第5話 ウソは苦手

第5話 ウソは苦手


「ただいま~」

玄関開けた。

って、言っても誰もおれへんけど・・・と、思っていたら、奥から今日は声が聞こえた。


「おかえり」

あれ、お母さんもう帰ってたんや。


私は靴を脱ぎながら

「帰ってくんの早くない? 」

と、私の前に現れたお母さんに答えた。


「ふう、何してたん? こんな遅くまで!もう、そんなにぬれちゃって」

お母さんは、タオルを取りに小走りで奥に向かった。


「え、そんな時間なん?? 」

時計を見たら、夜の10時を過ぎていた。

あれ? そんなに時間ってたってたっけ??


「はい、タオル。先にお風呂入りなさいよ。風邪ひくで」

「はぁい」


何してたかなんか、話されへんわ。だって、信じてくれるわけないもん。

だから、とりあえず、なにも言わず、お風呂に入ることにした。


もう、お湯張ってくれてたんや。

私は、服を脱ぎながら、扉をあけてお風呂場をのぞいた。


お湯につかると、疲れがどっかに行っちゃう気がする。

私は、さっきあったことを考えていた。


ぜったいに、ぜったいに、あの犬から声をきいた。

それは、間違いない。透き通った男の人の声やった。

目をつぶったら、聞こえる。どうしてか分からへんけど、今でも覚えている。

すごく優しかった声やった。

でも・・・


と、私は、口までお風呂につかって考えていた。

未来を変えたいって、また私の妄想やったんかな・・・

自信無くなる。でもちゃんと聞いたし・・・


ポチャン、と、天井の水滴が、水面に波紋を作る。

私の黒い長い髪が、お湯に浮かんでいる。

あ、髪を結ぶん忘れた。


そんなどうでもいいことと、さっきの不思議なこととを交互に考える。

私は柴犬の、あのキレイな茶色の毛を思い浮かべていた。

朝は、少し汚い犬だなって思ったんやけど、雨で流れて、すごくキレイな毛をしてたなぁ。


どことなく、愛嬌のあるあの顔とか、舌を出してる顔とか、そして、あの声・・・

どうしてか分からへんけど、朝のこと、そしてさっきのこと、何回も頭をよぎる。


ガラッ、と浴室のドアが開いた。・・・また、お母さんだ。

「ふう。あんた、いつまでお風呂入ってんの? 早く出て、ご飯食べなさい」


あ、もうそんな時間になってたんや。そういや、のぼせてきたかも・・・

私は、「はあい」って、お母さんに答えて、お風呂から上がった。


ジャージに着替えて、私は、タオルで頭を拭きながら、リビングに向かった。

そこには、豚肉の生姜焼きが並んでいた。


「お母さん、今日は、鍋ちゃうの? 」

「ふうが、帰ってくるん遅かったからやないの。さぁ、早く席に座って」

「あ、そっか・・・」


私は、タオルを肩にかけたまま、ご飯を食べる。

お腹は、すごくすいていた。ただ、食べるまで分からへんかったけど・・・


「ふうって、考え事しだしたら、ずっと考えてるよね。」

お母さんが、聞いてきた。


私は、おみそ汁のおわんを口にあてながら、「そうかな」って答えた。


「それに、こんな遅い時間まで、雨の中で何してたん? 」

どないしよ? どう答えようかな? 正直に言うても、信じてくれへんやろし。

「・・・琴実(ことみ)とコンビニで、雨宿りしてたんやけど、全然止まへんから、帰ってきたん。そしたら、途中で雨止やん。ほんま、嫌になるわぁ」

と、私はご飯に視線をおとして、とっさに嘘をついた。


「そうなん? せやったら、コンビニで、傘買えばええやん」

「え、あ、そうやなぁ。買えば良かったんやなぁ。あはは、なに考えてたんやろね、私」

私は、嘘をつくのが、昔からすごく下手や。


それから、私は、黙々とご飯を食べた。

別に悪いことをしてたわけじゃないんやけど、少しでも話してしまうと、「犬が言葉を話した」とか言いそうやし。

お母さんに心配もかけたくないし。


黙っていると、お母さんから声をかけてきた。

「明日もテストやろ? 勉強せなあかんのとちゃうの? 」

「そっか、まだまだテスト続くもんなぁ・・・明日は、数学やったかな? 」

「そんなひと事でええん? 試験なんやから、もっとちゃんと考えなさい」

「はあい、ごちそうさまでした」


私は、お箸を置いて、自分の部屋に戻った。

もちろん、勉強なんか、手につかないわけで、横になったら・・・寝ちゃってた。

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