第15話

 時間旅行者の公園という場所があった。時間移動が発明されてから、現在の人は一人たりともその中に入ってはいけないと決められた公園だった。だから、その公園にいる人はみんな別の時間からやってきた時間旅行者なのであり、時間旅行者同士で交流していた。その公園は時間旅行者にとっての憩いの場所なのだった。時間旅行者の公園に人がいることが、時間旅行が成功していることの証明であり、子供たちが時間旅行をする前に、その公園を見学に来るのだった。

 時間旅行者の公園には、時間を忘れた木というものが植わっていて、何十億年もずっと生きつづけていた。どこかの時間で時間旅行者が植えたものであり、時間旅行者だけを眺めて生きつづけてきたのだった。

 その時間旅行者の公園の隣で、ミタノアとサントロは出会っていた。

「来たわね、平凡な創造神」

 会うなり、ミタノアの鋭い声がとんだ。

「わたしは今まで十九年間生きてきたけど、この世界に何ひとつ価値のあるものを見つけられなかった。文明の終焉といわれるこの時代を生きているのに、ここには価値のあるものが何ひとつ転がってない。きっとこの宇宙は何の価値もない空っぽなもので、人の文明は無駄な労力のゴミためだったのよ。もし、この宇宙がこんながらんどうのような味気ないものだというのなら、わたしはこの宇宙を滅ぼすわ」

 ミタノアは黒い服に木製の飾りを身につけていた。右手には複写機を、左手には天体反動銃を持っていた。

「わたしは時間を移動して歴代の創造主たちを見てきた。この宇宙の創造主には会えなかったけど、その前の宇宙の創造主も、そのさらに前の創造主も、みんなたいしたことないくだらないやつらだった。何度宇宙をつくっても同じよ。あなたも、創造神の系譜にくだらない失敗作を付け加えるだけで終わるんだわ」

 そこには二人しかいない。だが、さまざまな監視装置が二人を監視していた。

「だけども、協力してあげてもいいのよ。あなたの起こす宇宙創世に。それだけのエネルギーをわたしはもっている。もうすぐ、この宇宙のあらゆる天体の回転が止まってしまう。その、この宇宙が回転するはずだったエネルギーすべてをわたしは使うことができる。そのエネルギーをあなたが使えば、おそらく、ビッグバンを起こすことができる。わたしはそうにらんでる」

 ミタノアがいった。サントロはにやりと笑った。

「本当にいいのかあ。おれがビッグバンを起こせば、あんただって、ふっとんで消えちまうんだ。本当にそれでもいいのかあ」

「いいよ」

「なら、契約成立だあ」

 こうして、サントロとミタノアは手を組んだ。目的は、ビッグバンを起こし、新しい宇宙を創世することだった。新世界の創造神になるために、旧世界の破壊神となろうとしていたのだった。

 ミタノアは天体反動銃をサントロに手渡した。サントロはそのエネルギーの量に本当に驚いたのだった。

「残りの二人はどうするんだ。トチガミとミヤウラだ。まだ、生きているんだろ」

「消す」

「そうだな。それがいい」

 サントロはもう完全に悪魔に魂を売ったのだった。

 創造なき破壊かもなあ。それが、今、サントロの頭のなかをよぎる最悪のシナリオだった。

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