第2話
ギリギリと合成皮革が僕の首へめり込む。血が滞留し頭が熱せられていくのが分かる。
二人は目を見開いて僕の様子を覗き込んでいる。実に楽しそうだ。
僕の足元がちょうど奴の鳩尾辺りまで持ち上がっているのにも気づかないほどに。
「ウグッ……ッ!!」
僕は首輪を締めている方を思い切り蹴り飛ばした。
面白いくらいすんなり飛び上がった少年の体は、反対側の壁に激突した。
蹴った部位がえげつない。相当キツイはずだ。腹を抱えて丸くなって震えている。声も出ないのだろう。
すぐにもう一人を確認する。これで多少怯んでくれることを期待した。
彼は相棒の無様な姿をちらと横目に入れただけですぐにこっちへ向き直った。
「凶暴なワンちゃんだなあ。ちょっとふざけただけだよ」
首をブンブン振ると首輪が膝に落ちた。また締められてたまるか!
僕はありったけの力で机を持ち上げ、奴の方向へ捻り倒した。
奴はなんとか避けたようだが、僕と上階へ続く階段は奴から見て机の向こうだ。
急いで四肢の拘束を解かなければならない。
踵を揃え、一気にしゃがみ込む。尻を揃えた踵に打つけるイメージだ。
それなりの筋肉があればこれでテープが裂ける。
体の前に両腕をもっていき、同じ要領で手首を胸に打ち付ける。
その間、蹴り飛ばしたやつはそのまま震えているし、もう一人はじっとこっちを観察している。
やっと四肢が自由になった僕はもうこいつらにかまってはいられない。
どうなろうともここはとにかく階段を駆け上がるのみだ。
「せっかく帰ってきたんだから、もっと遊ぼうよ、ゲンマ君」
ずいぶん落ち着いた、抑揚のない声が僕の後ろに響いている。
案の定、地下扉には鍵が掛かっていた。もちろん内側からだ。でなければ奴らも出られない。
そんなことだろうと思ったよ。
やつはじっと動かない。ドカッと階段に腰掛けた僕を見据えている。
「お前達、何がしたいんだ」
「ゲンマ君ともっと一緒にいたいだけだよ。久しぶりに会ったんだから」
階段は上まで来ると地下の部屋がよく見えない。やつがゆっくりと階段に近づいてくる気配だけがする。
「二人で遊んでろよ。僕はもう大人だ。忙しいんだよ」
「……………」
「……アビーだって、僕と同じだ」
アビーのことはものすごく不本意だ。この家にいるべきではない。本当はこの二人と一緒にいてはいけない。
もっと安全で、普通で、落ち着いた場所で療養するべきだ。少なくとも二人に見つからない場所で。
しかし彼女はそれを望まない。どこへ逃がしても結局は3人一緒になってしまう。
今ならわかる。アビーを二人から離すんじゃない。
二人をアビーから引き剥がす。永遠に。
僕はその為に帰ってきた。
「ゲンマ君には どうにも出来ないことだよ」
やつの足が階下に現れる。続いて白く細長い指。
じわじわと這い上がってくる。僕の胸の上まで。
「これからまた みんな一緒だね」
僕の背中に腕を回す奴の姿は、少年から僕と同じくらいの年頃の女性へと変わっていた。
程なくして、僕の脱出は自力では成し得ず、僕を監禁した当人の手によって成された。
ただし解放されてはいない。
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