How not to accept the invitation

 ハァ......

 コーヒー、飲みたい。

 さすがに三日間完徹は心身ともに堪えるな~。 

 寝不足過ぎて、まるでお酒で酔っぱらったような不快感。

 これからは会社に寝泊まりする回数をもっと減らすようにしていかないと、この先体がもたないよな。

 

 ......


 あれ? いい加減、カフェテリアについても良くない? 

 延々と階段をただ降りてる気がするんだけど?


 「Good Morning、Eddy。死んだ魚のような眼をしているけど、大丈夫かい?」

 「G、Good Morning、Vince。丁度いま、死んだ魚になりたいと考えていたところだよ。」

 「ははは。君に死なれたら、僕が困るよ。Lindaの美味しいコーヒーでも飲んで、元気をだしてくれ。See you later。」

 「Thanks, see you later。」


 ――ッハァー、びっくりした。マジで、びっくりした。

 Vinceは気さくで話しやすい上司だけど、こんなに疲れている時に話しかてもらいたい相手ではない。

 ......ちゃんと、挨拶できてたかな? 

 寝不足の頭じゃろくなことも考えられない。

 Vince、寝不足の時の背後からの不意打ちは、頼むからやめて下さい。

 まーでも、今の緊張感で少し気分がシャキッとしたし、カフェテリアにも無事に着いたから良しとするか。


 「Eddy, Good Morning! いつものコーヒーとドーナツでいいのかい?」

 「Good Morning、Linda。うん、いつものでお願いするよ。」

 「Ok, それにしてもあんた、今日で三日も会社に寝泊まりして、体は大丈夫なの?」

 「大丈夫とは言い難いけど、給料分の仕事はしていると思うよ。」

 「そうかい? 私の眼には、給料分以上の仕事をしているように見えるけどね。いつも多めにチップを置いて行ってくれるだろ? ありがとね。」

 「Lindaの作るコーヒーは本当に美味しいからね。自然とチップもはずむんだよ。」

 

 ふっふっふ。

 朝のLindaとの子気味良い会話も3日目だな。

 こうしてLindaと話していると「上手に人付き合いが出来る男」って感じで気分が良い。

 この社内でLindaのような軽口で話かけてきてくれる同僚はほとんどいないからね。

 あー、上司のVinceは別。彼は誰にでもああだから。

 ほんと、会社の同僚との会話なんて業務報告ぐらいしか思いつかないし、それさえもメイルでのやり取りがほとんどだもんな。

 相手からの気遣いを感じる温かい会話なんて、さっきのLindaとの楽しい軽口で今日は最後だと簡単に予想できるくらいに、僕の会社での人間関係は希薄だ。


 と、そんな残念な思考に陥っている間に、コーヒーとドーナツが差し出された。


 「はいよ、Eddy。お待たせ。それとね、明日から1週間休暇を取って娘夫婦のところへ遊びに行くんだ。悪いけど、私がつくるコーヒーはしばらくは飲めなくなるよ。でも、安心して。この招待状が示す場所に行けば、とっても味わい深いコーヒーが楽しめるよ。実は、私のコーヒーはそこで教わったんだ。私がここにいない間はそっちでコーヒーを飲むといいよ。」


 「招待状?」


 「ああ、カフェの新メニュー候補を味見してくれる人を招待しているんだ。美味しい料理やコーヒーが沢山出るって話だよ。どうせ、ロクでもないモノを毎日食べてるんだろ? たまには美味しくて栄養のあるものを食べてきたらどうだい?」

 

 ......Lindaは優しい。

 当然のように、彼女がいなくなる間の僕のコーヒー事情だけでなく、栄養面も心配してくれる。

 でもね、Linda。ここに通う大きな理由は君のコーヒーだけじゃないんだよ。


 「ありがとう、でも、僕はLindaのコーヒーだけでなく、こうやって君と楽しく話せるサービスが料金に含まれているからここに来るんだよ。このカフェでもLindaのように会話上手な人がいるのかな?」

 

 よし! 

 僕の数少ない会話スキルを手繰り寄せて作った秘儀「やんわりNOと言えるアメリカ人」が絶妙なタイミングで発動した。

 この技の凄いところは、Noと言わなくちゃいけない相手を最初に褒めることにより、相手にとってNoを受け取りやすくするところだ。

 この場合もNoと言われるLindaに対して、「君ほど会話上手な人が居るカフェ何てそうそういないよ」と最初に褒める。そしてLinda の口から気分よく「そりゃEddy, 無理な話だよ。ウフフ」と言えるように誘い出す。そして最後に僕のこのセリフ、「それじゃ今回は辞退させてもらおうかな(YES!) 」をスムースに言えて終われるのが僕の第一希望の展開。

 しかし、事はそんな簡単にはいかないだろう。

 今のは理想の展開ではあるが、現実味のある展開ではない。

 僕の真の狙いは、Lindaが口を濁す一瞬だ。

 「Lindaのように会話上手な人がいるのかな?」の疑問で根が正直な彼女は一瞬考察した後、正直な反応を示すに違いない。実際、彼女のように上手な話し好きはそうそういない。

 「言葉に詰まる」一瞬があれば、すかさず僕は「NO! 」を繰り出し招待を丁重にお断りだ!

 そうして、「上手に人付き合いを壊す男」になる危険性がある招待は辞退しつつ、君が一週間後に職場復帰するのを待つことにするよ!!

 ありがとう、これでも君の親切には感謝してるんだよ。


 「あははは!もちろん! カフェでの楽しい時間を望むなら、それこそあの家族に会ったほうがいいね。Eddyなら、絶対気が合うと思うよ。何だったら、コーヒーをかけてもいいよ。そうだね......1ヶ月分!」

 

 ......ん?

 なんか、Lindaさんは僕とカフェの店員さんたちとは絶対に気が合うと思ってる? 

 秘儀「やんわりNOと言えるアメリカ人」は、はずしたっぽい? 

 こうなると、賭けに「No、thank you! 」とかはっきり言っちゃうのって、空気読めてない感じもろ出しの上に、場の雰囲気を糞囲気にしてぶち壊すダメな男になる流れ?

 そうなると、予想とは大分違う方向へ進むことになる恐れが...... 

 こうなったら、僕のコミュニケーションスキルの低さを利用して、ここは、空気読めませんでした的な反応を使うしかない。なので、対応・大人スキル発動を今回は諸事情により見合わせます。


 「1ヶ月分のLindaの美味しいコーヒーがタダか......それは魅力的な賭けだね。いいよ。のった。」


 何をとちくるってる!!

 「魅力的な賭けだね。(フッ)」 

 馬鹿か! 身の程を知れ!

 社内ボッチdeポツーン代表の僕が、Lindaの知り合いが経営しているカフェに招待されて、オロオロ挙動不審な態度をとらないわけがない! 過去の笑えない失敗の数々を思い出せ。僕の失敗がLindaの顔に泥を塗ることになるんだぞ!


 寝不足で気分が最悪だったのが原因なのか、唯一「上手に人付き合いが出来る男」を演じれる場所で大失態を演じ、「上手にカッコつけて、痛い目を見る男」に格下げとなる、苦いコーヒーのような朝を味わうことになった。


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