第17話
突然、おかしなおっさんが二人の前にやってきた。名前もわからない見ず知らずのおっさんだ。ちょっと背の低い小太りのおっさんだった。いったい何者なのかもわからないこのおっさんは、出会うなりいきなり大声で二人に話しかけてきた。
「あんたら、どえらいことをしでかしてくれたなあ。地球を滅ぼしてしまったのか。いかんぞ。そいつはいかんぞ。わしの良心も、そんなことをしてはいかんといっておるぞ。よいか。お主らは気をつけなければならん。地球を滅ぼしたからには、きっと軍隊が来るぞ。軍隊がお主らを攻めてくるぞ」
おっさんは大声でわめきちらした。見るからに必死で深刻な表情をしていた。しかも、大汗をかいていた。大慌てなのが、二人にもわかった。
「軍隊? 軍隊なんて、怖くない。ねえ、サントロ」
ミタノアがサントロに同意を求めた。だが、本音をいえば、サントロは軍隊に攻められるのはちょっと怖い。
サントロにはおっさんの慌てぶりがよくわかった。軍隊などに進軍されては、たまったものではない。
だが、おっさんの心配はそういう心配とはちょっと違うようだった。
「よいか。これから来るのは、普通にいう軍隊ではない。民衆が徒党を組んで武装したというような、普通の軍隊ではない。自分の手に入る武器や改造した武器などを持ち寄って決起するような、そういう類の軍隊ではない。そんな弱いものではない。人類の法律で定められた真の軍隊が来るのだ。よいか。真の軍隊が来るのだぞ」
おっさんはいった。
「また法律? さっきも別のやつにいってやったけど、法律なんて見たことないわあ」
ミタノアはうんざりした。
「そうじゃろ。暴走する機械群の内側にいるかぎり、法律などと関わることはめったにない。それは鼓腹撃壌というやつだ。本当の善政というものは、誰にも気づかれることなく、滞りなく行われるものだからだ。特にみなに知らしめて、何か影響を与えるようなことはほとんど行っておらん。だから、知らないのだ。そんなことはこっちは先刻承知だ。だがな、書いてあるのだ。人類の法律に。『地球を壊してはならない』とな。お主らは、その法律を破ってしまったのだ」
「法律って、いったい何が書いてあるの?」
ミタノアが質問した。
「それは重要なことが書いてある。たった六条しかないがな。真に優れた法律とは、必要最小限の規則しかつくらないものだ。必要最小限の規則でできるだけ人類の幸福を最大化することが大切なのだ。現在の法律は、たった六条しか存在しない。たった六条の規則で、人類の幸福を守っているのだ。全部を今いうわけにはいかないが、その中に確かに書いてある。『第三条、地球を壊してはならない。』とな」
「それで、何が起こるの?」
「軍隊が来る。真の軍隊がだ。『第六条、以上の五条を犯したものを、軍隊が処罰する。』と決められておるのだ。お主らはその一条を犯してしまった。もう手遅れだ。軍隊は必ず来る。そして、お主らは処罰されてしまうのだ」
「それで、あなたは誰なの?」
「わしか。わしは一介の法律学者だ。この宇宙でも数少ない最先端の法学を学んでおる者だ。法律が破られることなど、ここ数億年なかったことなのでな。珍しくって、とんできたんだ。わしのことは気にせんでくれ。通りすがりの一介の法律学者が、警告と解説を与えに来たにすぎん。それでは、さらばだ」
といって、そのおっさんはどこかへ走って逃げていってしまった。
軍隊が来るのだということで、二人の間でその対処法について話し合いが行われた。だが、ほとんど何も話し合わなかったに等しかった。なぜなら、どうせ、どんな軍隊が来ようと、サントロの起こすビッグバンでふっとんで消えてしまうだろうからだ。対処するも対処しないも同じだった。そんなことよりは、どんなビッグバンを起こすのかについて、二人の間で喧々諤々の大議論があった。
議論をしている間に、軍隊は来た。
軍隊とは、ミヤウラだった。
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