第48話 リタ、再々登場。

 周りが明るくなったのは、あまりに唐突だった。何の前触れもなく、真っ暗だった空間が急に真っ白になったのだ。

 僕は上半身だけを起こし、屋上から飛び降りた制服姿のままだった。

 一方の明日香は、僕の前に立ち、両手を腰に当てて、僕と目を合わせていた。間の距離は二、三メートルぐらいしかない。

「まだ、立ち上がっていなかったんですね」

「まあ、その、真っ暗だし、立ち上がっても、何かね」

「そうですか」

 明日香は言うなり、僕の方から視線を逸らした。聞きたかったのはそれだけらしい。

 で、急になぜ明るくなったのだろうか。

 僕は立ち上がるなり、周りへ顔を動かした。

「あっ……」

 僕はとあるところで、目が止まった。

 見れば、明日香も揃って、同じことをしていた。

 視界の先には。

 横長の机があり、リタが近くのパイプ椅子に座っていた。なぜか、向かい合うように、別のパイプ椅子が二つある。まるで、面接の場みたいだ。

「リタ?」

「久しぶりだね」

 リタは笑みを浮かべるなり、僕と目を合わせてきた。

 背中まで伸ばした黒髪。端正な顔つきには細い瞳にアイシャドウを施していた。シャツにジャケットを着て、下はミニスカ、足にはニーソ、ヒールを履いた格好。全体は黒で統一されており、かっこいい女といった感じだった。首のネックレスや腕に巻くブレスレットは時折反射し、光っていた。

「あなた、リタっていう死神だったんですね」

「会った時に名乗ったと思うけど」

「あの時は変なウソではぐらかされたと思っただけでしたから」

「そっか。まあ、いきなり、死神と自己紹介しても、信じてくれる人間は限られるよね」

「逆にすぐ信じる人間もどうかと思いますけど」

 僕が突っ込むと、リタは、「そうだね」と口にしつつ、手を差し伸べてくる。いや、空いてるパイプ椅子を示してるようだった。

「とりあえず、二人はそこに座ってもらいたいんだけど」

「断ります」

 明日香はきっぱりと言い切った。

「へえー、断るんだ」

「断って何が悪いんですか」

「君は今の状況をわかってないみたいだね」

 リタは言うなり、机に両肘をつき、明日香の方を睨みつけた。

「今の状況が何だって言うのですか」

「言っとくけど、二人とも、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるんだから」

「瀬戸際ですか」

「うん」

 リタは躊躇せずにうなずく。

「それは、あの世とこの世の狭間だからですか」

「教えたんだね、彼女に」

 気づけば、リタが僕の方へ視線を向けてくる。

「まあ、教えたと言えば、教えたけど……」

「それなら、話が早いかな」

 リタは立ち上がると、僕や明日香の方へ歩み寄ってきた。

「何ですか」

「二人は、それぞれ、今後どうしたいのか決めてもらわないといけないから」

「それは、生きるか死ぬかということですか」

「そう、だね。うん。いわゆる、生か死かっていうことだね」

 リタは答えると、満足感を得たのか、先ほどのパイプ椅子に戻り、座った。

「とりあえず、お互いに座って、話だけでもしたいんだけど」

「だとさ」

「何だか納得いかないですけど、ここは大人しく従った方がよさそうですね」

 明日香は不満げな表情をしつつも、空いているパイプ椅子の方へ向かう。

 僕も遅れて向かい、明日香とともに、リタと向かい合う形で座った。

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