The First Step to Cafe Brown
あ~あ。今日からLindaのコーヒーは一週間おあずけか。
いや、正確には、おあずけではないな。
Lindaのコーヒーマスターが経営しているカフェに行けば、同等かそれ以上のコーヒーが楽しめる。
が、しかし!
初めて行くカフェできょどるかもしれない!というか、安定したきょどりを見せる自信がある!
その上で僕がLindaの知り合いってバレたら、Lindaに合わせる顔がない。
それに、今回はただカフェに行くだけじゃない。
「招待状」を持って、①初対面の人に挨拶し、②新メニューを味見して、③メニューについて意見を述べるという所業を仰せつかっている。
過去には、今回の招待よりも遥かに低いレベルのクエストを攻略できずに終わった苦い経験がある。その時は、「Eddy,お前、随分店の中できょどってたんだって? マスターが危ぶんでたぞ。」なんて事後報告を貰った始末。
同じことが起きたら、絶対に立ち直れない。
「ハァー、本当、どうしよう?」
「......何が、どうしようなの、Eddy? 」
「Whaaa? Bruno! な......何のこと?」
普段交流のないイケメン男子が横からいきなり声をかけてくるとか、心臓にわるいから!
やめて!
「今、どうしようって言ってたじゃない?」
「いや、別に大したことじゃないんだ。心配してくれてありがとう。」
「ふーん? あっ!その招待状!......何でEddyが持ってるの?」
「えっ? コレ?」
「それって、Cafe Brownの招待状だよね? 今日の新メニューの味見パーティーに君は招待されてるんだ?」
もしかして、BrunoはCafe Brownを知ってる? それなら、彼にこの招待状を上げてしまおうか? そうすれば、僕の心配はなくなる......けど、Lindaに何て言おう?
やはり善意で招待状をくれた人に対してウソをつくのは気がひける。
それなら、Brunoも一緒に連れていくのはどうかな?
いや、それは無理だ。
招待状を貰っていない相手を連れて行くなんて非常識、お店側に迷惑になる。
あ――! どうすればいいんだ! Somebody, HELP ME!
「ねぇ、Eddy。もしもなんだけど......もし、まだもう一人連れてく相手を見つけていないなら、僕を招待してくれないかな?」
......エッ??
今、何とおっしゃった?
Brunoがパーティーに招待してほしいって言った??
「ご、ごめん。何だって?」
「だから......僕を一緒にパーティーへ連れって言って欲しいんだ。君も招待状を読んだなら知ってると思うけど、招待された側は一人同伴者を連れて来ていいルールでしょ?」
「(マジで?!)う、うん。そうだったね。分かった、喜んで君を招待するよ。6時にCafe Brownの前で待ち合わせでいい?」
「Yeah! ありがとう! とっても嬉しいよ!それじゃ、6時にCafe Brownの前で待ってるよ!」
奇跡キター!
咄嗟の決定ではあったけど、Brunoなら悪くない人選だ。
彼は会社で見る限り俺より対人スキルは圧倒的に上だし、これから行くカフェのことも知っている感じだ。まだ見ぬ敵地で一人できょどり、無様な姿をさらすかもしれない僕のサポートに少しだけ回ってもらいたい。ていうか、彼と一緒にいれば、他の人と話す確率は減ると思うんだよね。
これで、作戦の目処がついた。
カフェに着いたら適当な頃合いを見て、会社に残した仕事を言い訳にし、帰宅の途につこう。
ここ......だよね?
― Cafe Brown ―
そう表記されてるもんね。
それにしても、これは!
スチームパンクだ!
カッコいい!
どれどれ内装は、どうなってるのかな。
ん?あれは、Bruno!
先にカフェに来てたんだ。
「Eddy! こっち、こっち!」
「Bruno、カフェの中で待ってたんだね。全然気づかなかったよ。」
「うん。1時間前に来てここで仕事をしていたんだ。さぁ、中に入ろうよ。この時間からは、招待状なくしては入れないからね。」
ああ、緊張するな......ぅわぁ――!
まるで異世界!!
どこに焦点を合わせて見ればいいのか困る!
レトロな雰囲気で、未来を感じさせるカフェなんてとてつもなく不思議!
なんて現実離れした空間!
こんなカフェが身近にあるなんて全然知らなかった。
でも何で、既視感を覚えるんだ??
あっそうか!
あの日本の名作アニメ、天空に浮いてるお城のお話しも、スチームパンクが背景にあった!
それでか!
