4-3
× × ×
長机の上には紅茶が三つ。
伏原くんが落ちついてきたところで「新しい皮モノ」の話をしてみると、彼はカバンからせんべいの袋を取り出してきた。
せんべいなんて紅茶には合わない。むしろお茶に付けるものだ。
「どうしてせんべいを?」
「チョコレートの代わりですよ」
伏原くんは続けて紙コップを出してくる。それらは僕と仲田さんに手渡された。
中には三枚のおせんべい。
どうやら今回も投票制にするつもりらしい。最も秀でたアイデアを出した者に王者の称号が与えられるのだ。今回なら皮モノだから『スキン・オブ・ヘッド』といったところか。いらないなあ。
「チョコは溶けやすいですからね……では、小生から参りましょうか」
「今伝えたばかりなのに、もうアイデアを考えたのかい?」
仲田さんはビックリしていた。
たしかにお題を受けてからアイデアにするのが早すぎるような。まさか伏原くんにも何かしらの才能があるのだろうか。密かに五郎さんの画力を羨んでいた身としては、何ともアンニュイな気分にさせられる。
「アイデアというより、小生が常日頃から考えていたことになりますが」
「そうか。ふふふ。ボクの弟子ながら明佳はスケベだねえ」
「TSF好きなんてみんなスケベですよ」
伏原くんは立ち上がり、「間違いなく女性を手に入れるというジャンルなのですから、それをどう扱おうか妄想をふくらませている小生たちは絶対的にスケベなんです」と言ってのけ、なぜか仲田さんをにらみつける。
対して仲田さんも立ち上がって、化粧まみれの両目を伏原くんに向けた。
どうしよう、僕だけはスケベではないと反論するつもりだったのに、二人がにらみあっているせいで口を挟めそうにない。
というか、そもそも二人の力関係がわからない。
僕の知らない過去があるわけだから当たり前といえばそうだけど、さっきはずいぶんと怖がっているようだったのに、今はこんな対峙めいた感じになっていて……二人とも背が低いから子供のケンカみたいに見えてくる(ごめんなさい)。
「なにかな、明佳?」
「……ともあれ、小生からアイデアをお出ししましょう。まずはこの写真をお二人でご覧いただけますか」
ふぅと一息ついて、伏原くんはスマホを見せてきた。
そこには肌色の布みたいなものが表示されており、僕は鶏モモ肉の皮を思い起こす。あれ脂っぽいから苦手なんだよね。
「これは人間の皮です。ググればすぐに出てきます」
「ええ、うえええっ!」
本日二度目の吐き気!
仲田さんも「これはちょっと」と顔をしかめている。
「ですよね。お二人の反応が皮モノのえげつなさを如実に示しています。いくら二次元でデフォルメされても本質的にはコレのやりとりなんです」
伏原くんは「そこで」と指をふりふりした。
皮モノが抱いているえげつなさを払拭するための秘策でもあるのだろうか。僕は少しドキドキしながら彼を見守る。
「――あえて実写ドラマにしてしまいましょう」
「え、実写?」
そのアイデアに僕は少しビックリさせられた。
だって、あの写真を見てしまった後なのだ。あんなのをテレビで流すなんてBPOが発狂してしまいかねない。
だが、伏原くんの表情は真剣そのものだった。
「はい。実写です。センパイには以前『王女と王女』のお話をしましたよね。あれは女装モノだからキツい作品になってしまいました。ところが皮モノならどうでしょう?」
「もっとキツくなるんじゃ……」
「逆です。今はCGがありますからね。例えば、こんな演出もできます」
彼はこちらに回ってくると、指先で僕の背中をすすっとなぞってきた。シャツの上からとはいえ、こそばゆいので笑ってしまいそうになる。
でもやりたいことはわかった。他人の背中に穴を穿って入り込む。皮モノにおける常套手段だ。例を出すならファスナーのつまみを特殊な道具にしたりする。あれを背中に当てることで他人の背中にファスナーができるという仕組みだ。
あとは開けるだけで安全に中に入ることができる。自分でもよくわからないことを言っている自覚はあるけど、皮モノとはそんな歪な世界なのだ。
