第18話

 ミヤウラ。彼はたった一人で軍隊と呼ばれた。最高にして最強の軍事力を持つ軍隊だった。三十億年間かけて、軍縮が行われた結果、軍隊はたった一人にまで減少していた。そのたった一人の軍隊がミヤウラだった。

 たった一人の軍隊、その存在に対する畏敬の念から、通るものすべてがミヤウラに対して道を開けた。ミヤウラの進軍を邪魔する者は一人もいなかった。文民支配が徹底されたなか、自分を除くすべての人類がミヤウラの主人だった。自分以外のすべての人類に忠誠を誓っていた。ミヤウラが動いていいのは、法律が破られた時だけ。今、法律を破ったサントロとミタノアに対して、たった一人の軍隊が堂々と進軍していた。

 かつて、ミヤウラは生まれ出でてみずからの生き様を模索するにあたって、剣の道に生きることを決めたのだった。剣の道を志したミヤウラは、最強の剣というものを探して旅に出た。さまざまな諸国を巡り歩き、あらゆる剣屋や鍛冶屋を訪ねてまわったのだった。ある時は、レーザーサーベルを手にとり、またある時は、それを捨てて、ロボットたちの売っていたカーボンナノブレードを手にとった。より強い剣を求めて、みずからの剣の修行をしながら、えんえんと旅をつづけたのだった。そして、ある時、腐食して滅びつつあった秘境の惑星で、グルーオンの剣を手に入れたのだった。グルーオンの剣は強かった。おおよそ、店屋で売っているどの剣よりも強く、どの剣豪と剣をまじあわらせても勝つことができた。ミヤウラはみずからを最強の剣豪ではないかと考えるようにもなっていた。そんな折、とうとう、グルーオンの剣でも切れない強敵に出会ったのだった。ブラックホールの鎧を身にまとったシラハドリンガーだった。

 剣の腕では、ミヤウラのが一歩上で、シラハドリンガーの剣をかわして、剣を打ちこむことができた。だが、切れないのだ。シラハドリンガーのブラックホールの鎧は、グルーオンの剣を簡単にはじき返してしまうのだった。これでは勝てない。鎧を刃が通さぬと見極めた時、ミヤウラは武士の恥なれど、敵に背を向けて逃亡したのであった。剣が効かないのであれば、やむをえないことであった。

 それからミヤウラはまた旅に出た。辺境の小惑星に最強の刀があると聞き、そこを訪れたのだった。

 辺境の小惑星には、じいさんがひとり座っていた。

「拙者、ここに最も優れた刀があると聞いて、やって来た者であるが」

 ミヤウラがたずねると、じいさんはぎろりと目をむいてミヤウラを見た。来訪者を煙たがっていた。

 ミヤウラはじいさんの眼光に気圧されることなく、つづけて詰問する。

「ここにある最強の刀は、ロボットたちの売っているカーボンナノブレードよりも、また、拙者のもっているグルーオンの剣よりもよく斬れると聞く。その威力を拝見したいのであるが」

「およそグルーオンの剣で斬れぬものなどあるまい。なぜ、わざわざこの辺境の小惑星を訪ね、刀を求めたりする。斬りたいものがあるなら、お主のグルーオンの剣で斬ってこればよかろう」

「それが、斬れぬのでござる。あの忌々しきブラックホールの鎧を身にまとったシラハドリンガーは……」

 そう、シラハドリンガーは恐ろしい相手だった。剣の腕もさることながら、その身にまとった鎧は今までに戦ったすべての剣をはじき返してきたのだ。グルーオンの剣が破れた今、残る望みは、もうこの宇宙の果てに封印された秘刀以外にないのだった。この小惑星には、かつて伝説の宇宙鍛冶職人ドウナガタヌキが鍛えたという幻の刀が眠っている。

「この刀は禁断の刀であるぞ。これが地球を滅ぼしかねないとして封印されたものだと知ってやってきたのか。使い方を誤れば、地球はおろか、あまねく諸世界をすべて滅ぼしかねない。それほどの威力を秘めたものなのだ。これは確かに一本の刀ではあるのだが、他の刀とはまったく本質が異なっておる。惨劇をおそれ、宇宙のかなたに封印されたことを忘れたのか」

「しかし、拙者はシラハドリンガーを殺さねば生きてもおらじと決意したもの。例え、この宇宙を灰燼にせしめようとも、その刀を使い、斬るの一存でござる」

「宇宙を灰燼にせしめようともか。その決意天晴れ。しかし、それだけでは、この刀を継承することはできぬ。この刀は、軍事力なのだ」

 そして、じいさんはミヤウラにたった六条しかない法律を見せたのだった。そこには、人を守れなどとはどこにも書いてなかった。ただ、人が大切に思うであろう思い出の品が五つ書いてあったのだ。人類の法律には『第四条、宇宙鍛冶職人ドウナガタヌキが鍛えた刀を守ること。この刀を持つ者を軍隊と呼ぶ。』とあった。

 そして、ミヤウラは軍隊であることを継承するための修行を二、三年行ったのだった。

 修行が終わるとじいさんはいった。

「持っていけ。これがその刀の柄だ」

 とうとう、最強の刀がミヤウラに継承されたのだった。

 ミヤウラは小惑星にあった最強の刀の柄をとった。柄からは、重さのない刀が伸びていて、その長さは星の大きさにも達した。

 宇宙鍛錬刀。それが最も優れた刀の名前だ。宇宙そのものを鍛錬して歪曲させ、刀にした武器である。宇宙そのものを鍛錬して鍛え上げてあるため、ものすごく堅い。

 ひとふり、ふたふり、ミヤウラは宇宙鍛錬刀を宇宙工学で鍛冶で鍛えながら、その刀を振った。ミヤウラは宇宙工学の鍛冶剣士になったのだ。

「拙者、必ずや、シラハドリンガーを倒してくるでござる」

 ミヤウラは飛んで中央世界に帰り、シラハドリンガーと対峙した。

「お主の悪行もここまでだ。いやあ」

 ミヤウラは気合とともに宇宙鍛錬刀を振りまわし、シラハドリンガーに斬りかかった。

 激しく斬り合うこと十数合。宇宙鍛錬刀はブラックホールの鎧よりも強かった。宇宙鍛錬刀は、ブラックホールの鎧を真っ二つに斬り裂いていった。

 ミヤウラは勝った。

 これが剣豪ミヤウラの物語である。

 ミヤウラはそんなやつだった。

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