「初めまして、私はHana。招待状を拝見してもよろしいかしら?」
「あ、ハイ。どうぞ。」
Hanaって名前なんだ。花?華?葉菜?
アジア人は若く見られる傾向にあるけど、彼女は僕よりずっと若いに違いない。
和風のスチームパンクファッションがカッコカワイイ。
「あら? 貴方はLindaのお知り合いなのね。それじゃ、Flare Tech Coで働いているのかしら?」
来た!さっそく、Lindaの知り合い認定。
ここから先の失敗は後々のLindaと僕の関係に傷がつく恐れがある。
慎重にきょどらずに対応していかなくちゃ。
「そうです。そこで、Lindaから招待所を貰いました。僕はEddyと言います。」
「よろしく、Eddy。このカフェに来るのは初めてよね? とても、嬉しいわ。是非、楽しんでね。」
「あ、ありがとうございます。」
な、なんだ? Brunoがさっきからこっちを......睨んでる?
「B,Bruno。大丈夫かい?」
「......何が?」
「えと、僕のほうを見てたかな? と思って。」
「気のせいじゃない? それよりも、新作のドリンクを試してみようか? あそこのカウンターで頼めば作ってくれるから。」
気のせいだったのかな? まいっか。
それよりも、今は、新作メニューを味見して、感想を述べるという大役を果たすことに集中しないと。
「そうだね。まずはメニューを見てみたいな。」
Special Coffee Menu
1.cold-brewed iced coffee float – iced coffee with vanilla bean ice cream
2.Café Bombón – espresso with condensed sweet milk
3.Red Eye – espresso mixed with brewed coffee
4.Café con Hielo – espresso with ice
5.Carajillo – espresso with a drop of brandy, whiskey, or rum
おおお! どれも眠気覚ましに良さそうだ。会社の同僚でもBlue Bullみたいなエナジードリンクを飲んでいる人を見かけるけど、あれは、健康にあまりよろしくないと思う。一度だけ味見をしたことがあるけど、たいして美味しいものでもないし。
でも、エスプレッソなら美味しく飲めて、目も覚める......かも!
というより、このドリンクを理由にしてカフェに通い詰めたい!
「Hi,can I take your order?」
「は、はい。1番をお願いします。」
まずは、第一段階の注文。
初めてのお店では大抵ここで失敗する。
人前で話すのに慣れてないし、初対面の相手に緊張するせいだろう、喉が詰まって小声になる。そのせいか、注文したのとは違うドリンクが来たりすることがある。でも、今回は数字を相手に伝えるだけだ。間違えようがない。余裕♪
「Ok1番ね。君とは初対面だよね?」
「は、はい。」
「やっぱり!俺は、お客の名前は覚えられないけれど、お客の顔と彼らが何を飲んだのかは覚えていられるんだ。変だろ?」
「いえ、そんなことは......」
「自己紹介がまだだったね。俺の名前はkei-suke。このカフェのオーナーで皆にはKeiと呼ばれてる。 よろしく。今日は、誰に招待されてきたんだい? もし差し支えなければ教えてもらえるかな?」
「今日は、Lindaから招待状を貰って来ました。」
この人が、Cafe Brownのオーナー?マジか??
一見したら20代前半のようだ。下手したら学生かと思われるような風貌。なのに、包容力や頼もしい感じが体から滲み出てる。
これが、一国一城の主の貫禄というものかな。雇われ社員の僕にはないオーラだ。
「そうなのよ! 彼は、Lindaの知り合いで、同じ会社に勤めてるそうよ!」
わっ! Hana!これはヤバイ!
突如1:1の会話から1:2になってしまった。
コミュニケーション能力が低い僕に1:2は多勢に無勢。とういか、1:1でも上手くやれないのに、どうやって1:2で相手に失礼にならないように会話することができるんだ!
「おいおい、華。だめだろ、許可を得ないで勝手に情報開示しちゃ。」
「だって、Eddyがさっきそう教えてくれたもん。ね、Eddy? 」
「は、はい。さっきHanaにLindaから招待状を貰ってここに来たことを伝えました。」
「そうだったのかい......はい、Eddyお待たせ。ご注文のcold-brewed iced coffee float。こっちの用紙に君が食べたものと飲んだものをチェックして、それぞれに簡単でいいから、感想を書いてもらえると助かるよ。新メニュー追加決定の前にお客様の意見を参考にしたいんだ。」
「分かりました。」
ふー! とりあえずこの場をとっとと立ち去ろう。
そして、最初の難関「初めて行くお店での初注文」をかろうじてでも突破できたことを褒めようではないか。
そんなにきょどってなかったよね?