「まあ、小生はセンパイの中には入りたくないですね……」
「そりゃ僕は女の子じゃないからね」
「いえ。だいたい皮にされるとその人は死んでしまうので」
僕の背中から温かい指の感触が失われる。
伏原くんは自分の席に戻ると「というわけで実写作品ならマイルドに皮モノを描けます」と続きを話し始めた。
「なぜなら俳優は自分を殺せないからです。ところがアニメは絵なのでキャラから生気を失わせることができます。あるいは意図していなくてもそう感じられる時があります。良くも悪くもデフォルメしてますからね」
「……つまるところ、元気な俳優の背中にCGでファスナーを付けるという形式ならば、リアルな人皮を描かずに済むし、なおかつ視覚的に死を感じさせることもないと?」
「そういうことになります、仲田センパイ」
「イメチュア! この青二才が!」
ピエロさんは机を叩いた。ちょいちょい外国語を挟んでくるのは何なのかな。自然に出てくるのかキャラ作りなのか。
いずれにせよ伏原くんは完全に委縮してしまっていた。
しかし、すぐにも気を取りなおして、五学年上の大先輩に立ち向かってみせる。
「いったい小生のどこが青二才なんですか!」
「お前は何もわかってない。覚えていないのかい、あの『アニとイモウトの七日間』を!」
「それはテレビドラマの……けっこう出来が良かった作品です!」
うん。伏原くんの言うとおり良いドラマだった。
ひょんなことから入れ替わってしまった兄(課長)と妹(女子高生)のドタバタを描いた作品で、一般向けながらお約束を踏んでいて上手く作られていた。
あれと『転校生』くらいじゃないだろうか。家族と楽しめるTSモノって。
「ああ。出来が良かったとも。楽しかったとも。だからこそ余計に悲しみが募ったんだよ。ボクは三次元に可能性を見いだせなくなった……」
仲田さんは頭を抱える。ダークなピエロなのでモノクロの帽子を被っており、今は両手で抑えられていた。
そして、その手が左右に跳ね除けられた時、「なぜなら、所詮は女優が男を演じているだけだから!」との絶叫が飛び出してくる。
これには伏原くんも言い返せないようだった。
たしかにいくらビジュアルをCGでごまかせても、この一点だけはどうにもならない。ドラマ自体をウソだと信じたくないわけではなく、それとは別のところで本能的にウソを感じてしまうのだ。
どうせ三次元では入れ替わりなんてありえないから……みたいな。せっかくの名作でもこれがあるだけで半分くらいしか楽しめなかったりする。
何ならスタッフ側が「撮影中は本当に入れ替わってました!」と優しいウソをついてくれたほうがありがたいくらいだ。妄想の捗り方がまるで変わってくる。
「くうっ。小生ともあろう者が一生の不覚でした……」
「わかってくれたかい。あとさ、ボクが欲しいのは小説のネタであってだね、メディアがどうこうの話ではなかったつもりだよ」
「そのセコい考えをセンパイにバラすための実写アイデアでしたのに、こんな形で恥をかかされるだなんて!」
「……明佳、あとでちょっと二人で話し合おう」
ションボリしている伏原くんと、ちょっと怒り気味のピエロさん。
そういえば仲田さんは小説家を目指しているんだっけ。初めて会った時にも出版社にウケるアイデアが欲しいとか言っていたような。新人賞を狙っているのかな。
となると、皮モノ以前にTSモノとして一般受けする内容を作らないといけない。
伏原くんのコップにせんべいを一枚入れておき、改めて僕はアイデアを練ってみることにする。
× × ×
二番手の仲田さんは今考えている小説のプロットを発表してくれた。
なんでも皮モノであることを大前提として、そこに今の流行を取り入れてみたらしい。
タイトルは『異世界に行ったらカンタンにハーレムを作れるチートを手に入れた。ただしみんな虚ろな目をしている。だから食堂を経営することにした』とのこと。さすがに長すぎる気もするけど、一部にウケそうではあった。
「ボクとしては、今の流行は酷い目に遭っている人を救済することにあると思うんだ」
「それってどんな話でもそうですよ」
