第10話 FOX2
「スパロウツー、FOX2! FOX2!!」
ミサイルのシーカーが敵を捕らえたことを伝える甲高いブザーと、HUDに表示されるロックカーソルが敵を完全に捉えていることを確認してから、俺は操縦桿の親指近くに設えられているミサイル発射ボタンを二回押し込んだ。
ロケット花火の大きくなったような音を残し、視界の右と左からそれぞれ一発ずつエウリュアレーが撃ちだされた。
数秒だけロケットモーターが燃焼し、オレンジ色の炎と真っ白な煙を吐きながら急加速したミサイルはすぐに燃料を使い切り、炎も煙も当然のように消失する。
大きく弧を描きながら飛び去ったミサイルは、視界の左斜め上を飛行していた敵に向け一目散に駆けていく。
敵はさっき落としたものと同じグラスパー無人機だった。フレアを吐きながら急旋回に移り、ミサイル回避機動を取り始める。
だが今の今までバーナーを使っていたエンジンが急に冷えるはずもない。
熱を追いかけるこのエウリュアレーを回避するためには、エンジン出力を落として熱を下げるクールダウンと呼ばれる作業が必要だ。フレアをばら撒いてとにかく機体を振り回せば避けられる代物じゃないってことだ。
でも当然、クールダウンには時間がかかる。その時間を、俺は敵に与えなかった。
ミサイルはフレアをスルーし機体へと一直線に向かい始める。
真っ白な翼端煙を青空のキャンバスに描きながら素早く左に舵を取った無人機の主翼を、一発目のエウリュアレーが捉えた。
そして、爆発。
オレンジ色の閃光と真っ黒な煙に包まれた敵だが、その爆炎を身にまといながらも煙の塊から飛び出してくる。当然ミサイルが命中したところは、真っ赤に熱せられて煌々と閃光を放っていた。
やっぱり、ミサイル一発でTT装甲の耐熱限界までもっていくのは無理がある。だからこそ、俺は二発撃ったんだ。
もう一発のミサイルが、先ほどと同じ主翼を捉える。
一度攻撃を喰らって蓄熱したTT装甲だ。熱を追いかけるエウリュアレーが逃すはずがない。
もう一度、爆発。
だが今度は、確実にグラスパーの息の根を止めにかかる一撃だった。
繰り返し同じ個所にミサイルの直撃を受けた主翼は、耐熱限界を超えてへし折れる。主翼を失った敵機が、真っ黒い煙を吹き出しながら雲の中へと消えていった。
「スパロウツー、スプラッシュバンディット!」
この戦闘初めての戦果。だが喜んでいる暇はない。
機首を起こし、あたりを素早く見回す。
こちら側の無人機ヘロンはかなり健闘していたが、右斜め上空でそのうちの一機が後ろにつかれてピンチに陥っていた。
それに追いつくため、操縦桿を引き、急上昇。……しようとしたのだが、
『そういえばマスター、先程からラダーペダルを一度も使用していませんが、大丈夫ですか?』
「えっ!? あ、あぁ!」
アンジェの問いに、慌てて足元を見やる。
そこには、左右同じ形をしたペダルが顔をのぞかせていた。
「ゲ、ゲームだとラダー操作はボタンだったからなぁ……。右ペダルがR2で、左ペダルがL2か……」
『右のペダルを踏むと右にヨーイング、左のペダルを踏むと……』
「それくらいわかってらぁ!」
『旋回中の高度維持や急激な機動の際にラダーは必須です。しっかり使ってください』
「わぁーってるっての!」
踏み心地を確かめるように、左右のペダルをそれぞれ軽く踏み込む。
機体はそれに合わせ、機首を少しずつ左右に振ってみせた。
どれくらい踏み込めばどれくらい機首がヨーをするのかはわかった。あとは、ボタンではなくペダルで ヨーイングをするということを体に染み込ませていくしかない。
「よし! じゃあ今度こそ!」
攻撃に集中している敵はこちらが後ろについたことにも気づかず、ビーム機銃を乱射し続けていた。
無人機だっていうのに後ろがお粗末だなんて、どうなんだろうか?
