第3話

 ジェスタが見せた道具は、大きさ三十センチくらいのぶ厚い円盤に、とってをつけて持ちやすくしたような、そんな道具だった。その道具の名は、天体反動銃といった。

「これをちょっと動かすとね、例えば、アルファ・ケンタウルスの自転を止めてみようか」

 ジェスタは道具を動かし、アルファ・ケンタウルスという恒星を指定した。そして、ケーブルに石ころをくっつける。すると、どかああああん、とすごい威力で石ころがすっとんでいった。

 石ころは中央拠点サーバーの壁を何層も突き破って、どことも知れない宇宙に向かって、すっとんでいった。その速さは音速を遥かに超えていた。軽い衝撃波が起きて、部屋にちょっとした風が起こった。

「なんだ、そりゃ」

 トチガミが驚きの声をあげた。

「これはね、天体反動銃といって、おれが開発した道具なんだ。星の回転を止めて、回転するはずだったエネルギーをとりだし、撃ちだす道具なんだ」

 へえ、とみんなの声が響いた。

「はっきりいって、この道具を使えば、人類を滅ぼすことも、暴走する機械群を倒すこともできると思う」

 ジェスタはいった。

 長身の美女であるミタノアは背中まである長い黒い髪をしている。乳房もふくよかで丸みをおびている。手には、大きさ十センチぐらいの片方が丸で、片方が長方形の道具が握られている。これはミタノアの手製の道具なのだろう。暴走する機械群がとりあげることはなかった。

 一方、短身のジナはというと、赤色の髪が肩ほどまであり、前髪が長い。乳房も普通にあった。ジナは十二個の極小ブラックホールを従える上級天体技師で、重力の安定するままに逆さになって宙に浮いていた。

 残ったリザはというと、背は二人の真ん中ぐらい。髪は薄茶色をしていて、いちばん小さな乳房を隠すように、あからさまに恥ずかしがっていた。彼女は人類の教育の必修課程である発明の時間をさぼったのであろうか。この時代の全人類が自分で一人一個の発明品をつくり、その発明品の所有権は暴走する機械群から独立して有することができるのである。リザはその発明品を今は手元には持っていないようであった。

 男性諸君の方はというと、全員が教育されたとおりのたくましい体をしており、その筋肉に見劣りするものは一人もいなかった。所持している発明品は、ジェスタは天体反動銃、ビーキンは一個の銃、ミヤウラは一枚の紙切れ、サントロは大きな袋、そして、サイボーグのトチガミはその体自体であった。

「するとなに、わたしたちは自分の発明品だけで、これから暴走する機械群と戦うの?」

 ミタノアの目が点になった。

「原因はこいつだろ、こいつ」

 と、サントロがジェスタに顔を向けた。

「こいつは自分でいったぞ。人類も暴走する機械群も滅ぼす力があるってなあ。つまりだ。人類を滅ぼしかねない発明をしたやつを暴走する機械群は探しているんだよ。おれたちは何がどうなってたか知らないが、こいつを特定するまでの捜査途中の容疑者にされてるんだよ。こいつはちゃんと、一位じゃないか。つまり、こいつを特定するための誤差に、おれたちは巻きこまれたんだ。こいつを差しだしさえすれば、おれたちはたぶん無事だぞ」

 『失格者』であることに対する新説がサントロの口から出た。人類滅亡を阻止するためだというのだ。はたして、本当にそうなのだろうか。いや、待て、冷静にもう一度、状況を考えてみようではないか。

 八人はすでに『失格者』に認定されてしまった。そして、ジェスタの持つ天体反動銃の威力も確かだ。まだ、誰ひとり、嘘はついていないのではないか。だとしたら。

「いや、待てよ。だったら、おれはジェスタにつくぞ」

 と、トチガミがいった。

「人類を滅ぼす力を持っているんだろ。だったら、人類を支配する力があるも同然じゃねえか。もし、そうだというなら、いちばん強いのはジェスタだ。こんなチャンスはねえ。本当に人類を滅ぼす力がないかぎり、暴走する機械群がおれたちを人類の認定から外すなんてことはしねえ。こいつは激本気だと思ったほうがいいぞ。暴走する機械群は今、三十億年前に組み上げられたはずの初期プログラムに逆らっているんだ。下手をすれば、いっきに暴走する機械群の全プログラムがいっせいに停止しかねない。暴走する機械群がおれたちを直接殺したりすれば、全プログラムはいっせいに停止するだろう。暴走する機械群は、本来なら、人類であるおれたちにいっさい手を出すことができない。それくらいの異常事態が起こっているんだ。暴走する機械群は常に正しいんだ。だったら、今いえるのは、ジェスタは暴走する機械群より本当に強いってことだ」

 トチガミはそこで一呼吸おいた。

「もう一度いう。だったら、おれはジェスタにつくぞ。ジェスタと一緒に人類を支配しようぜ」

 八人が八人とも、それぞれの反応を探ろうとした。全員が全裸のため、目のやり場に困る。しかし、それでも、それぞれがそれぞれの対応を考え、決めつつあった。

「わたしもジェスタにつく」

 ミタノアがいった。

「わたしも」

 ジナがいった。

 ジェスタ、ミタノア、ジナ、トチガミ、これで四人だ。

 残るは、ミヤウラ、ビーキン、サントロ、リザ、同じく四人。

「これで四対四だぜえ。恨みっこなしだぜえ。いいのか、決めちまっても」

 トチガミが濁声でいった。

「人類の支配など、させるか」

 ビーキンが怒った。

 ここで、人類の支配をめぐって、四対四の壮絶な殺し合いの火ぶたが切って落とされたのであった。

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