紅茶を飲んで、すっかり立ち直った伏原くんがツッコミを入れる。
彼の言うとおり、ラブコメでもSFでも困っている人を助けるのはお約束だ。むしろ困っている人がいないと起伏のある話にならない。
対して、仲田さんは「いやいや」と失笑してみせた。
「わかってないね。ここで救済されるのは主人公のことだよ。今の流行はハードラックのせいで苦労している主人公を、新しい土地で輝かせること。ひいては自分を不遇だと感じている読者の心をつかむことができるのさ」
ピエロ姿の彼はサラサラとメモをとる。
そこには「主人公:孤児で様々な家をたらいまわしにされてきた。生まれてからずっといじめられており、小学校から不登校」「何の能力もない上に性格も良くないので誰からも愛されたことがない」「勉強もできないしゲームも下手くそ」と書かれていた。酷すぎる。
そんな主人公が、今の世界ではないところに行くことになり、さらにはチートと呼ばれる力を手に入れることになる。
「この子は触れた相手を皮にすることができるんだ」
仲田さんによると、主人公はこの力を利用して、近くの村に住んでいた娘になりすまし、さらにその姿でそこらじゅうの美女たちに近づいていくらしい。
こうして作られていった皮には中に入れるだけでなく、ロウソクを入れることで、その火がついている間だけ奴隷になるという特長もあるそうで、主人公はそれを利用して皮たちをウェイトレスとした食堂を経営することになる。
夜にはもちろん主人公のためだけのハーレムが築かれる。彼女たちは虚ろな目で主人公のためにアレコレする。中身がロウソクなので子供はできないそうだ。ちんちん、やけどしないのかな。
うーん。ダークな話ではあるものの読者としての妄想は広がる。どちらかといえば、天狗になっていた主人公が女性の姿のままアレコレされてしまう方向になってしまうけど。さらには妊娠して一児の母となるパターンだ。
こうして考えてみると「TS好きは潜在的にマゾなのでは?」という指摘もあながち全否定できないかもしれない。自分はそうではないと信じているけどね。
「これってラストはどうなるんですか?」
伏原くんから仲田さんに質問が飛ぶ。
「ハーレムを作って終わりだよ。そこが目的地なんだから」
「そうですか。小生としてはここからの転落を読みたいところですけど……救済するのが流行っているのなら、変に落とさない方が良いのでしょうね」
モサモサと犬のような毛をかき混ぜながら、彼は納得を吐息で示した。
その一方で、何やら意味ありげな目を向けてきたので、僕がウィンクを返してみると、彼からは「うん」との呟きがもたらされた。お互いに思うところがあるという共通見解を形成できた気がする。
もちろん、僕たちに新しいアイデアを求めていることからもわかるとおり、仲田さんも今のプロットに満足しているわけではないようだ。
「それでボクが訊きたいのは、これに何を加えるべきなのかってことでね」
「小生としては村娘の姿をしたまま、どこかの男と結ばれてほしいところですね。主人公は女として、母としての悦びを知ることになります」
「そんなのニッチすぎて出版社にはウケないよ。さすがに」
「小生なら5回は読み返しますけど」
「……小山内くんは何かあるの?」
仲田さんは片目をつぶり、すがるように手を合わせてくる。
上級生にそこまでされると「伏原くんと同じことを考えていました」とは答えづらい。そもそも口に出したくない。
かくなる上は――強引に僕の番まで回してしまおう。
「あの。僕のアイデアでも良いですか」
「かまわないよ。とにかくウケるネタが欲しいんだ。ぶっちゃけ皮モノでなくてもいいかもしれない」
元も子もないことを言い始めたピエロさんはともかく。
許可を得られたのだから、僕の中に気合が入っているうちに発表してしまうとする。
「僕が考えたのは『日常系の皮モノ』です」
「日常系って……女の子が楽しそうにしている奴だよね。きゃんぱすーみたいな」
「はい。そこに皮モノのエッセンスを加えてみるのはいかがでしょう」