でもまぁ、こっちにとっちゃ好都合でしかない!
「シャ……じゃないスパロウワン! 前の敵をやります!」
『おう好きに飛べ! どうやらここも全部無人機らしい。遠慮はいらねぇ! ブチかませ! 背中は守ってやる!』
さっき感じていた不安など、実戦で吹き出すアドレナリンで消し飛んでいた。
心の中で感謝を伝えつつ、俺はセンサー類で敵のロックオンを試みる。
緑色のマーカーで囲まれているということは、センサーがその敵を捉えてトレースしているということだが、ロックオンしているということではない。
そもそも俺のいた世界の戦闘機は、赤外線誘導ミサイルや機銃で攻撃を行うときにもレーダーを使用する。レーダーを使用しないでこれらの兵装を使うことも可能なのだが、難度が跳ね上がるのだ。
普段レーダーは基本的にかなり広い角度を索敵しているが、ドッグファイト時には前を行く敵をロックオンして索敵範囲をその敵に絞る。
そうすることで赤外線誘導ミサイルの目、いわゆるシーカーが敵を見つけやすくしたり、機銃攻撃の際に敵の位置がわかりやすくなったりする。
でもこの世界でレーダーは通用しない。だからその代わりに、ゲームと同じくセンサーを用いてロックオンし、攻撃の補助とするのだ。
「まぁでも、真後ろを取る必要なんてないんだけど……!」
立体映像で投影されているHUD画面は、視線を向けた先に追従する。
つまり目線を向けた先でロックオンすることも可能ということだ。
これはもとの世界の戦闘機でも最近実用化され始めている技術だが、それよりはるか先を行くブルストの戦闘機がこのオフボアサイト攻撃を実行できないはずもない。
『マスター、敵機センサーロック。HUDに情報投影開始します』
「サンキュー! エウリュアレー三番四番シーカー冷却開始!」
『了解』
唸るようなミサイルシーカー音がだんだんと高くなり、やがて一本調子の甲高いブザーへと切り替わる。
ちなみに射撃前にシーカーを冷却するのは、熱を追いかけるミサイルの目であるシーカーが熱を持ってしまっていると、誘導に悪影響を及ぼしかねないからだ。
『三及び四番シーカー冷却完了。いつでもどうぞ』
「スパロウツー、FOX2! FOX2!!」
再び、軽い振動ののちに視界の左右から白い線が伸びていく。
フレアを吐き出しながら、機体を右に大きく捻って急降下へと移る敵。
放った一発はフレアに惑わされ、明後日の方へと飛び去って行く。
もう一発は、直撃まではいかなかったが近接信管を作動させて敵の近くで自爆し、ダメージを与えることに成功した。
近距離での爆発の風圧を受け、グラグラと揺れる敵機だが、すぐに姿勢を整え後ろについた俺を引きはがすべく戦闘機動を繰り返す。
お手本通りのジンギング機動。右へ左へと急旋回を繰り返し、機首を上下に揺らして次の機動を読ませない。俺の機銃の射線から巧みにその機体を外していく。
視界がぶれるほどの急激な機動。
Gメーターは常に十以上を指示し、瞬きをする暇すら見つからない。
この世界の空戦で厄介なのは、いくら激しい戦闘機動を繰り返しても敵の動きがまったく鈍らないということ。
普通これだけ激しい機動を繰り返せば、機体の持つ運動エネルギーはどんどん消失し、やがて失速へと陥ってしまう。
だがこの世界の戦闘機はキチガイじみた機体性能を持つため、いっくら激しい機動を繰り返しても速度がまったく落ちないどころか、そんな機動の中ですら加速することもできるのだ。
だが、それはこっちも同じ。気力さえ持てばいくらでも戦闘機動を繰り返すことができる。
やがて、敵はじれったくなったのだろう。バーナーを炊いて急加速を行い、俺を引きはがしにかかる。
これを待っていた!
