第6話 恐怖の静山坂(しずやまざか)

ジリリリリ・・・


今時、ジリリリって鳴る真っ黒い目覚ましもどうかと思うんやけど、ジリリリで私の朝は、はじまる。

「ふわぁ」って、大きな背伸びをして、体を起こす。


「あら、珍しいことやないの。目覚ましで起きはるなんて」

お母さんが、エプロン姿で登場してきた。

「おはよ」

「いつも、私が起こしにいくまで、起きへんのに」


・・・私は、リビングに向かう。

テーブルには、トーストにスクランブルエッグに、ローストしたハム。

私たちの朝食は、和食ではなく、洋食スタイルなのだ。


どうやら、お母さんの仕事が関連している・・・らしい。

というか、たまには、和食が食べたいねんけどぉ。

私は和食めっちゃ好きなんやけど。

でも、その為には、お母さんより早起きしなくちゃならへんから、一生無理かも。


私は、日課のオレンジジュースを飲みながら、テレビを見る。

どんなに、遅刻しようが、絶対にテレビを見てやんねん。

そう心に決めている。


「今日もテストやろ?昨日、すぐに寝ちゃったのに、大丈夫なん? 」

「うん、大丈夫やで」

私は、トーストを食べながら、テレビから視線をはずさないで、返事をした。

「お母さん、落第なんて、嫌やからな」

「はあい」

って、私は、返事をする。


「じゃあ、仕事に行ってくるから、後はよろしくね。テスト頑張りや」

「うん、いってらっしゃい」

と、私は、お母さんを見送る。

お母さんは、スーツ姿で、手には大きなゴミ袋を持って、毎朝、仕事場にでかける。


私は高校が近くなので、いつもお母さんの方が早く家を出る。

ぎりぎりまで寝ていられるから、静山丘(しずやまがおか)高校を受けたんやけど、昨日の柴犬が気になって早く出たかった。

食器を洗って、服を着替えて、すぐに家を出た。

「いってきます」


昨日、柴犬に会ったのは、家から学校に向かう途中の家が並んでいる道。

えっと、住宅街っていうんかな。

あまり車も通らへん道やから、柴犬が車とあたることもないと思うねんけど・・・


その時、私のスマホが鳴った。あ、琴美(ことみ)からやわ。


「おはよ、ふう。ちゃんと起きれたん? 」

琴実に、返事を返す。

「うん、起きたで。もう学校に向かってんで」

「ほんまに起きてるん?・・・ありえへんねんけど」

琴美に返信するのはやめた。


ふと、空を見上げる。

今日は青空だ。

雲の隙間から、太陽が顔をのぞかせているのが、すごく気持ちがいい。

昨日の雨で、風邪をひくかなって思ったんやけど、体は元気。


昨日出会った場所に、近づいてきた。

私は、辺りを見渡した。


・・・けれど、柴犬はいなかった。

今朝も会えるかな、って思ったんやけどなぁ・・・ちょっと、残念。

もしかして、昨日の雨で、柴犬、風邪ひいたんかな・・・

私って、アホやから、風邪ひかへんのかな・・・


でも、柴犬は、どんなに探してもいなかったから、しょうがないか。

今日も、テストがあるから、とりあえず学校に行かな。うざいけど、また担任の安部(あべ)に小言を言われるし。


駅前を通り過ぎて、踏み切りを渡って、坂を登れば私の高校。

でもな、この坂が結構キツイんやで。

近所の難所の一つ、恐怖の静山坂(しずやまざか)やねん。

冬の耐寒マラソンなんて、ゴール寸前の最後の最後に、この坂があるから、恐怖の静山坂って呼ばれてんねんて。

ほんま高校生にもなって、耐寒マラソンって・・・


通学路は、自転車おりて、歩いている生徒ばかりなんやけど

ただ、一人をのぞいて・・・


「おはようございます」

「おはようございます」

「おう、おはよう、おはよう」

その、ただ一人がやって来た。私も挨拶をする。


「おはようございます、先生」

「おお、廷上(ていじょう)。今日は遅刻せえへんかったんやな」

「ええ、まぁ・・・」


担任の安部は、唯一この難所を普通に・・・普通をよそおって・・・自転車で登ってくる。

熱血をアピールしていると思うねんけど、私から見たら、無駄な努力。

もっと他にしなくちゃならないことがあると思うねんけどな。

でも、まぁ、興味無いし、別にどうでもええねん。


「おはよう、ふう。なんでここにいはるん?」

後ろから、美希(みき)に声をかけられた。


どいつもこいつも!私がふつうに登校してたらなにか問題でもおきるんか!


私が何も答えなかったら、学校一の秀才が、私に聞いてきた。

「今日のテストは大丈夫なん? 」

「うん、たぶんあかんわ」

と、私はスタスタ歩きながら、両手であきらめの態度を示した。


「あきらめんの、早ない? 」

「え、もう、どうでもええやんっ!テストなんか。いまさら勉強しても・・・」

「せやけど、ふうが落第すると少しさみしいやん。せめて、落第せえへんようにね」


うっ、落第か!

ありえる・・・


私達は、校門をくぐった。

私は、美希に昨日の犬の話はしなかった。

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