こちらの提案に仲田さんは考え込む。
ちなみに彼が挙げた「きゃんぱすー」とは田舎の女子大生たちがのんびりするアニメのかけ声みたいなものだ。タイトルは『ねんねんさぼり』だったような。
あんな感じの世界に皮モノのエッセンスを加え入れたらどうなるのか。
「……その女の子たちは脱皮するんです。お互いの脱いだ皮を着ることで入れ替わったりできます」
漠然としていたアイデアを大きくさせたのは伏原くんだった。
彼は机の上にケシゴムを並べて、それらのカバーをとっかえひっかえしてみせる。
「おおっ。明佳にしては良い感じ!」
仲田さんがそのアイデアを褒めた。たしかにちょっとしたギミックとしては面白いかもしれない。皮を用いて入れ替わることで女の子たちのセキララな気持ちを描けそうだ。
「ところが、このグループに謎の人物が入り込んできます」
「へ?」
しかし、どういうわけか話の雲行きが怪しくなってくる。事件が起きないと起伏のある話にならないわけだが、日常系においては本来起伏なんて必要ないはずなのに。
「この男が入り込んでくることでグループは疑心暗鬼に陥ります。いったいどの子がニセモノなのか。謎が謎を呼ぶ中でついには死者まで出てしまい……」
「いやいやいや。さすがに死人まで出たら、もうサスペンスだから!」
仲田さんは「ボク的には女の子たちが入れ替わるだけで十分だよ」と言って、スマホにプロットを打ち込み始める。
その台詞に伏原くんが反応しないはずがなく。
「でも、それだとTSFにならないじゃないですか」
「だったら一人だけ男の娘にしちゃおう」
仲田さんはケシゴムの一つに折れたシャー芯を刺した。この芯が何のメタファーなのかはさておき、それならばTSとしては成り立つ。
けれども、キャラ設定にもよるけど、元から女の子に近いとなると、あんまりTSの旨みを出せないような。他の女の子たちがその子になることが拒否されづらいだろうから、日常系としては「賢い判断」なのかもしれないけど。
でもなあ……せっかく同志が作るのなら、よりTSらしい話にしてほしいと考えてしまう。
これはきっと僕のワガママなんだろう。
「……やはり仲田センパイとは分かり合えませんね」
ポソッと呟かれたのが、僕の耳まで届いた。
やはりというのはいったい――いや。何も知らない身で邪推するのはやめておこう。
ともあれ、仲田さんの求めには応えられた。
ピエロらしく手袋をされているのでスマホをいまいち上手く使えていないみたいだけど、さっきからプロットを作っているあたり成功したとみていいはずだ。
つまり今回の『スキン・オブ・ヘッド』は我が身に輝くことになる。やっぱりいらないな。せんべいの数では伏原くんがトップだから彼に譲ってあげるとしよう。
「おい。ちょっと描いてみたんだが!」
そう言って『第2保管室』に入ってきたのは五郎さんだった。
そのゴツゴツした手にはルーズリーフがあって、例によって上手いイラストで埋め尽くされている。どうやら外で描いていたらしい。
彼は球技大会の準備に駆り出されていると知らされていた。もう終わっていたのなら中に入ってくれば良かったのに。
「ん、このイラストって」
「お前たちが話していた内容を描いたんだよ。みんなで皮モノを作ってたんだろ」
言外に寂しさがにじみ出ているけど、そんなことよりイラストの衝撃の方が大きかった。
なにせ――五郎さんの可愛い絵柄を持ってしても、皮モノのグロテスクさは拭いきれていなかったのだ。
いや、彼の絵だからこそグロく感じてしまうのかもしれない。皮モノなんてニッチな作風の絵を描いている方は往々にして自分の画風を持ってらっしゃる場合が多いけど、五郎さんの絵は流行に沿っている。つまり親しみやすさが半端ではない。
そんな絵で『女の子が脱皮している』『男がそれを着込んでいる』『皮の中にロウソクを入れている』『虚ろな目の女の子たちがウェイトレスをしている』『女の子が皮にされてしまう』なんてものを描かれてしまうと、すごくキツい。
「うわあ」
「これはボクもダメだ」
古参の同志たちも青ざめてしまっている。