「五番六番シーカー冷却!」
『既にやっておきました』
「上出来! スパロウツー、FOX2! FOX2!!」
一機に対し、四発目のエウリュアレー。バーナーを炊いた敵を、このミサイルが逃すはずもない。
「ビィィィンゴ!」
既にダメージを負っていた敵機は、まさに跡形もなく消し飛んだ。
真っ青な空に真っ黒な煙を伸ばす破片をまき散らしながら、重力に捉われ高度を下げていく。
『一番ランチャーのミサイルすべて射出しました。パイロンパージします』
その声に後ろを見れば、主翼の一番内側に取り付けられていた、ミサイルをつるすためのパイロンが根元から切り離され、重力に従いゆっくりと機体から離れていくのが目に入った。
そこから少し上に目をやれば、ぴったり斜め後ろについてくれているシャルロットさんの機体。
『ルーキー! 敵の数が多い、残弾には気をつけろよ!』
「了解! 次行きます!」
センサーが捉えている敵の数は、六機。
今落とした二機を加えると、少なくとも八機が完全武装で領空侵犯をしてきたということになる。
八機、八機だ。
完全武装の戦闘機八機を領空侵犯させるくらい、メデュラドは怒っていますよということを言いたいのだろう。
まず俺に、不本意とはいえ領空侵犯をされた上に四機撃墜されてるんだ。
このままだとナメられると思い及んでのこの行動だろうが、その報復でやってきた八機も、全部叩き落してやる。
そうすれば少しはルーニエスに対する態度も変わるだろう。
戦争ではない。戦争ではないが、今後のルーニエスを左右する大切な戦いだ。負けるわけにはいかなかった。
「まぁでも! 負けるなんてありえねぇけどな!」
少し下を飛んでいたグラスパーをロックオン。すかさずミサイルを二発。
距離が近かったこともあり、回避機動を取る間もなくその敵機は爆発四散する。
これで三機目! ミサイルの残りは四発。だがミサイルがなくなっても、俺には十八番のビーム機銃があるし、シャルロットさんはいまだ一発もミサイルを撃っていない。
どうとでもなる状況だ。
と、その時だった。
『ルーキー! ケツに一機ついた! 私が後ろを取るからそれまで避けろ! 機動の前にどっちに動くか報告するのを忘れるな!』
鋭い声が耳に響き渡る。俺はとっさに、操縦桿を左へと倒した。
機体は素早く左ロールを行い、さかさま飛行状態となる。さっきまで照り付けていた太陽の光が、急に陰った。すごい勢いで頭に血が上っていくのが感じられる。
「スプリットS行きます!」
『ウィルコ!』
そしてそのまま、操縦桿を引く。
急降下、円の真下に来たところで水平飛行に戻り、さっき飛んでいた方向と真逆に機首を向けた形となった。
高度を落としながら進行方向を真逆にするこの戦闘機動は、スプリットS。逆さ宙返りの途中で水平飛行に戻るのだ。
もちろんこの機動だけで、敵がはがれてくれるはずもない。だが今の目的はシャルロットさんが攻撃するまでの時間を稼ぐこと。敵を引きはがしてしまっては意味がない。
「フフン! 二機相手に一機で突っ込んできた時点でお前の負けだ!」
シャルロットさんに気づかれず、まずどちらかを撃墜できていれば敵にも勝機はあったかもしれない。
でもまぁ、一撃で撃墜することが不可能なこの世界の戦闘機だ。それもまずないと思うけど。
「次! 左からシザース行きます!」
『了解、三回目の左旋回で仕掛ける! 三回目のレフトブレイク中にスリーカウントするから、そこで切り返せ!』
「了解! インメルマンで上に逃げます!」
続いて、左急旋回から始まるシザース。
攻撃を避けたりするときに行う急旋回を、ブレイクと呼ぶ。
それを不規則に繰り返す機動が、シザースだ。
鋏(シザー)の名のとおり、敵と自分の機動が鋏のように交差することからこの名前がついたらしいが、まぁ急旋回を繰り返す機動だ。
フレアを少しずつ吐き出し、敵のシーカーにとらわれる事を回避しながらまずは左旋回。後ろに体をひねって敵の位置を確認しながら、今後は右旋回。
シャルロットさんの機体は、もうすでに射撃位置についていた。
結構激しく機体を振り回しているつもりだが、それもピタリと射撃位置に着けているあたり、彼女の腕が相当なものであることがうかがい知れる。
そして、指示された三回目の左旋回。
「行きます!」
左旋回中の機体を水平に戻し、急上昇を敢行する。さっき行ったスプリットSの上下が逆になった戦闘機動、インメルマンターンだ。
敵に後ろにつかれているときに機首を上げるということは、被弾面積が大きくなるということを意味する。
さっきの戦闘でコブラをしたときに、俺も被弾してしまったように。
だけど今回は――
『上出来だルーキー!』
――機首を上げた俺を追いかけるために、もちろん敵も機首を上げる。そこを、シャルロットさんのビーム機銃が捉えた。
『スパロウワン、スプラッシュバンディット!』
これで、四機!
