第13話
ミタノア。長身で黒髪の美女である。手に持っている発明品は、複写機だ。どんなものでも、そっくり同じものをつくってしまうコピー機である。
ミタノアは今、非常に大きな危険とチャンスに恵まれていた。それというのも、ジェスタのもつ天体反動銃をこっそり複製をつくって持ちだしていたからであった。ミタノアの天体反動銃も現在、最大稼動で稼働中だった。ものすごいエネルギーが溜まっている。
トチガミがジェスタの天体反動銃を動かしても、地球の自転が止まらなかったのは、ミタノアがまだ天体反動銃を使って地球の自転を止めていたからに他ならなかった。トチガミが探すべき相手とは、ミタノアだったのだ。ジェスタの天体反動銃が壊れたのは、ミタノアにとって幸運だったといえた。この宇宙の天体の回転するエネルギーすべてを、ミタノアが独占することができるようになったのだ。これで、人類の支配者というか、この宇宙の支配者はミタノアだ。宇宙の根源的なエネルギーの一部をミタノアが完全に牛耳ってしまったのであった。ミタノアはそれを位置エネルギーだと思っていた。
この宇宙を支配したら、ミタノアにはやってみたいことがあった。それは、虐殺でも虐待でもなく、時間旅行だった。ミタノアは時間旅行が好きなのだ。これだけのエネルギーがあれば、跳べると思っていた。ビッグバンの向こう側まで。ミタノアの夢は、このビッグバンができる前の宇宙に行ってみることだった。
ミタノアはまず七十億年前の地球に跳んだ。
まだ生き物のいなかった頃の地球。ごうごうと溶岩がうずまき、まだ大地が堅い確かなものに定まってはいなかった。地響きのような音がするなか、上空は無音だった。ひたすら静寂だった。無生物の静寂が地球を包んでいた。ミタノアはしばらく呆然とその景色を眺めていた。どれくらいの時間がたったのだろうか。生き物のいなかった頃の地球を見るのに満足すると、再び時間移動した。
次に、百億年前の宇宙に跳んだ。
まだ、太陽が生まれる前の宇宙。まったくの真空で、ここがどこだかわからなかった。星はまわりにたくさんあって、ちゃんと回転していた。ミタノアは太陽が生まれる前の宇宙を見ていた。こうして、太陽すらない宇宙を見ていると、なぜ、自分が生まれたのか不思議になってくる。ミタノアは遊び半分に、発火剤を使って、ぼうっと小さな火を起こした。この火がそのまま星になれば面白いのに。しかし、その期待もむなしく、ミタノアの起こした火はすぐに燃料が尽きて消えてしまった。行こう、とミタノアは思った。もう充分、満足していた。
次は、百七十億年前にとんだ。もっと正確にいうと、ビッグバンが起こる一秒前に跳んだのだ。この時間まで時間移動してきたのは、おそらく、ミタノアが人類で初めてのはずだった。誰もビッグバンの向こう側まで跳ぶエネルギーを持っていなかったはずなのだ。ここに、ミタノアが会いに来た人物がいるはずだった。いや、それが人である可能性は低かった。だが、ともかく無性に会いたかった。
いない。誰もいない。あったのは無。ただひたすらな無だった。
一秒がたつよりも先に、ミタノアはさらに過去へ跳んだ。
ビッグバンの一秒前にいるはずの会いたかった人に会えなかったのは、ミタノアにとって非常に残念なことだった。残念で肩が落ち、思わず涙まで出る始末だった。神さまだった。神さまに会いたかった。この宇宙の創造神にひょっとしたら会えるかもしれないと、ミタノアは思っていたのだった。だが、ことはそんなに簡単ではなかった。やはり、神さまに会うのはそんなに簡単なことではなかったのだ。
神さまに会えなかった落胆を振り払い、ミタノアはさらに過去へ跳んだ。この宇宙の前にあった宇宙がそこにはあった。宇宙は何度も創世と終末を繰り返し、無限といえるほどに連なっているのだ。
ひとつ前の宇宙は、宇宙の中心に何やら巨大な巨大生物がいて、のし歩きまわっていた。大地がないので、歩くというよりは、泳ぐという感じだが、ともかくそんな感じで、のし泳ぎまわっていた。その巨大生物は、自分とは別の生き物をなぎ倒しては、うきうきと喜び、また、宇宙の反対方向にある生き物に襲いかかり、なぎ倒してしまい、うきうきと喜ぶのだった。それが、ひとつ前の宇宙の姿だった。
そして、その宇宙の創造神は今度は簡単に見つかった。髭もじゃな、毛むくじゃらの塊だった。
「何なの、この宇宙は」
ミタノアがたずねると、創造神の方がそのことばを聞きとって、答えてくれた。
「宇宙に中心を作ってしまったんじゃ。おかげで、宇宙の中心が力を持ちすぎて困っておる」
「何でこんな宇宙にしちゃったわけ」
「しかたないのじゃ。これがわしの力の限界だったんじゃ。ああ、無念、無念。わしもきっとそのうち、あの宇宙の中心の怒り悶える何かによって、なぎ払われて死んじゃうんじゃ。ああ、無念、無念」
ミタノアには、自分たちの宇宙の方が遥かにましな宇宙に思えた。
「もし、次に宇宙をつくるものがいるのだとしたら、次は、力を小さく全体に分散させた宇宙をつくるとよいのじゃ。そうあってほしいものじゃ」
前の創造神はそういった。
「まあ、あなたのその願いはきっと叶うと思うわあ」
ミタノアはそう答えた。
宇宙の中心にある巨大生物はその間も宇宙をのし泳ぎつづけ、この宇宙が終わるまで、ずっとのし泳ぎつづけるみたいだった。
ミタノアは面白がって、さらにひとつ前の宇宙にまで跳ぶことにした。何度もいうが、宇宙は創世と終末を何度も繰り返しており、ひとつ前の宇宙の前にも、やはり宇宙が存在するのだ。
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