その反応ぶりに五郎さんは「え?」と連呼するばかりだった。
× × ×
いつのまにか夕方になっていたので、四人で帰ることにする。
もっとも五郎さんは自転車通学なので早々に別れてしまい、仲田さんも道端で出会った中学生ちゃんのところに行ってしまって、そのまま戻ってこなかった。
なんでも「あの子からピンと来るものがある。取材したい!」とのことだった。
中学生ちゃん、たぶん僕に会いに来たはずなのに申し訳ないな。でも夕飯に間に合わなくなるのは避けたいので先に帰らせてもらう。世間では彼女の役目を殿(しんがり)と呼んだり呼ばなかったりする。
地下鉄の改札までは伏原くんと一緒だった。
僕が野田方面であるのに対して、彼は今里方面。谷町九丁目で谷町線に乗り換えるらしい。住んでいる街までは知らない。
「今日はお騒がせしました」
「ははは。なかなか盛り上がったね」
「そっちではなくて。仲田センパイと、自分のあんまり見せたくないところをセンパイに見せてしまいましたから」
伏原くんはイコカのカード入れをポケットに収める。
そして、伏目がちに僕の下へ近づいてくると、
「センパイはあの人の正体に気づかれましたか?」
「え、正体?」
「はい。仲田センパイの」
そう言われても、とにかくピエロだったからピエロだとしか。
それを正直に告げてみると、彼は「ですよね」と笑みを浮かべる。
「なにぶん、小生が1年かけても気づけませんでしたから。ニブいセンパイにわかるはずありませんか」
「よくわからないけど、もったいぶらずに教えてくれたらどうだい」
「あの人って女性なんですよ」
言い終えてから伏原くんは顔つきを曇らせる。
仲田さんが女の人だった……ビックリするよりも妙にしっくり来てしまうのは、彼女が大学生にしては小柄だったからだろうか。あるいは彼我のTSに対するスタンスに差を感じていたからかもしれない。
そうか。女性にもTSファンっているんだな。
「……仲田センパイの本名は仲田良子。良弘はペンネームなんです。あとは在学中の仮名でもありました。ずっと小生は良弘センパイと呼んでいましたし」
「どうして女性だと隠していたのかな?」
「小生も知りません。ただ卒業の時に教えてもらって……それからお互いに上手く接することができなくなっちゃいました」
彼は「自分をTSFに引き込んだオタクで厳しい良弘さんと、今のピエロな女子大生の仲田さんが結びつかないんですよね」と言って、深いため息をついた。
それが時折あったチグハグな接し方に繋がっていたみたいだ。
『いっそ女性化したんだと捉えてみたら?』
なんてことを安易に言ってしまいそうになるけど、彼なりに悩んでいるのだから慎重に考えてあげたほうが良さそうだった。
しかし……身近な人から「本当は女性でした」と告げられたわけか。
もし、伏原くんにそう告白されたら、僕はあっさりと信じるだろうけど、たぶん彼への接し方は変わってしまう。易々とTSの話なんてできないはずだ。
五郎さんにしてもそうだ。彼が女性だったら今までのように話せなくなる……いや、こっちは大して変わらないかもしれない。ほとんどの男はストライクゾーンから外れる女性に気を払わないからね(別に伏原くんがストライクゾーンだということではない)。
いずれにせよ、伏原くんの気持ちは十分に解せるものだった。
「……大丈夫。これくらいでキライにならないよ」
「センパイからそう言ってもらえると助かります……」
何となく彼の犬っぽい毛をわしわしと揉んでやりつつ。どうして僕がこの子から懐かれているのか、ちょっぴり考えさせられてしまう。
なぜ「ちょっぴり」なのかといえば、他のことにも意識を向けていたからだ。
例えば、それは近づいてくる千日前線の25系車両であり。
例えば、それは一つの感想でもある。
「……もし女性化するとしても、せめて仲田さんよりは大きくなりたいな」
「その件については小生も同意見です」
僕たちは小声で笑い合った。
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