戦闘に突っ込んでからまだ三分と経っていない。
俺たちが来ただけで、敵は戦力の半数をすでに失っていた。
このまま畳みかければすべて撃墜することも容易だろう。こっちの損害は、最初から戦っていた二機のヘロン無人戦闘機含めゼロなのだから。
……だけどまぁ、物事そううまく運ぶわけもない。
『マァァァァァァァァァァイスウィィィィィィィトハァァニィィィィィ!!!!』
突然、聞いたこのない素っ頓狂な叫び声が通信を支配した。
シャルロットさんの声でも、リュートさんの声でも、もちろんアンジェリカの声でもない。
無駄に響き渡る、腹からひねり出したようなダンディズムあふれる声とともに、コックピット内にセンサーロックされたことを知らせるアラームが鳴り響いた。
『ルーキー! 上だ! ブレイク! ブレイク!』
シャルロットさんのその声に、一瞬の迷いなく右ラダーを蹴り込みながら操縦桿を右に倒す。そしてそのまま、急旋回へと移った。一瞬の凄まじいGの後、急旋回を始める俺の機体。
後ろに目をやればエイルアンジェがたなびかせる翼端煙の向こうに、今まで俺たちが飛んでいた空を緑色の光線が飛び去って行くのが目に入った。
シャルロットさんは左に急旋回したようで、俺とは真逆の方向に機首を向けたことになる。
そして、一瞬太陽が陰った。雲ではない。影が小さすぎる。
太陽の光に目を焼かれながら、その白い光の塊を凝視するとそこには……、
「レイダーだと!?」
鋭利な前進翼に、X字の垂直尾翼と水平尾翼。
ブルストでエイルアンジェのライバル機とされている小型軽量の高機動戦闘機SMF-15 レイダーが二機、太陽を背に急降下してきている真っ最中だった。
くそっかっこいいなくそっ! なんて憎い演出! 一度は俺もやってみたい登場方法だというのに!
青を基調とする所謂洋上迷彩が施された二機のレイダーは、くるくると派手にエルロンロールをかましながら俺たちのいる高度を凄まじい勢いで通り過ぎ、あっという間に点となる。
遥か低空で機首を引き上げた二機は、バーナーを吐き出すと今度は急上昇。再びこちらに向けてビーム機銃を乱射してきた。
無人機は、機動こそ鋭いがやはりルーチン的な動きしか行わない。
だが今のあの機動は基本も何もないムチャクチャな動きだ。機械があんな馬鹿らしい機動を取るはずもない。
敵の射線を避けるべく急旋回中だった俺の耳を再び、さっきの素っ頓狂な声が襲う。
『ひっさしぶりだね我が愛する妻よ! 君の声が聴けず、僕はもう発狂してしまいそうだったよシャルロットォォ!』
見れば、あのレイダー二機はシャルロットさんにだけ群がり、こっちなど最初からいなかったかのように彼女を追いかけまわしていた。
「……ん? シャルロットさんと知り合いなの? ていうか今更だけどなんで敵と通信つながってる訳?」
『あれはメデュラド王国第二一一戦術飛行隊、通称キューピッズスコードロン隊長。マイク・ディードリド大尉です。通信がつながっているのは、彼がシャルロット大尉に懸想をするあまり、無理やりこちらの回線に割り込んできているからです』
「えぇっそれって機密情報とか洩れちゃうんじゃないの!? ていうか懸想してるってあのマイスイートハニーな人シャルロットさんに惚れてるってこと!? なんでまた!」
……つまりあれか、戦闘機のケツじゃなくて惚れた女のケツを追い回してるだけということかアレは。
にしてはビーム機銃乱射してるけどいいのかアレ。惚れた女を落とそうとしてるって言うか、惚れた女を文字通り落とそうとしているのか。ハート的な意味で。
