7.
野球の話はすぐに終わってしまった。西口はこの街に来て10カ月という。だからあまり三笠高校に思い入れはないのだそうだ。
「故郷はどこなんだ?」
「新潟です」
「お米が美味しい?」そんな程度の知識しか私にはない。
「そうです」
「……」
7分くらい黙った後、西口が話しかけてきた。
「新潟での父の事業がうまくいかなくて」
「話したくなければ話さなくていい」
「いえ……別に。佃煮とかの会社だったんですけれど、色々あって。新潟にはいられなくなった」
「家族は……」
「もう連絡が取れる人は皆死にました。兄は大陸で傭兵をしています」
西口が身を屈めるような絹ずれの音を出した。
そして私にまた、ぽつり、ぽつりと、話しかけて来る。
「石井さんは家族は?」
「妻がいるよ。子供は二人。兄が小学6年生で、妹は4年生。上は来年中学生だ」
「はは、いいですね。あ、私のことは気にしないで。写真ありますか?」
私はゴーグルを操作して、写真データのフォルダを開く。家族のところを出して、西口のゴーグルと共有する。福知山や諏訪湖に行った写真や、運動会や学習発表会、お祭りなどの写真。西口はほほ笑むような顔つきでじっと見ていた。
「懐かしい。昔、家族がまだそろって楽しかった時期を思い出しました」
「あまり見せない方が良かったと感じている」
「そんなこと、ないですよ。……全然」
西口に対して色々尋ねてもよさそうだとだんだんわかってきた。話を加える。とにかく暇を潰れせばよい。
「いつまで三笠にいる予定だったんだ?」
「未定です。とにかく生活しなきゃらなかった。夜のお仕事でも良かったんですけれど、前、ちょっとつらいことがあって。同じようなお給料なら新しいことやってもいいかなって」
「結構厳しいだろ」
「まぁ、どこもこんな感じだと思います。ただ……やはり慣れませんね」
「10か月もいればそうでもないだろ」
「仕事はまぁ、慣れました。けれど、ここは電力で心身を固定するから……」
「労働を楽にするためのシステムだ」
「そうですが、それ、慣れません」
雌伏1日目が過ぎた。
ケアマシンなしでも、次第に闇に慣れてきた。初めて電力の補助なしで眠りに就いた。
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