第4話 星の公園

雨が降ってんのに・・・何してんねやろ?

私は柴犬を見て立ち止まった。


柴犬は、座ったままこちらを向いていて、口を開けて舌を出している。


雨は、どんどん激しさを増してきた。


もしかして、私を待ってたん?

と、思ったんやけど、まさか、そんなはずはないよなぁ、と思い、首をかしげた。


このままじゃ、風邪をひいちゃうで。

私は、柴犬に、駆け寄った。


「何してんの? こんな雨ん中で。どこか雨宿りする場所・・・あ、すぐそこに公園があるから、そこ行こ? 」


私は、公園のある方角を人差し指で示して、柴犬に声をかけた。

柴犬は、軽く首を立てにふり、公園に向かって、歩き出した。


私の言ったこと、わかんのかな?

でも、またそんな事言ったら、琴実と美希に笑われるんやろなぁって思いながら、私も柴犬と一緒に歩き出した。


雨は本当に、どんどん降ってきた。

それは、もう、台風なんじゃないかってぐらいに、降ってくる。

どうせ濡れてるんやから、あんまり気にもせえへんけど、柴犬は、毛がたくさんついてるから

重くなるんやろなって事を考えながら小さい公園にたどり着いた。


星谷(ほしのたに)公園・・・

小さい時に、よく琴実と遊びに来た公園。

毎日、近くを通るんだけど、なかなか寄ったりしないから、ほんと、久しぶりやわ。

あ、まだ、あのブランコある。ちっちゃいブランコ。


星谷公園に入るなり、懐かしくて辺りを見渡した。


雨宿りする場所はもう決めてあんねん。

この星谷公園の由来にもなっている星型のトンネル。

中は、ちょっとだけ迷路みたいな感じになっていて、入り口と出口がそれぞれ一箇所ずつあんねんで。

でも、どっちが入り口でどっちが出口か、よく分からへんけど。


「この中なら、雨に濡れへんよね」と言いながら、私と柴犬は、トンネルの中に入った。


私は、バッグからスポーツタオルを取り出して、柴犬の濡れた毛を拭いてあげた。

なんか、柴犬、嬉しそう、って勝手にいい風に解釈する私。


そういや、お母さんも昔、犬飼っていたって言ってたっけ。

私が生まれる前の話だから、多分、おじいちゃん、おばあちゃんの家に住んでた時なんやろな。

私が生まれてからは、お母さんは、一人で私を育てたから、犬を飼う余裕もないって言ってた。

お母さんは、頑固やから、「私一人でも、育てる」って言って家を出たみたい。

一度決めたら、聞かはれへん人やから。

でも、いつも私一人でお留守番やったし、ちょっと寂しかったんやけどなぁ・・・


私は、懐かしい古い記憶の回想の真っただ中やったんやけど

「ワン」

いきなり柴犬がほえて現実に戻った。


私は、びくっとして、タオルを落とした。


「もう、いきなり、吠えんといてよ」

私は、落としたタオルを拾いながら、柴犬に言った。


柴犬は、片目を軽く閉じて・・・って、ウィンクした??

犬って、そんな事出来るんや!


ちょっと変わった柴犬やな。謝ってんのかな。


私は、この柴犬に興味が沸いてきた。

今まで、こんな体験したことが無いから、ちょっとおもしろかった。


私は、次は何するんやろう?って、興味深く、柴犬を見た。

すると、次は、柴犬はお座りの状態で、両目をつぶった。


「どうしたん? タオル、目に入ってしもた? 」


柴犬は、横に首を振った。

その後、私の袖を口で引っ張った。


「何をして欲しいん? 分からへんよ」

私は、柴犬を見た。首を縦に大きく振った。

目をつぶれって言ってんのかな?

よく分からへんけど、そんな気がしたから、柴犬と一緒に目をつぶった。


すると、暗闇の中から、声が聞こえた。


「君を待ってたんだ」


私は、朝あったことが、現実やったんや、って思った。

その声は、すごく透き通っていて、若い男性の声やって分かった。

すぐに聞き返してみた。


「どうして、私を待ってたん? 」

「君の未来を変えたいんだ」

声が、とても真剣に感じられた。


どういうことか事態が分からない私に

柴犬の語り方がふっと優しい声になった。


「体を拭いてくれて、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」と、私は目をつぶったまま、おじぎをした。


・・・しかし、その後の返事が無い。

私は、ゆっくりとまぶたを上げてみた。


柴犬は、またどこかに行ってしまった。

「もう、また勝手にいなくなるやん」と、私は、ほっぺをふくらまして、怒った顔をした。


ふと気づくと、雨の音はやんでいた。

未来を変えたい。

私は、その言葉の意味が分からないまま、トンネルから外に出て、暗くなった空に、星が出ているのを見ていた。

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