第4話
ジェスタたち四人は四人ともそろって、中央拠点サーバーから輸送船へと向かっていった。輸送船は、人類なら誰でも利用可能な宇宙航行手段である。もちろん、暴走する機械群の一部であるのだが、居住区から放り出される様子もないことだし、ひょっとしたらこのまま輸送船に乗れるのではないかという予測があった。当然、輸送船の利用は無料である。人類なら、誰でも平等に使うことができる当然の権利のひとつだった。もし、万が一、暴走する機械群に乗船を拒否されたとしても、いくつかの船は人類の手製の船なので、たいへん個性的な航海になるではあろうが、とりあえずは宇宙旅行が可能だろうというもくろみがあった。まず、輸送船に向かうことについて、四人に意見の相違はなかった。
だが、ビーキンたちはというと、これはちょっと調子が悪かった。意見がぜんぜんまとまらないのだ。ビーキンを除く三人は、動こうとしない。サントロもリザも、どこかぐずついていた。ミヤウラにいたっては、四人など放っておいて、自分の持ち場へ帰るといいだす始末だった。
「拙者、容易なことでは自分の持ち場を離れるわけにはいかぬゆえ、これにて失礼いたす」
なことをいった。
「容易なことって、今起こっていることは天変動地なことじゃないのか。これ以上、異常なことが起こってたまるか。暴走する機械群に危険指定されたやつが、人類を支配するとかいい出しているんだぞ。このままじゃ、本当に人類を支配されちゃうんじゃないのか。それを黙って見ているなんて、正気の沙汰じゃないぞ」
ビーキンは怒鳴り声をあげた。
ミヤウラは目をつむり、平静を装っている。まったく関心がないかのようだ。
「拙者には拙者の都合がござる。拙者が動くときは今ではござらん。これにて失礼いたす」
「そんなこといったって、あんたは二位だよ、二位。人類を滅ぼす容疑者の二位なんだ。今のうちに手を打っておかなければ、やばいだろう。サントロのいうとおりなら、ジェスタさえ殺してしまえば、おれたちは人類に復帰できるんだ。わかるだろう」
ぎろりと、ミヤウラが目を開けた。その眼光にはどことなく、何者も許しはしないような強い決意のようなものがこもっていた。ミヤウラにはミヤウラの都合があった。ミヤウラからすれば、この勝負は四対四ではない。ジェスタと自分があるのみだった。他の有象無象など、まるで意に介する必要がなかった。なぜなら。
「拙者にも、確かに宇宙を灰燼にせしめるだけの力がござる。拙者はまだ、その力を使おうとは思わぬ。それだけでござる」
ミヤウラはいった。それが本当だとすれば、強力な戦力だ。ぜひ、味方にほしいところだ。それだけの力を持つミヤウラが、ジェスタの側につかなかったのは幸運だったといえた。
「だが、あんたの発明品はその紙切れ一枚なんだろう」
ビーキンが突っかかる。
「そうであるが」
ミヤウラが答える。
「いったいなんなんだ、その紙切れは」
ビーキンが聞いた。確かに不思議なことだった。人類の必修課程である発明の時間につくった道具がたった一枚の紙切れとは、お粗末なものだ。
「これは、どこでも無料で船に乗れる無料パスポートでござる。拙者、少し遠くまで行かなければならないので、このようなものが必要なのでござる」
まったく愚か者としか思えなかった。暴走する機械群の輸送船に乗れば、だれでも、暴走する機械群の領域を無料で行きかうことができるのだ。そのうえで、わざわざ無料パスポートをつくる必要性がまったく感じられない。
ダメだ、こいつでは、とビーキンは思った。ミヤウラはまったく戦力にならない。一枚の紙切れなんかでは、人類を滅亡できるというジェスタの発明品にまるで歯が立たない。やはり、ここはおれが頑張らなければならないのか、とビーキンは思った。
ちらりと、サントロを見た。
「ああ、おれもちょっと用事があってさあ。あとから、行くよ。あとから」
と、サントロも第一陣に参加するのを拒否した。がっくりするビーキン。
「あのお、わたしも、ちょっと戦いは遠慮させてもらおうかなって」
リザがいった。しなやかな裸体のリザの曲線が美しい。
どうやら、ジェスタの人類支配に抵抗する四人のうちで、まともに戦う気があるのは、ビーキンただひとりだったようだ。
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