第14話

 その、ふたつ前の宇宙は、時間が逆行していた。時間が逆に流れていく。

「何これ? 何なの、この宇宙は」

 ミタノアが思わず口に出した。

 しかし、その声はその宇宙の住人にとっては、こう聞こえたのだ。

「は宙宇のこ、のな何? れこ何」

 その宇宙の住人にとっては、ミタノアはまったく異質な存在だった。

「てけすた」

 そう、その宇宙の住人はいった。

 てけすた? ああ、助けてってことね。ミタノアはすぐに思いたった。

「てけつを気、もたなあ」

「はいはい、わかってるよお」

 それで、ミタノアはとりあえずこの宇宙がどうなっているのかを観察してみることにした。

 まずは普通にその宇宙のビッグバンまで跳んだ。そこには普通に創造神がいた。創造神は普通にビッグバンを起こしたのだ。

 つづいて、宇宙の終末、ビッグクランチまで跳んだ。

 そこには逆さ吊りの悪魔がいた。逆さ吊りの悪魔が食っているのだ、この宇宙すべてを。空間も時間も食われて、それで、この宇宙の時間は逆行しているのだ。

「ははははははっ、滅びよ、愚かな宇宙よ」

 逆さ吊りの悪魔がいった。

「あいつらに存在する価値などない。死んでしまえ」

 逆さ吊りの悪魔がいった。

「抵抗しても無駄だ。あいつらは生まれた時から苦しむことが決まっていたのだ」

 逆さ吊りの悪魔がいった。

「なぜなら、すべてを滅ぼす時間の終わりであるこのおれを、この宇宙の創造神などと勘違いしているのだからなあ」

 逆さ吊りの悪魔がいった。

「時間を逆行するあいつらには、おれこそが始まりであるビッグバンに思えてしまうのさあ。あいつらは、このおれを崇拝してやがるんだ。まったく愚かな野郎どもだ」

 逆さ吊りの悪魔がいった。

 ミタノアはとても逆さ吊りの悪魔に勝てそうになかったので、あきらめて創造神のところまで跳んだ。

「何なの、この宇宙は」

 ミタノアが創造神に聞いた。

「しかたがないのだ。これがわしの力の限界だったのだ。わしのつくった宇宙は弱すぎたのだ。まったくもって、面目ない」

「しっかりしてよねえ」

 たったひとつの創造物に宇宙のすべてを食われてしまっているのだ。まったく、くだらない、とミタノアは思った。くだらない宇宙だ。自分たちの宇宙の方が遥かにましな宇宙に思えた。

「次にもし宇宙をつくるものがいるとしたら、次は、もっと力強い宇宙をつくって欲しいものだ。そうあってほしいものだ」

 前の前の創造神はそういった。

「まあ、あなたのその願いはきっと叶うと思うわあ」

 ミタノアはそう答えた。

 逆さ吊りの悪魔はその間も宇宙を食らいつづけ、ひとつの宇宙すべてを呑みこんでしまうのだった。

 ミタノアは面白がって、さらに前の宇宙へ跳んだ。

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