第16話
「知らねぇヨ。兄貴が何を考えていたのかも、何を成し遂げたかったのかもナ」
ふんぞり返って偉そうに答えるG骨に、太一は何度目かも分からない溜息をついた。
G骨と太一の戦いは、「一応は」太一の勝利という形で終わった。
こんな風に歯切れの悪い勝利宣言となってしまったのは、いまいち納得のいかない決着のつき方のせいだ。
いよいよ止めを刺すというところまで太一を追いつめてからというものの、G骨の動きは急激に鈍くなり始めた。まるで太一以外の誰かに怯えるかのように注意を散漫とさせ、挙句の果てには追いつめられている中でさえあらぬ方向を見る始末。
更には一撃喰らっただけで降参だと武器を捨てられてしまっては、勝ったというよりも相手にされなくなったと捉えるのが自然であろう。
何か策でもあるのかと色々勘ぐってみたが、特に何も浮かばなかったので、太一は腑に落ちないまま銀次のことを問いただすことにしたのである。
「知らねぇってことはねぇだろ。お前はあの『煙の王』の舎弟だったんだろ? それなら『銀月の夜』に、お前も何か手伝ったりしたんじゃねぇのか」
「馬鹿言ってんじゃねェヨ太一。Meは赤丸銀次の舎弟であって、『煙の王』の舎弟じゃねェ」
「あ? どういうことだ、それ」
眉を顰めた太一に、分からねェ奴だゼ、と呆れたようにG骨は首を振って、
「Meが――いや、この屋敷に潜む7800の煙魔が惚れこんだのは赤丸銀次という名の一人の男であって、『煙の王』なんてすかした名前の殺人鬼じゃねェってことサ」
「じゃあ、もしかしてお前も……」
皆まで言わずとも、太一の心中はG骨へと伝わった。彼は大きく頷いて、
「ああ、今でも信じられねェヨ。あの人があんなことをするなんて。煙魔であるMeに人殺しを止めさせたのは、あの人だってのにヨ」
名残惜しそうに銀次を語るG骨を見て、ここでもなのかと、太一はまた少し、胸をざわつかせた。
現実離れしたこの世界なら、自分はもう、赤丸銀次の影を追い続けなくて済むと思ったのに。
ここにいる「赤丸」は、
「本当に強くて、そして器の大きい人間だった。でも、いつからだろうな、あの人が変わっちまったのは」
「変わった?」
それは突然だった、とG骨は静かに語る。
「いつからか、この白煙荘におかしな連中が出入りするようになった。老若男女様々。兄貴と何をしていたのかまでは分からなかったが、気づけば兄貴は、『煙の王』を名乗ってあのおかしな連中と共にこの屋敷を出て行った」
「奴がこの屋敷を出て行ったのはいつ頃だ」
「知らねェヨ。煙魔であるMeには時間の概念なんてねェからナ。Meはただ、舎弟として兄貴の帰りを待っているだけサ」
結局、G骨からは何も有力な情報を得ることはできなかったが、ただ彼が最後に、誰に言うでもなく漏らした言葉だけが、なぜか一番強く残っていた。
「どうしてあの人は、俺を置いて出てっちまったんだろうナ。あの人の舎弟は、俺一人だけだってのにヨ」
本人が分かってやっているかどうかなんて知らないが。
それが好い意味であれ悪い意味であれ、自分に依存するようになった時を見計らって、赤丸銀次という男は決まってその姿を消すのである。
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