『シャルロットォォォォ! 今日こそ俺の熱きパトスをその体に受け止めてくれぇ!』
「あぁもううるせぇなぁ!」
『それに関しては問題ありません。彼が潜り込んでいるのは軍事用の回線ではなくフリーの周波数回線ですから。こちらの機密が漏えいすることはありません』
「なーんだ、よかったー」
『よくねぇ! おいルーキー! 今私二機に追い回されてるんだぞ! 早く助けに来い!』
さっきまで緊張感のある戦場だったはずなのに、急にコミカルな空になってしまったのは気のせいではないだろう。
しかも無人機たちも攻撃の手を緩めて事の顛末を見守っているような気さえする。
そんなギャグマンガな空に、クソ真面目なトーンなアンジェの問いが。
『前から思っていたのですが、惚れられてるんですよね? ならばなぜ攻撃されているのですか? 私、非常に興味深いのですが』
『私を落とせたら付き合ってやるって! 昔おおっと! 約束しちまったんだ! ていうかこの前までそんなこと気にもしてなかっただろクソAI!』
『私は今マスターと共におりますので、人間の思考に関する情報を収集中なのです』
『あぁそうかよクソッタレ! 酔ってたんだよ!! いいから早くこのクソストーカーを叩き落せ!』
「りょ、了解!」
シャルロットさんが変態にケツを追われている状況だということに変わりはない。
俺は我に返り、彼女の後ろを取るストーカーのさらに後ろを取るべく機体を傾けたのだが――
『とまぁ、本当はこのまま君を落として心もゲットしたいところなんだが……』
――突然、敵がシャルロットさんの追尾をやめる。
『申し訳ないが、今回は無人機の撤退支援という任務でね。君たちと事を構たいわけじゃないんだ。もちろん隙さえあればいつでもシャルロットは撃墜しに行くけどね』
『二度とくんなクソ野郎! ってちょっと待て、敵に任務の内容バラしてどうすんだ』
『別に知られてもいい。すでに無人機はすべて撤退した後だからね』
言われてあたりを見回してみれば、さっきまで飛び回っていた四機のグラスパーの姿がない。
『この作戦はそちらの領空侵犯にカッとなったバカの独断でね。その尻拭いに俺たちが来たってことさ。今は微妙な時期だ。あんまり大々的な軍事作戦は展開すべきじゃないんだがね……。じゃあシャルロット。近いうちに迎えに行くからね。そしたら式場に直行しよう!』
おいおい、ポロポロ作戦内容とか内部情勢とか吐き出していいのかよ……。
……まぁ、これが本当だという証拠はどこにもない。
真っ赤な嘘をついてこっちに揺さぶりをかけているだけなのかもしれないし。
でもどうやら、あの二機にこれ以上の戦闘の意思がないというのは本当のようだ。彼らはこっちに背中を向け、メデュラドの方へと飛び去ろうとしている。
……ずいぶんあっけないけど無事終わったらしい。
それを裏付けるように、アンジェリカが一言。
『マスター。敵無人機の全機撃墜を確認しました。残存敵勢力はあのレイダー二機だけになります』
「えっ全機撃墜? 俺とシャルロットさん四機しか落としてないけど……」
『逃げる残りの四機を、増援に来たこちらの無人機がすべて撃墜しました』
「……」
『……覚えてろよバァァァァァァァカ!!!!! バーカバーカ! ルーニエスのバーカ!』
負け犬の遠吠えってこういうことを言うんだなっていうくらいの叫びが、いまだ黒煙が漂う戦場の空に消えていく。
こうして俺の初めてのスクランブルは、消化不良もいいところという終わりを迎えたのだった。
十一話へ続く
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