No.2 物語の標本

 地面一面に広がる物語たちをあなたは眺めています。

 鮮やかで、くすんでいて、綺麗で、歪な、物語。そのうちの一つ、目に入った一つをあなたはポケットに突っ込みました。

 誰が書いたともしれない物語をポケットにねじ込みました。


 その時点で物語は死んでしまいました。

 あなたは物語を殺してしまいました。


 仕方がないので、あなたはその物語を標本にすることにしました。死んでしまった物語を標本にして、みんなに見てもらおうと考えたのです。


「綺麗だね」

「綺麗だな」

「素敵だね」

「素敵だな」


 人々が死んでしまった物語を絶賛するので、あなたはとても得意になりました。そして、次々と物語を殺すようになりました。殺してしまった物語を美しく装飾して、標本にして、あなたは人々に見せ続けました。


 ところがある日、あなたはとある物語を殺し損ねてしまいました。殺し損ねた物語はあなたを殺そうと襲いかかりました。

 物語の言葉はあなたを串刺しの滅多刺しにしたので、あなたは死んでしまいました。


「汚いね」

「汚いな」

「醜いね」

「醜いな」


 人々はあなたの標本を見て、そんな風に言い合いました。

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