終演の記述

べるせるくん

前奏

 最近は、よく眠くなってしまう事が多くて、やはり自分も歳をとってしまったか、とうんざりしてしまう。


 起きては眠り、仕事をして食事をして。そんな毎日を送っていたら何時の間にか普通ならとっくにおじさん、又はおじいさんと呼ばれる程の歳まで老いぼれてしまった。


 しかしまぁ別にその人生が嫌いだった訳でも無い。寧ろよくこの年まで生きていたもんだ、と自分を褒めても良い。


 だからといって大好きだったかと言われたら否、と答えるしかあるまい。


 何故かという問に対してはこう答えるべきだろうか。


「こんな所で生きてたって正直何の価値も有りませんが、死んだら自由に出来ませんからね」


 と、飄々と礼儀正しく。





 此処は地球。地上はある小さな一国の暴走により滅びた。今地上にある物と言えば焼け野原とそこに闊歩する魂の無い醜い人間位だろう。


 今の意識を持つ人間共は基本皆火星へ逃げていった。空気を作り出し、植物、水も作って、大気すらも構築したらしい。


 何より人間自体が減り、更に火星へ向かうロケットの収容人数も限られていた。その為、強制的に残ってしまう者が居た。しかし人間は今地上で生きていくことは不可能。


 彼等は地下を活動の拠点にした。火星へ向かった者達よりは脆弱な存在だと自身では分かっていても、それでも彼等は努力をし続けた。


 そうして数十年が経ち、彼等は地下空洞『インディルクス』を構築するまでに至った。


 しかしその頃であった。


 突如、そう、突如である。インディルクスは崩壊した。


 崩壊した、と言うのは表現の一つである。正確に述べるとすると此処から更に長い時間をかけて話さなければならない。


 まぁとにかく、崩壊したインディルクスには、多数の怪物が蔓延った。


 怪物は皆異様な見た目だった。まるで全てが鉄で出来た様な、魂が無い機械のような。そんな雰囲気を持っていた。


 今では奴らを『薇仕掛け(ぜんまいじかけ)』と呼ぶ様になり、更にその中には人間は存在せず、唯大量の鉄屑が組み合わさっている、という事が確認されていた。


 どうやら薇仕掛けは皆我々原住民ーーそう呼ぶのはやぶさかでは無いがーーを敵と見なし攻撃を仕掛けて来る。


 その意思は全く感じはしなかったが。殺し、死体を何処かへと連れ去っていく。唯それだった。


 我々はそれに対抗する手段は無かった。


 其処から更に時が経ち、我々は力を、奴らを叩きのめす力を、見つける事が出来た。


 ーーがしかし、其の時既に遅し。我々の数は減少の一途を辿っていたのだった。


 それでも我々は屈しなかった。その生命を奴らへと叩き込む為に生まれた1人の人間。それが今の自分、加佐村・クィル・孝明だった。


 ……と、言えるのも一、二十年前の話。もう爺と言える自分に、そんな事を言える訳もない。


 と、考えるのも良いのだが、がしかし、もう人間が本当に数少ない。この地下空洞のサイズは万人単位で収容可能な空間であるにも関わらず、奴らの侵攻のせいでこの空間に存在する人間は既に一千人いるかいないか、そんな程度。


 我々は、ほぼ敗北した。まだ負けてはいないが、それでも敗北は目に見えている。


 我々の人数に対し奴らの数は三、四万。しかも奴らは皆我々と単体で対峙した場合百パーセント勝ってしまう。


 そんなのとどう戦え、と。


 その為の自分なのだろうが、自分では簡単には奴らを倒せない。大きな溜息がついこぼれ出てしまう。


 すると、後ろから声が聞こえた。


「おや?ボス、どうしたんスか?そんっな大きな溜息……恋煩いですかね?へへっ」


「……ルコトラ。私が恋をすると思いますか?考え事です、お気になさらずに」


 彼の名はルコトラ。数年前に出逢った……所謂ピクシー、である。彼はピクシーには珍しい男性で、それが原因で仲間に虐げたれた為、『こちら』へやってきたそう。


「へいへーい。了解、ボス」


 ボス、は彼が自分を呼ぶ時の名である。


 歳は不明だが、長い付き合いなのに容姿の変化が無い為、長生きなのは間違いないだろう。


 ふよふよと自分の横を通り過ぎていくルコトラ。しかし数秒するとピタリと停止した。


「ボス。います」


 彼の固有能力、探知。彼の半径三十メートルメートルの中に入った薇仕掛けの場所を知らせてくれる。


 実に有難い能力だ。お陰で安全性がグッと上がっている。


「有難うございます、ルコトラ。さてと。お仕事の時間ですね。……顕現」


 両手をバッと広げ、其処から光が溢れてくる。その光は辺りが見えなくなるまで強くなり、自分自身も見えなくなる程。


 光は消え、手には何かが握られていた。

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終演の記述 べるせるくん @belselk_6663

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