それにしてもKeiが、Cafe Brownのオーナーか。
童顔に見えるけど、僕よりは年齢は上に違いない!
しかしKeiに比べて、僕の半端ない小物臭。
同い年だったら、僕の男としての格は、底辺をさまよって生き恥晒してるレベルだよ。
待てよ? もしかしたら、今のKeiはCafe Brownに居る間のバージョンで、この世界観を出れば、普通の人になったり?
僕だって、会社ではLindaと話している間は、「上手に人付き合いが出来る男」の仮面を被れたり被れなかったり......
仮面を被れてる時の方が多いハズだけど!
きっと、Keiもそうに違いない!
異世界のようなカフェを支配下に置いてるから、王様のような人格が作られるんだ! うん、そういうことにしとこう!
そういえば、Brunoはどうしてるかな?
「Bruno、君は何を注文したの?」
「僕は2番。Hanaが僕にはこれがいいって言うから。」
「2番?へー、Brunoは甘党なんだ?」
「......うん。ところで、Eddyはこのカフェについてどう思う?」
「すごくいいカフェだね。スチームパンクをテーマにするなんてとてもユニークだし、老若男女問わず入りやすい。選曲もスムースジャズやビッグバンドジャズだから、スポーツバーのように煩くないのも気に入ったよ。」
「......それだけ?」
「そうだね、後はオーナーやHanaもとても気さくで話しやすい。この2人で店を切り盛りしているの?」
「ううん、もう一人。Keiの奥さんのMeiが働いてるよ。」
「へー、Keiは結婚してるんだ。それじゃ、Hanaは2人の......子供? それとも親戚?」
「Hanaのことが気になるの?」
「いや、べ、別に。単なる好奇心だよ。Keiはとても若く見えるから、HanaがKeiの子供だったらKeiは本当に年齢不詳だなって思っただけだよ。」
こ、怖い。
イケメンが無表情って圧迫感あるし、雰囲気が冷たすぎて痛いぐらいだ。
僕、なんの地雷踏んだ?
何だか分からないけど、こういう時はとっとと退散した方がいいのは、経験上身にしみて理解してる。
問題はどうやってこの場を切り抜けるかだ。
今まで人間関係は避けて通って来たから、対人コマンドも「逃げ」の一択しかない。
そんな僕のコマンド状態でBrunoの原因不明のプンスコ状態に対応できるわけがない!
まさか、僕の底辺対人スキルを少し補ってもらえる要員としてBrunoをすこーし利用したくてパーティーに招待したのがバレて、気分を害したとか......
「B,Bru......」
「2人とも、パーティーは楽しんでくれてる?」
「Hana! うん、とっても楽しんでるよ。Eddyも頼んだドリンクが美味しいって喜んでたよ!」
は???
え???
僕、まだBrunoにドリンクの感想は言ってないよね?
いや、確かに美味しいけれども。
「Really? Eddyは何を頼んだの?」
「ぼ、僕は......アイスクリームがのっかてる......あの、えと......」
「ああ!1番ね。アイスコーヒーの少しの苦みとバニラアイスの甘さがいいのよね。私はアイスコーヒーを飲み終わった後の最後のアイスクリームが一番好き!あとね、あのドリンクには炭酸水も入ってるのよ。シュワってしたでしょ?このメニューは私が考案したの! どう思う、Eddy?」
「あっ......」
「Hanaが考えたメニューだったの? ズルイな! 知ってたら、僕だって1番を味見したよ!」
「それじゃ、Brunoも1番を試してみる? でもかなり、甘いわよ?」
「Hanaが作ってくれるなら、残さず飲むし、しっかりとアンケートにも答えるけど?」
「コンデンスミルクを味わった後でもデザートコーヒーを楽しめるなんて、さすが甘党のBrunoね。それじゃ、ご希望にお応えして作りますか!」
「うん! よろしくね!Hana!」
な、なんなんだ?
Hanaに対する態度と僕に対する態度が全然違う。
Brunoの怒りポイントとニコニコポイントが全く分からない。
......待てよ?
Brunoの態度に関してはどこかで違和感を感じたはずだ。どこだったけ?
あっ そうだ!
Hanaに招待状を渡した時だ。あの時、確かにBrunoの鋭い視線を感じた。
後は、僕が好奇心でKeiとHanaの関係について質問した時。
その時に、Brunoが僕に、Hanaのことが気になるのかどうか聞いてきたんだ。
それって、僕がHanaに恋愛感情があるかどうか確認してきたってこと?
