まさか、今のが」

 ミヤウラがいった。

「あら、気づいたようね」

 そう、今、発射したミタノアの弾丸は、この宇宙の創世、ビッグバンを撃ち抜いていたのだ。

「お主がこの宇宙の創造神だったのでござるか。拙者、驚いたでござる」

「ねえ、くだらないでしょう。でも、弾丸を鋳造したのはビーキンだから、この宇宙の因果律を決めたのは、ビーキンだといえる。ビーキンは、何も知らずに、宇宙の材料をつくっていたのよ」

「しかし、おかしい。今、百七十億年前に遡ってビッグバンを起こしたとしても、そのあとで何度も歴史は改変されておる。なぜ、この時間にたどりつくのであるか」

「それはビッグバンが最初からこの時間に一直線に向かって飛んだと仮定している。そうじゃないのよ。ビッグバンは、この時間点に対して、最初は曲線を描くように飛んだのよ」

「むう」

「そして、因果律の輪ができるんだわ」

 ミタノアがいった。

 驚くべきことであった。この宇宙の因果律を決めたのがビーキンで、ビッグバンのエネルギーを供給したのはジェスタで、最後に引き金を引いたのはミタノアだったのだ。この宇宙の創世は、おおむね、三人の合作だといえた。

「暴走する機械群はいったい何を企んでいたのでござるか」

「わからない。でも、これだけはいえる。『失格者』に認定された八人は、八人とも人類を滅ぼせるだけの力を持っていたのよ。暴走する機械群は、人類の極点にいる八人を選んで、この戦いを仕向けたのよ。まず、まちがいない」

 ミタノアはいった。

 ミヤウラは少し、目を瞑った。

 そして、新たに決意していった。

「それでも、拙者はそなたを切らねばならん。拙者、軍隊であるからに」

 ミヤウラはミタノアに対して、間合いをつめた。

 ミタノアにとって、ミヤウラの武器はコピーしづらかった。大きすぎるのがいけないし、それに何より、ミタノアは剣の使い手ではないのだ。刀を持って切りあっては、勝ち目があるとは思えなかった。

「あら、残念ね。ビッグバンを起こせるのは、サントロだけじゃないのよ」

 ミタノアはそういって、一瞬、姿を消した。ミタノアは時間を移動して、この宇宙が誕生した瞬間にまで飛んだのだ。百七十億年前に時間移動したのだ。そして、右手の複写機で、宇宙創世のビッグバンをコピーした

 そして、再び、ミヤウラの前に現われた。

 ミタノアが現われたと同時に、右手の複写機から、ビッグバンが解放された。

 ビッグバンコピーだ。

 迂闊だった。今度のミヤウラは油断したといえた。ミタノアが放ったビッグバンコピーが解放されるのを許してしまったのだ。

 爆発は、無から有をつくり、重力が生まれ、素粒子が生まれ、真っすぐには飛ばない光の海が膨らみ、一秒もたたないうちに元あった宇宙を吹きとばした。宇宙創成の大爆発が起こった。

 ミタノアはすぐに別の時間へ飛んでいた。

 ミヤウラは一秒もたたないうちに、ビッグバンコピーに巻きこまれて死んでしまった。

 ミタノア対ミヤウラ。勝ったのはミタノアだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る