それってつまり、端的に言えば、BrunoはHanaが好きって意味だよね。
それが何だってんだ!!
仮にBrunoがHanaを好きだったとしても、僕に対してあんなに冷たい態度をとる意味がわからない。それに、僕は、Brunoが来たかったパーティーにも招待したんだ!
彼に感謝されこそすれ、怒られるようなことはしてないハズ!
ハァー。
考えても無駄だな。これは、そうそうにパーティーを退散した方がいいかも。
これ以上、Brunoを怒らせたくはない。
さっさとアンケート用紙に感想を書き込もう。
飲んだドリンクに〇を付けて、感想を書けばいいんだ。
僕が飲んだのは1番だから、一番に〇をつけて。
①.cold-brewed iced coffee float – iced coffee with vanilla bean ice cream
【アイスコーヒーに炭酸を入れたものを飲んだのは初めてです。バニラアイスの甘さと、炭酸の爽やかさ、そして水で濾したコーヒーのまろやかさが上手にマッチした上品なドリンクでとても飲みやすかった。季節を問わずに楽しんで飲めるドリンクだと思います。なんとなく、日本に行った時に飲んだ、メロンソーダを思い出しました。】
よし。
これで役割は果たした。
帰る言い訳は事前に準備した通り、会社に残した仕事を終わらせるためにお暇しますと言えば、ばっちりなハズ。
それに、僕がいない方がBrunoもゆっくりパーティーを楽しめるだろうしね。
「H,Hana,コレ、アンケート用紙なんだけど。」
「ん? ありがとう! っていうか、もう帰っちゃうの?」
そうなんです。ごめんなさい。
Brunoが怖いんです。
「うん。実は会社にやり残してきた仕事があるんだ。それを今夜中に終わらせないといけなくてね。ごめんね、せっかく招待してくれたのに。」
「ううん、そんなことないよ。仕事は大事だよ。」
どうしよう......真っ直ぐ家に帰る気分でもないし、少し会社によって本当に仕事してこようかな。
うん。そうしよう。
そうなると眠気覚ましに3番のコーヒーも試しておきたかったな。
「本当はドリンクメニューの3番も試してみたかったんだけど。」
「3番? Red Eye?』
「うん、眠気覚ましになるかもと思ってね。たびたび徹夜するから。」
「なるほど!エスプレッソにドリップコーヒーだからね。効く人には効くよ!」
「帰る前に試してみない? 感想は後日でいいからさ! ちょっと待ってて、すぐ作るから!」
ふふふ。
Hanaはもしかしたら、「Noと相手に言わせない日本人」 かもしれないな。
うあぁぁ。視界に入るBrunoの視線が痛いんですけど。
彼のアイビームからは逃れられない、けど、背中で痛手を受けることは出来る!
「はい、おまちどうさま!」
「頂きます。」
「思ってたより苦くないや。」
「うん、Red Eyeに使うエスプレッソは1ショットだけ。これが2ショットになるとBlack Eyeで、3ショットになるとDead Eyeって呼ばれるんだよ。エスプレッソを入れる量で名前が変わるなんて面白いと思わない?」
「本当だね。どうしても眠い時は、僕の最後の切り札としてDead Eyeを注文することにするよ。」
「それがいいわね。あと、これサンドイッチ。夜食としてどうぞ。今日のサンプル料理だから遠慮しないで食べてね。」
「あ、ありがとう。とても助かるよ。疲れて家に帰って料理するなんて気にはなれないから。あの、Hana, 悪いんだけど、Brunoには僕が先に帰ることを伝えてくれるかな?」
「構わないわよ。Have a good evening!」
Mission accomplished!!
半端ない達成感を感じる!
仕事でもこれほどの達成感はそうそうない!
しかし、今日は、当初の僕の予想とは全然違ってたな。
カフェでの人付き合いでの目立つ失敗はなかったけど、心配しなくてもいいと思っていたBrunoを怒らせてしまった。
本当、人間関係は僕には難しすぎる。
今日の招待が週末で良かった。
とりあえず2日間、Brunoと会社で顔を合わせずにすむ。
もともと、彼とはあまり話すことはなかったわけで、確かに今日は怒らせてはしまったようだけど、今日のことは週末を使って僕なりにリセットしよう。
それで会社では、向こうから話しかけてくるまで、僕のほうからは何もしないでおこう。
Eddy and Cafe Brown @Nicky29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Eddy and Cafe Brownの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます